文化祭の形2
土曜の朝、一般公開が始まり、一般参加者の姿もちらほらと見え始めていた。
保護者や地域の人、誰かの小学生の弟や妹の声も混ざっていて、
いつもと違うにぎやかさが校舎の中にあった。
咲と悠の教室も、一段と活気づいていた。
「いらっしゃいませー!」
教室の外では、呼び込み係の女子たちが手作りのタピオカドリンクのメニュー看板を掲げていた。
悠は、カウンター内で今日も調理を担当していた。
作る手元は昨日よりも慣れて、注文が来るたびに自然に作り上げていった。
咲も昨日に続き、丁寧に袋詰め作業を行っていた。
咲が手一杯の時は、悠が袋詰めを手伝った。
悠の調理に余裕が無いときは、咲がカップを準備したりと、自然とお互いをフォローし合っていた。
それがなんだか、心地よく感じた。
そして、1時間ほどが過ぎたとき、
「すみません、次の班お願いしまーす!」
担当交代の声がかかった。
悠がエプロンを外して教室を出ると、教室前の廊下では「今日はどこ回る?」「あっちでクレープ売ってるよ」と声が飛び交っていた。
咲と悠はそれぞれの友人グループと合流し、校内を回っていった。
ミニ縁日コーナー。
理科室での謎解き脱出ゲーム。
吹奏楽部の演奏に、手芸部の展示。
悠は友達とひととおり校内を回ってからは、一人でふらりと図書室に立ち寄った。
図書室では特に出し物は行われていなかった。
照明はついていて、生徒の出入りもあったが、普段ほど人は多くない。
開けた窓から風が入って、カーテンがゆるく揺れていた。
カウンターの中には秋がいた。
悠が軽く会釈すると、秋もそれに応える。
ひとまずいつもの窓際の席に座ると、誰かが置いていった文化祭のパンフレットの端が風でめくれた。
廊下から聞こえてくる喧騒とはしゃぎ声が、なんだか心を落ち着かせた。
悠は新刊コーナーから持ってきた本を読み始める。
しばらく本を読みふけっていると、
「あれ、日向くん?」
背後から声がした。
振り返ると、咲が立っていた。
手にはパンフレットと、どこかで買ったらしい小さな袋を片手に提げている。
「藤音さんも来たんだ」
「うん。結構疲れちゃったから。こういうとき、いつもの場所がいいなって思って」
咲は悠の向かいの席に座って、机の上に袋を置いた。
中から、ちょこんとクッキーの包みが顔をのぞかせる。
「家庭科部のやつ。すごく人気だったみたい」
「へぇ、買えたんだ」
「うん、私が買おうとしたらもうほとんど無かったから、運がよかったのかも」
それだけの会話だった。
少しの沈黙が流れた後、咲がスマホを開きながら静かに言った。
「文化祭も、もうすぐ終わりだね」
「うん。今年は楽しかったかも」
それを聞いて咲がふっと笑った。
そして、机の上の袋の中から、個包装されたクッキーをひとつ、悠のほうへ差し出した。
白黒のチェック模様だった。
「よかったら食べない?……ちょっと甘いかもだけど」
「いいの?ありがとう」
悠が包みを受け取ったそのとき、
校内放送が、やや低めのトーンで告げた。
「本日の文化祭はこれにて終了となります。
各クラスの生徒は、速やかに教室に戻って後片付けをしてください。繰り返します──」
その言葉を聞いて、悠は読んでいた本を閉じて、机の上に置いた。
「もうこんな時間だったか。クッキー、ありがとう。後で食べるね」
悠は差し出されたクッキーをそっとポケットに入れると、
咲は「うん。うっかり叩いて二つにしないでね?」と笑いながら言った。
「それ、ビスケットじゃん……気を付けるよ。じゃ、戻ろうか」
「うん」
並んで図書室を出る咲と悠の背中を、秋は黙って見送っていた。
遠くの廊下からは、すでに片づけを始めたクラスメイトたちの声が飛び交っていた。
自分たちの教室へと向かう咲と悠の足音は、まだ文化祭の空気を纏った軽快な足音のリズムのままだった。




