夏休みの日常
県立図書館の二階、閲覧席の一角。
窓の外では、木々が陽の光を受けて穏やかに揺れていた。
咲は、国語のワークブックを開いたまま、ため息をついた。
あと三ページ進めたいのに……集中力は途切れていた。
ふと顔を上げると、数席向こうに見慣れた姿があった。
(あれ?)
咲がそう思って視線を向けると、同じタイミングでこちらを向いていた。
悠だった。
驚いた表情のまま、ふたりは数秒視線が交差し、
そして、同時に、ふっと笑ってしまった。
にぎやかにしてはいけない空間で、
同じことを思って同じ反応をしてしまったことが、
なぜかおかしくて、うれしかった。
悠が笑顔で、咲に向かって小さく手を振った。
咲も、小さく返した。
それ以上は、再びノートへと向き直った。
閉館の時刻になり、咲がノートを閉じて帰宅準備を始めると、
悠も帰る準備をしていた。
咲が立ち上がると、悠も席を立つ。
ふたりは自然と合流して、入り口へと向かった。
悠は白い半袖シャツとジーンズの組み合わせという、少しだけラフな格好をしていた。
髪は心なしか伸びかけていて、前髪が少しだけ眉にかかっていた。
対して咲は、部屋着に近いTシャツの上から、くしゅっとした薄手の羽織りを無造作にかけているのと、ゆったりしたロングスカートだけだった。
「どうせ知り合いには会わないだろう」と思って選んだ服がなんとなく気になって、わずかに顔が熱くなった。
そんなことを考えていると、悠が口を開いた。
「藤音さん、宿題しに来てたの?」
「うん。……日向くんも?」
「うん。図書館なら集中できるしね。バイト先にも近いし」
そういう悠に、咲は視線を合わせられなかった。
今日の自分の服が気になっていた。
けれど、悠はなにも言わなかった。
最初は、気を使っているのかもしれない、と思った。
または……
(日向くん、相手の服装を気にしないタイプなのかな)
そんな考えが浮かぶと、今まで気にしていたのがウソみたいに楽になって、小さく笑ってしまった。
その様子をみた悠は、少し不思議そうな顔をしながらも、ポケットから取り出したスマホで時刻を確かめていた。
「じゃあ俺、これから夏祭りのバイトだから、そろそろ行くね。」
「うん。がんばってね」
「ありがとう。藤音さんもね。また宿題しに来るかも。」
そう言って、悠は走っていった。
咲は、離れていく悠の背中を見つめていた。




