表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しい灯  作者: 豆大豆
2章
109/145

優しい灯⑤

雨は止むことなく降り続け、雨音はまるで祭囃子の太鼓のように小屋の中に響き渡る。

数メートル先さえ見えなくなり、地面の水しぶきは絶え間なく上がっていた。



「……折りたたみ傘、折れちゃったのか」


日向くんは、ベンチに置いた私の傘を見ながら言った。


「うん……結構古かったから……」


私の傘を手に取り、直せないか試すようにあちこち触っている。


「骨が折れてる……もう直せないな……」


それでも何とか、折れた骨をあるべき場所に収めて畳んでくれた。

そして、折れた傘を労うかのようにポンポンと叩き、私に渡してくれた。

私はそれを見て、いつもの日向くんだなあ、と思って、少し笑ってしまった。



「……これ、いつ止むか分からないね。駅に行こう」


不意に、夏海さんが言い出した。


「……しょうがないか。藤音さん、行ける?」

「うん……あ、でも、傘……」


また日向くんの傘に入れてもらうのだろうか。

それはありがたいし、嫌ではないのだけれど、また日向くんが自分を濡らしてまで私を守ろうとしないかが心配だった。


「……夏海さん、藤音さんを入れてあげられる?」


と言うか、そもそも恥ずかしがってる気がする。

さっきは入れてくれたのになあ。


「いやいや!これは悠くんの役目でしょ!はい!さっさと準備して!」


そう言って、夏海さんは日向くんに無理やり傘を持たせて雨の中に立たせた。


「……ほんと強引だな」と呟く日向くん。だけど、その顔は笑みが含まれていた。

「はい、咲ちゃんも入った入った」


私もそっと背中を押されて、日向くんの傘に一緒に入った。

そして、やはり日向くんは傘の中心を私に合わせて、肩がはみ出ていた。


「んー??」夏海さんは私と日向くんの間にできた隙間を見ていた。


「それじゃ濡れるでしょ!恥ずかしらずにもっとくっついて!」


そして、急に私と日向くんの肩を掴んで、ぐいっとくっつけてきた。


「うわっ?」「きゃっ……」


思わず同時に声が出てしまった。


「ほら、これなら大丈夫でしょ!そんな大きな傘で濡れる方がおかしいんだって」


私の肩に、日向くんの腕が密着して、冷えたはずの体が熱くなるのを感じた。

「……私、服が濡れてるから、くっつくと日向くんが……」申し訳なさからそう言うと、

「いや、俺ももう結構濡れてるから気にしないで」

と、日向くんは照れたように笑っていた。


夏海さんは「よし、咲ちゃんのカバン貸して」と言った。

「え、いいよ……」と言う間に、夏海さんは半ば強引に、私のカバンを持ってくれた。


「……ありがとう。でも、重くないの……?」私が聞くと、

「ぜんぜん平気。悠くん、咲ちゃんを『しっかり』守ってあげてね?」

ニヤリと笑いながら言った。

多分、もっとくっつけ、って言いたいんだと思う。

日向くんもそれに気づいたのか、私と顔を見合わせて、お互い笑いあった。


そして、三人でゆっくりと駅に向かって歩き出した。


夏海さんが私のカバンを持ってくれて、

日向くんは私にぴったり寄り添いながら、出ないように傘の角度を合わせながら歩いてくれた。

頭上に広がる黒い傘の中は、小屋の中よりもずっと安心感があった。


途中、周りを見ると、ビルの屋根からは、小さな滝のように水が落ちていて、

地面には小さな川のような流れが出来ていた。


雨はまだ止まない。

だけど、いつの間にか体だけじゃなく、気持ちまで軽くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ