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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
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優しい灯③

「……大丈夫か?」


日向くんは小さくつぶやく。

その顔は、なぜか泣きそうになっているように見える。

彼はそっと手を差し伸べてきた。


「……立てる?」


私は泣いているところを見られて恥ずかしい気持ちと、どうしてここに日向くんが?という戸惑いが混じり、少しの間動けなかった。けれど、差し伸べられたその手をそっと掴んだ。


日向くんの手は温かく、私の手を優しく引っ張って、立ち上がらせてくれた。

私が立ち上がったのを確認すると、日向くんは手を離し、「雨宿りできるところに行こう」と言った。


私がうなずくと、私たちは肩が触れそうな距離で、ひとつの傘の下に収まった。

それから、歩幅を合わせるようにゆっくりと歩きだした。


道中、私は嗚咽が止まらなかった。

それでも日向くんは何も言わず、私が傘からはみ出ないように寄り添ってくれていた。


道路側を歩く日向くんに、通りがかった車がバシャッと水を跳ね上げる。

私は身構えたが、日向くんはよけようともせず、私にかからないように体の角度を変えるだけだった。日向くんの全身に容赦無く水がかかった。


そのとき、ようやく気づいた。

日向くんは私がこれ以上濡れないように、身を挺してずっと守ってくれているんだ。

日向くんの体は傘に入りきっていない。髪から肩口にかけて雨が当たり、傘から垂れた雨水を吸った制服の肩は色濃く染まっていた。


その気持ちと申し訳なさが胸にしみて、

「…っひぐ……日向くん……ごめ、んね……」

なんとか声を絞り出そうとしたが、うまく言葉にならなかった。

傘を日向くんの方に寄せようとしたが、日向くんはそっと押し戻してきて、「大丈夫。こっちは慣れてるから」と言って、軽く笑った。


その笑顔を見た瞬間、胸の奥が熱くなり、さらに涙があふれてきた。


袖で涙をぬぐい、鼻をすする。それでも止まらない。

こんなみっともないところ、見られたくなかったのに。

今はそばにいてくれるのが、どうしようもなく嬉しかった。



やがて、私たちはバス停の待合小屋の中に避難した。

薄暗い小屋の中には、古くなったベンチがあり、片隅に空き缶やごみが置かれていた。

私がベンチに座ると、日向くんは静かに傘を畳んだ。それから何も言わずに、隣にそっと腰を下ろした。


私たちの濡れた服からぽたぽたと落ちた水滴が集まって、足元に小さな水溜まりを作っていく。


小屋の中には、打ち付ける雨の音と、私の止まらない嗚咽だけが響いていた。

その間、日向くんは声をかけるでもなく、ただ、じっと隣に居てくれた。


そのまま少しの時間が過ぎて、嗚咽がようやく落ち着いてきたとき、パシャパシャと遠くから足音が聞こえてきた。

雨の中を走っているようだった。

音はどんどん近づいてきて、小屋の前を足音の主が通り過ぎた。


夏海さんだった。


小屋には目もくれず、前だけを見て走っていった。


「夏海さん!」


日向くんが小屋から顔を出して、雨の音に負けない声で呼び止めた。

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