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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
25/145

夏休みが終わって

始業式の朝。


教室の窓の外からは、まだ蝉の声が聞こえていた。もう終わる夏に、まだ必死にしがみついているようだった。

咲は、席に着いたままぼんやりと窓の外を眺めていた。

空の青さには、どこか秋の気配が混じりはじめていて、

今年の夏はもう、戻ってはこないのだとなんとなく察していた。


廊下を流れていく足音や話し声に、

教室の空気が少しずつ日常の形を取り戻していく。


「ねえ、宿題やばかったって!」

「あれ、提出物、どこ置いたっけ」

「日焼けしたね~」


そんな声が、教室の中に広がっていた。

夏休みという長い夢から一気に現実へと戻るような、そんな喧騒だった。


咲の机の上には、提出用の宿題の一式が置いてあった。


夏祭りのあとも、宿題で訪れた図書館で何度か悠と顔を合わせた。

そして、図書館の帰り道。

ヒグラシの声がやさしく響く夕暮れ、ふたりで並んで歩いた道。

特別な言葉は交わしていない、それだけの、短い記憶。

なのに、あの時の心地よさが、どうしても今までの夏休みの何よりも心に残っていた。

その記憶を思い出しながら、教室のざわめきを聞いていた。


「藤音さん、おはよ」


ふいに飛んできた声に、咲は少しだけ顔を上げた。

登校したばかりで、席に向かう途中の悠だった。


「あ、おはよ。宿題、ちゃんと持ってきた?」


「うん。大丈夫なはず」


それだけの短いやり取りだったけど、夏休みが明けて、新学期に入った実感が沸いた。



始業式が終わった午後、

ふたりは借りた本を返しに、図書室の扉を開けた。


同じことを考えていた生徒は、他にもいた。

カバンから返却する本を取り出す人、

夏休みに読んだ本の続きを借りるため、カウンター前で並ぶ人。

高い本棚の間にも、ちらほらと人の気配があった。


咲と悠も、それぞれの本を返却棚へ丁寧に並べた。


「なんだかここも久しぶりな感じがするね」


咲がぽつりとつぶやいた。


悠は返却棚に誰かが乱雑に置いた本を整えながら「夏休み、長かったもんね」と答えた。


「うん。まあ、日向くんとは図書館で会ってたけどね」


「おかげさまで、俺の宿題も捗った気がしたよ」


それ以上会話はなかったけれど、その短いやりとりだけで、図書室の日常が再開した気がした。

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