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優しい灯  作者: 豆大豆
1章
11/145

言葉の意味2

悠の背後で、図書室のドアが静かに閉まる音が聞こえた。


悠はまだ頬の熱を感じながら、ゆっくりと歩いていた。

後ろから、小さな足音が小走りで近づいてくる。


「日向くん」


悠を呼ぶ声が、背中越しに届いた。

悠が振り向くと、そこには照れくさそうに笑っている咲がいた。


「あ……藤音さん」


「さっきの本、借りたんだね。……私も以前、読んだんだ」


「うん。なんか続きが気になって」


「なんか、序盤から引きずり込まれるよね。私、そのシリーズ好きなんだ」


そう言って、咲は嬉しそうな顔をしていた。きっと、この本が本当に好きで、それを手に取った悠に親近感を覚えたのだろう。


「ああ、わかる。まだ最初のほうしか読んでないけど」


悠はそこまで答えて、ふと口をつぐんだ。そして、静かに続けた。


「……あのさ、このページの破れを直したの、藤音さんだよね?」


「え、あ……うん、直したけど、私が破いたわけじゃなくて……破れてたから直しただけ」


そこで、咲は少し首をかしげて不思議そうな顔をした。

なんで知ってるんだろう?というような、そんな表情だった。


「あ……実は以前、本を直してるの、見てたんだ。なんか、それが優しいなって思って……」


その言葉を聞いた咲は、目を見開いた。

まさか、見られていたなんて…。

そんな驚きを感じているようだった。


「そっか……見られてたんだ」

そう言って、咲は小さく笑った。それは、照れ隠しを含んだように見えた。


悠は少しだけうつむいたあと、小さくうなずいた。


「うん……なんか、たまたま見ちゃっただけっていうか。

その……勝手に印象に残ってたっていうか……」


咲は悠のその言葉を聞いて、また笑った。


「実は私も、知ってたんだ。

日向くんが本を直してたり、紹介カードを拾って戻してたりしてるの」


悠の視線が少しだけ揺れた。

自分の無意識な行動を、咲が見ていたと初めて知った。


「え、あ……それ、気づいてた?」


「うん。……誰にも見られてないと思ってた?」


咲が優しく、でも少しだけいたずらっぽく言った。

悠は、口元を緩めながら、小さくため息をついた。


「……ばれてたか」


「うん。ばれてた」


二人は短く笑った。

その笑い声が、夕方の廊下にかすかに響いて消える。

廊下の遠くからは、誰かの「ばいばい!」という声が響いてきていた。


それに倣うように、咲は


「じゃあ、私ちょっと教室に寄っていくから。また明日ね」


と言って小さく手を振り、階段のほうへゆっくりと歩き始めた。


「うん、じゃあまた」


悠も小さく手を振って、その背中を見送った。

胸の中には、咲の言葉があたたかく反響していた。

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