文化祭の欠片3
タピオカミルクティーの試作会が終わって、校門を出た帰り道。
空はうっすらと秋色の気配に染まっていて、少し涼しくなった風が頬をなでた。
咲は制服の袖を少し引っ張り、それからバッグを肩に掛けなおした。
隣には、悠の姿があった。
「……なんか急にどっと疲れが出てきた」
先に口を開いたのは悠だった。
「うん。明日、ちゃんと起きられるかな……」
咲が、小さく笑って答える。
「俺、たぶん風呂で寝ると思う。もう目が限界」
「それ、絶対のぼせるよ」
ふたりの笑い声が、帰り道の住宅街に響いていた。
少し歩いたところで、蝉の声が耳に入った。
ヒグラシだった。でも、もう9月。わずかに残った鳴き声が木々の間からかすかに響いていた。
咲は歩みを止め、遠くに沈むオレンジ色の空を見た。
悠も立ち止まり、同じ空を見上げた。
「……なんだか、夏休みの帰り道を思い出すね」
「図書館の?」
「うん。……ヒグラシの声、まだ残ってるんだね」
「たしかに。あのときも、こんな感じだったなあ。鳴き声はもっと多かったけど」
悠は咲のほうに顔を向けて、問いかけた。
「文化祭、大丈夫そう?」
咲は少しだけ考えて、首をかしげた。
「うん。ちゃんと、準備は出来てるし。多分大丈夫。……日向くんも、いろいろありがとう」
咲の声は小さかった。でも、その声は、ちゃんと悠に届いていた。
悠は、前を向いたまま少し笑って、「どういたしまして」とだけ返した。
並んで歩く二人の影が、夕日に伸びていく。
騒がしかった一日は、今ようやく静けさを取り戻していた。




