優しい灯③
「……大丈夫か?」
日向くんは小さくつぶやく。
その顔は、なぜか泣きそうになっているように見える。
彼はそっと手を差し伸べてきた。
「……立てる?」
私は泣いているところを見られて恥ずかしい気持ちと、どうしてここに日向くんが?という戸惑いが混じり、少しの間動けなかった。けれど、差し伸べられたその手をそっと掴んだ。
日向くんの手は温かく、私の手を優しく引っ張って、立ち上がらせてくれた。
私が立ち上がったのを確認すると、日向くんは手を離し、「雨宿りできるところに行こう」と言った。
私がうなずくと、私たちは肩が触れそうな距離で、ひとつの傘の下に収まった。
それから、歩幅を合わせるようにゆっくりと歩きだした。
道中、私は嗚咽が止まらなかった。
それでも日向くんは何も言わず、私が傘からはみ出ないように寄り添ってくれていた。
道路側を歩く日向くんに、通りがかった車がバシャッと水を跳ね上げる。
私は身構えたが、日向くんはよけようともせず、私にかからないように体の角度を変えるだけだった。日向くんの全身に容赦無く水がかかった。
そのとき、ようやく気づいた。
日向くんは私がこれ以上濡れないように、身を挺してずっと守ってくれているんだ。
日向くんの体は傘に入りきっていない。髪から肩口にかけて雨が当たり、傘から垂れた雨水を吸った制服の肩は色濃く染まっていた。
その気持ちと申し訳なさが胸にしみて、
「…っひぐ……日向くん……ごめ、んね……」
なんとか声を絞り出そうとしたが、うまく言葉にならなかった。
傘を日向くんの方に寄せようとしたが、日向くんはそっと押し戻してきて、「大丈夫。こっちは慣れてるから」と言って、軽く笑った。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥が熱くなり、さらに涙があふれてきた。
袖で涙をぬぐい、鼻をすする。それでも止まらない。
こんなみっともないところ、見られたくなかったのに。
今はそばにいてくれるのが、どうしようもなく嬉しかった。
やがて、私たちはバス停の待合小屋の中に避難した。
薄暗い小屋の中には、古くなったベンチがあり、片隅に空き缶やごみが置かれていた。
私がベンチに座ると、日向くんは静かに傘を畳んだ。それから何も言わずに、隣にそっと腰を下ろした。
私たちの濡れた服からぽたぽたと落ちた水滴が集まって、足元に小さな水溜まりを作っていく。
小屋の中には、打ち付ける雨の音と、私の止まらない嗚咽だけが響いていた。
その間、日向くんは声をかけるでもなく、ただ、じっと隣に居てくれた。
そのまま少しの時間が過ぎて、嗚咽がようやく落ち着いてきたとき、パシャパシャと遠くから足音が聞こえてきた。
雨の中を走っているようだった。
音はどんどん近づいてきて、小屋の前を足音の主が通り過ぎた。
夏海さんだった。
小屋には目もくれず、前だけを見て走っていった。
「夏海さん!」
日向くんが小屋から顔を出して、雨の音に負けない声で呼び止めた。




