優しい灯④
「悠くん!咲ちゃん見てない!?」
そう言って戻ってきた夏海さんは、さしてきた傘を畳んで小屋に入ってきた。
そして、ベンチに座った私を見つけた瞬間、
「あ、咲ちゃん!……ずぶ濡れじゃない」
と言い、自分のカバンから取り出したタオルで私の頭を拭き始めた。
「な、夏海さん、どうしたの?」
突然のことにあっけにとられた私はそう言うしかなかった。
「すごい濡れてるんだもん…このままじゃ風邪ひいちゃうよ。あ、このタオル、私が部活で使ってたやつ。洗ってあるけど、気になったらごめんね」
頭をわしゃわしゃと拭かれて、私はされるがままに頭が左右に揺れる。
そのあと、夏海さんは自分の上着を脱ぎ、濡れた私の服の上からそっと掛けてくれた。
「待って、私の服、ずぶ濡れだから……」
「いいからいいから。少しでも違うでしょ」
濡れた服の上にかけられた、夏海さんの上着。
体を冷えたままだけど、胸の中から温かいもので満たされる感覚があった。
収まったと思った涙が、またあふれてきて、両手で顔をおさえた。
どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
「どうして…」
つい、言葉になってしまった。
「ふたりとも、そんなに、優しいの……」
それが精いっぱいの言葉だった。
夏海さんが隣に座って、私の背中に手を置く。
それから、笑いながら言った。
「友達だもん」
いつもの明るい笑顔だった。
元から、夏海さんに悪意が無いのは分かり切っていた。
それなのに、私の方から壁を作ってしまった。
夏海さんは今、その壁すら軽々と乗り越えてきた。
そして、私の中に自然に居場所を作って、隣に座っているような、そんな感覚だった。
その強引さに、心から救われるように感じた。
雨は止む気配がなく、むしろますます強まって、数メートル先すら見えないぐらいだった。
それでも、この小屋の中でふたりに囲まれている私は、もうつらくなかった。




