言葉の意味2
悠の背後で、図書室のドアが静かに閉まる音が聞こえた。
悠はまだ頬の熱を感じながら、ゆっくりと歩いていた。
後ろから、小さな足音が小走りで近づいてくる。
「日向くん」
悠を呼ぶ声が、背中越しに届いた。
悠が振り向くと、そこには照れくさそうに笑っている咲がいた。
「あ……藤音さん」
「さっきの本、借りたんだね。……私も以前、読んだんだ」
「うん。なんか続きが気になって」
「なんか、序盤から引きずり込まれるよね。私、そのシリーズ好きなんだ」
そう言って、咲は嬉しそうな顔をしていた。きっと、この本が本当に好きで、それを手に取った悠に親近感を覚えたのだろう。
「ああ、わかる。まだ最初のほうしか読んでないけど」
悠はそこまで答えて、ふと口をつぐんだ。そして、静かに続けた。
「……あのさ、このページの破れを直したの、藤音さんだよね?」
「え、あ……うん、直したけど、私が破いたわけじゃなくて……破れてたから直しただけ」
そこで、咲は少し首をかしげて不思議そうな顔をした。
なんで知ってるんだろう?というような、そんな表情だった。
「あ……実は以前、本を直してるの、見てたんだ。なんか、それが優しいなって思って……」
その言葉を聞いた咲は、目を見開いた。
まさか、見られていたなんて…。
そんな驚きを感じているようだった。
「そっか……見られてたんだ」
そう言って、咲は小さく笑った。それは、照れ隠しを含んだように見えた。
悠は少しだけうつむいたあと、小さくうなずいた。
「うん……なんか、たまたま見ちゃっただけっていうか。
その……勝手に印象に残ってたっていうか……」
咲は悠のその言葉を聞いて、また笑った。
「実は私も、知ってたんだ。
日向くんが本を直してたり、紹介カードを拾って戻してたりしてるの」
悠の視線が少しだけ揺れた。
自分の無意識な行動を、咲が見ていたと初めて知った。
「え、あ……それ、気づいてた?」
「うん。……誰にも見られてないと思ってた?」
咲が優しく、でも少しだけいたずらっぽく言った。
悠は、口元を緩めながら、小さくため息をついた。
「……ばれてたか」
「うん。ばれてた」
二人は短く笑った。
その笑い声が、夕方の廊下にかすかに響いて消える。
廊下の遠くからは、誰かの「ばいばい!」という声が響いてきていた。
それに倣うように、咲は
「じゃあ、私ちょっと教室に寄っていくから。また明日ね」
と言って小さく手を振り、階段のほうへゆっくりと歩き始めた。
「うん、じゃあまた」
悠も小さく手を振って、その背中を見送った。
胸の中には、咲の言葉があたたかく反響していた。




