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言葉の風景5
書き終わった提出用紙はノートに挟んでいた。
風が吹くたびに、紙の端がパタパタと動いた。
もう書き終わったけど、ふたりはすぐに立ち上がろうとはしなかった。
咲は空を見上げた。
中庭の上には、雲の切れ間から柔らかい陽が降りてきていた。
その光が、悠の髪の一部をほんのり金色に透かしていた。
咲はふと、足元の花びらに目を向けた。
そのうちの一枚が、風に乗って咲の手にあるノートの上へと舞い降りた。
それが、なぜか愛おしく感じられた。
咲が目を閉じて小さく息を吸うと、午後の空気に混じった花と土の香りが鼻をくすぐった。
隣に座る悠も何も言わなかった。
この静けさを受け入れているように見えた。
今、ふたりは沈黙を選んでいた。
何も語らなくても、何かが少しずつ伝わる気がした。
時間はゆっくりと、でも確かに進んでいた。
風がベンチの下を通り抜ける。
それに合わせて、ノートの花びらが再びふわりと空に舞っていった。




