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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
29/145

文化祭の形1

金曜日。文化祭の1日目があわただしく始まっていた。この日は校内向けのみ。

午後に入って、咲と悠の教室はにぎわっていた。


黒板には色とりどりのチョークでタピオカドリンクのメニューが描かれていた。

机を三つ並べて即席のカウンターに仕立てた店には、買いに来た生徒たちの姿があった。


悠は店の裏手の調理スペースで湯気の上がる鍋に向かっていた。

鍋の中に沈んでいるタピオカを菜箸でゆっくりかき混ぜている。


悠の隣の冷蔵ボックスには、仕込んでおいた冷たいミルクティーのボトルが何本も並んでいた。

そしてその横にはシロップに入ったタピオカがあった。


「ストロベリーと抹茶ひとつずつでーす!」


注文受付係が、声を張って呼ぶ。

それを聞いた悠は手早くカップにミルクティーとタピオカ、そして味付けのシロップを注ぐ。


「ストロベリーと抹茶だね。はい、これ」

悠が咲に渡すと、咲は「うん。ありがとう」と言って受け取る。


咲は、調理スペースと受け渡しの間にあるテーブルで袋詰め作業をしていた。

悠から受け取ったカップのふちを軽くふき、規定の位置にストローを差し、ラベルを確認する。

その後、前列の受け渡し係へと手渡す流れになっていた。


咲の隣で一緒に袋詰めをしていた女子が、手を止めてぼそっと言う。


「……このふたり、めっちゃ息合ってない?」


その声を聞いた男子が、笑いながらつぶやいた。


「これ、同じ班にしたの正解だったな」


咲は照れたように笑いながらも、手を止めなかった。

悠は苦笑しながら「いや、俺そんなできてないって」と返したが、

本気で否定はしなかった。

やがてピークが過ぎ、交代の時間に声がかけられる。


「お疲れー、次の班お願いしまーす」


咲と悠を含めた班がぞろぞろとカウンターを出ていく。


エプロンをはずして、教室の後ろのほうで片づけをしていた咲がぽつりと言った。


「お疲れ様。……なんだか忙しくて、あっという間に感じちゃった」


「藤音さんもお疲れ。俺も、1時間ってこんなに短かったっけ?って思ったな」


悠も、隣で使い終わったカップの空箱をまとめながら答えた。


「明日は一般公開だから、もっと混むよ」


「そうだね。…でも、なんか楽しみかも」


小さく笑う咲の横顔には、今日一日の達成感がにじんでいた。

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