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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
3/104

もうひとつのかけら

四月の風は、午後になると少しだけ冷たくなる。

窓から射す光が、放課後の図書室の床に長い影を落としていた。


咲は、いつもの窓際の席にいた。

ページの端をそっとなぞる指先と、本に挟まれた、花のシールが貼られた小さなしおり。

そのすべてが静かな放課後と重なり合い、時間はゆるやかに進んでいった。


そのとき、ページから視線を上げた咲の目に、ささやかな動きが映る。


本棚のあいだにある細い通路。

悠が、しゃがんで何かを拾い上げていた。

白く折れた紙片──図書室の本に挟まれていた紹介カードのようだった。


誰かが落としたのか、床の隅に風で飛ばされていたのか。

紙には、誰かの足跡がうっすらとついているようだった。それを、悠はそっと拾い上げた。

カードの折れた端を指で軽くなぞりながら、視線をゆっくり動かして本棚を探していた。


慣れた動きではなかった。

でも、丁寧だった。

雑に扱えばすぐ折れてしまいそうな紙に、優しく手を添えていたからだ。

そして、元の位置と思しき場所を見つけ、その場所へそっと戻していた。



咲は、そのしぐさが不思議と胸に残るのを感じた。


誰にも頼まれていない。役割でもない。

けれど、見過ごせなかったから、ごく自然に拾った。

咲には、そう見えた。それがとても、あたたかく思えた。


光が揺れ、風がカーテンを揺らす。

春の気配が部屋に満ちていた。

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