文化祭の欠片1
放課後の教室に、ざわめきが広がっていた。
文化祭の出し物を決める話し合いが進み、ひととおりの候補を出し終わったところだった。
「飲食系なら、人も来やすいしね」
「クレープは去年やったけど大変だったし、今年はドリンクにしよ」
「タピオカって、まだ人気あるよね?」
前のほうで声を交わす女子たちのやりとりに、何人かがうなずく。
男子も何人かが軽く笑いながら、賛成とも反対ともつかない声を上げた。
「じゃあタピオカでいいんじゃない?」
誰かが口にすると、教室の空気が自然とそちらへ流れていった。
誰かが決定権を持っているわけではない。
でも、あまり強く反対する空気もなく、あっさりと「それで決まり」という雰囲気が形になっていく。
悠は、いくつか挙がった案のなかでは一番現実的だと思った。
言ってしまえば、時間を決めて茹でるだけで、とても見栄えのいいものができる。
悠も、あのカラフルなタピオカがまるで宝石箱みたいで、子供のころから好きだった。
隣の席の男子が「タピオカかぁ。映えるのが勝ちだな」と小さく笑って言っていたので、
「映えはやることやれば、それっぽくなるからな」とだけ返しておいた。
実行委員が特徴的な字で、黒板に「タピオカ(仮)」と書いていた。
なおも女子たちは盛り上がっていた。
「カップにラベルとかシールとか貼って、可愛くしない?」
「それいいね。あと、備品も整理しなきゃだし、細かい担当決めよ」
視線がちらほらと、教室内をめぐる。
「……咲ちゃん、細かいの得意そう」
誰かのそんな声がしたあと、数人がうなずいた。
前のほうに座っていた咲を見ると、不意に名前を呼ばれて驚いたように顔を上げていた。
それからあたりを小さく見回してから、控えめに頷いた。
「助かるよ、ありがとう、よろしくね。
じゃあ、備品担当は藤音さんと…あと数人ほしいな。」
その一言が返されて、黒板には咲の名前と、女子数人の名前が書かれた。
それからすぐにまた、別の話題へと移っていった。
調理担当の話題になり、すでに男子三名の名前が挙がっていた。
「あとは……悠くんとか。どう? やってもらっていい?」
悠は、自分の名前が呼ばれても驚かなかった。
「いいよ」とだけ返した。
黒板には、役割と担当者の名前がびっしりと書かれていた。
文化祭のまとめ役の生徒が、元気な声で
「じゃ、こんな感じで!近々試食会やろうね」
と言った。
悠はその様子を一歩引いた目線で見ていた。
だけど、ふと前のほうに座る咲に目を向けると、ノートに何かをカリカリとメモしている姿が見えた。
段取りのメモでもしているのだろうか。
(藤音さん、割と気合入ってるのか……?)
その様子を見ていると、「自分もやらないとな」という使命感のようなものが湧いてきた。




