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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
30/145

文化祭の形2

土曜の朝、一般公開が始まり、一般参加者の姿もちらほらと見え始めていた。


保護者や地域の人、誰かの小学生の弟や妹の声も混ざっていて、

いつもと違うにぎやかさが校舎の中にあった。


咲と悠の教室も、一段と活気づいていた。


「いらっしゃいませー!」

教室の外では、呼び込み係の女子たちが手作りのタピオカドリンクのメニュー看板を掲げていた。


悠は、カウンター内で今日も調理を担当していた。

作る手元は昨日よりも慣れて、注文が来るたびに自然に作り上げていった。


咲も昨日に続き、丁寧に袋詰め作業を行っていた。

咲が手一杯の時は、悠が袋詰めを手伝った。

悠の調理に余裕が無いときは、咲がカップを準備したりと、自然とお互いをフォローし合っていた。

それがなんだか、心地よく感じた。


そして、1時間ほどが過ぎたとき、


「すみません、次の班お願いしまーす!」


担当交代の声がかかった。



悠がエプロンを外して教室を出ると、教室前の廊下では「今日はどこ回る?」「あっちでクレープ売ってるよ」と声が飛び交っていた。


咲と悠はそれぞれの友人グループと合流し、校内を回っていった。


ミニ縁日コーナー。

理科室での謎解き脱出ゲーム。

吹奏楽部の演奏に、手芸部の展示。


悠は友達とひととおり校内を回ってからは、一人でふらりと図書室に立ち寄った。


図書室では特に出し物は行われていなかった。

照明はついていて、生徒の出入りもあったが、普段ほど人は多くない。

開けた窓から風が入って、カーテンがゆるく揺れていた。


カウンターの中には秋がいた。

悠が軽く会釈すると、秋もそれに応える。


ひとまずいつもの窓際の席に座ると、誰かが置いていった文化祭のパンフレットの端が風でめくれた。

廊下から聞こえてくる喧騒とはしゃぎ声が、なんだか心を落ち着かせた。


悠は新刊コーナーから持ってきた本を読み始める。

しばらく本を読みふけっていると、


「あれ、日向くん?」


背後から声がした。

振り返ると、咲が立っていた。


手にはパンフレットと、どこかで買ったらしい小さな袋を片手に提げている。


「藤音さんも来たんだ」


「うん。結構疲れちゃったから。こういうとき、いつもの場所がいいなって思って」


咲は悠の向かいの席に座って、机の上に袋を置いた。

中から、ちょこんとクッキーの包みが顔をのぞかせる。


「家庭科部のやつ。すごく人気だったみたい」


「へぇ、買えたんだ」


「うん、私が買おうとしたらもうほとんど無かったから、運がよかったのかも」


それだけの会話だった。

少しの沈黙が流れた後、咲がスマホを開きながら静かに言った。


「文化祭も、もうすぐ終わりだね」


「うん。今年は楽しかったかも」


それを聞いて咲がふっと笑った。

そして、机の上の袋の中から、個包装されたクッキーをひとつ、悠のほうへ差し出した。

白黒のチェック模様だった。


「よかったら食べない?……ちょっと甘いかもだけど」


「いいの?ありがとう」


悠が包みを受け取ったそのとき、

校内放送が、やや低めのトーンで告げた。


「本日の文化祭はこれにて終了となります。

各クラスの生徒は、速やかに教室に戻って後片付けをしてください。繰り返します──」


その言葉を聞いて、悠は読んでいた本を閉じて、机の上に置いた。


「もうこんな時間だったか。クッキー、ありがとう。後で食べるね」


悠は差し出されたクッキーをそっとポケットに入れると、

咲は「うん。うっかり叩いて二つにしないでね?」と笑いながら言った。


「それ、ビスケットじゃん……気を付けるよ。じゃ、戻ろうか」


「うん」


並んで図書室を出る咲と悠の背中を、秋は黙って見送っていた。

遠くの廊下からは、すでに片づけを始めたクラスメイトたちの声が飛び交っていた。

自分たちの教室へと向かう咲と悠の足音は、まだ文化祭の空気を纏った軽快な足音のリズムのままだった。

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