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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
13/145

言葉の風景2

「それでは、準備ができた方から始めて結構です。授業時間が終わる前には戻ってきてくださいね」


その言葉を皮切りに、教室の空気が動いた。


あちこちで、椅子が控えめな音を立てて引かれ、

足音が教室から廊下へと移っていく。


ひとりで出ていく人もいれば、友達と誘い合って出ていく人もいた。

教室内ではにぎやかだった人も、ひとたび廊下に出れば声を抑えめにしていた。

ほかのクラスへと配慮をしているのだろう。


咲はまだ教室にいた。

どこに行くのか決めきれないまま、筆記用具と用紙を手に、廊下へと向かった。


ひとりで廊下に出て、とりあえず旧校舎の屋上に行ってみようと決めた。

いつもは足を踏み入れないような場所に行ってみたかった、というのが理由だった。


現校舎と旧校舎はすべての階が渡り廊下でつながっている。

旧校舎へと続く廊下を歩いていくと、前方にひとりの男子生徒の姿が見えた。

悠だった。


きっと悠も旧校舎のどこかに向かっているのだろう。

咲は後をつけているような気分になり、少しだけ道を変えた。


階段を上って、一番上の階から旧校舎の廊下へ出た。

この廊下を曲がった先の突き当たりに、屋上へ行くための階段がある。

咲は静かにそこへ向かった。


旧校舎のわずかに低い天井と、歩くたびに小さくギシギシと鳴る床。

廊下の窓は換気のためか少し開けられていて、そこから心地よい風が入ってきた。

窓の外は、青空が広がっている。


旧校舎の教室は普段の授業では使わない部屋が多い。

物置になってたり、たまに特殊な授業で使われるぐらいだった。

昔は何かに使われていたのだろうが、教室の上の表札はすべて取り外されていて、用途はわからなかった。


きっと、一日に訪れる人も少ない場所だろう。

だけど、咲はこの静かな空気が好きだった。


廊下を曲がったときに、前方にまたしても男子生徒の影があった。

やはり、悠だった。

咲には気づいていないようだ。


これは、行き先は同じかもしれない。

そう思って、咲は少し笑ってしまった。



ふと、前を歩く悠が足を止めて壁を見つめていた。

思わず、咲も足を止めた。

離れた場所から悠を観察するような形になってしまった。


悠はそっと手を伸ばして、何かをしている。そして、すぐにまた奥へと歩き始めた。


咲もそれに合わせるように歩き始めた。

完全に尾行だな、と思った。


さっき悠が立ち止まった場所で、咲は足を止めた。

そこには、誰かが書いたポスターの絵が貼ってあった。

少し色褪せている。

その右下の一部が破れていた。たぶん、風か何かで一部がはがれたのだろう。

そして、その破れた個所の内側に画びょうが刺さっていた。


悠が手を伸ばしていた場所と一致している。

一部が破れたポスターを固定しなおしたのだろうか。


「……」


咲は少しの間、そのポスターに気を取られていた。その時、


「あれ、藤音さん?」


いつの間にか、そばに来ていた悠が話しかけてきた。

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