優しい灯①
暗い意識の中、目覚ましの音楽が聞こえてくる。
鳴っているのは認識しているのに、意識が現実に浮かんでくるまで時間がかかった。
目の前がうっすらと明るく感じ、手探りで目覚ましを止めた。
時間は、寝ていられるギリギリ。もう、以前は起きられていた時間では起きられなかった。
起きやすいように、と好きな音楽を設定したはずなのに、朝の睡眠を邪魔する音楽として定着して、嫌いになっていた。
重たい体を引きずってベッドから出て、準備をする。
そして重たい教材入りのバッグを肩に掛けて、家を出る。
それが、ここ最近の私のいつもの流れだった。
登校中の空は鉛色で、空気はいつもよりもぬるく、なんだかまとわりつくような重さを感じた。
通り過ぎる風は耳元でビュウッと音を立てて、私の髪を乱していく。
雨が降るかな、ちゃんとした傘を持ってきた方が良かったのかな、なんて考えていたら、
「藤音さん」
後ろから聞きなれた声で呼びかけられて、振り返ると日向くんがいた。
「おはよう」と言う。
「日向くん、おはよう」
彼との会話は、なんだか久しぶりな気がした。
「……この時間に一緒になるなんて珍しいね」
「うん、最近、起きるの遅くなっちゃって」
日向くんは私に視線を向けながら、続けた。
「……疲れてるんじゃない?大丈夫?」
「うん……ちょっとね。でも、今だけだから。」
私は笑顔を添えて答える。日向くんの気遣いが嬉しくて、笑顔は自然なものだった。
「そっか」と言って、日向くんは続ける。
「カバン、重そうだね。塾のやつ?」
「うん……ほとんど自習用なんだけどね」
「……勉強、頑張ってるんだね」
たくさんの教材で膨らんだ、重たそうな私のカバンを見ながら日向くんは言う。
「……頑張らないと、合格できないから」
私はうつむきながら答えた。
あーあ、暗いなあ。こういう時、明るく振舞えたらいいのに。
「無茶しないでよ、ほんとに……」
そう口にした日向くんは、少し影のある表情をしているように見えた。
私のことを心配してくれているんだろうな、と思う。
それが嬉しいのと申し訳ないのとが同居していた。
学校に着いた私たちは、別れてそれぞれのクラスへと向かった。
2組の教室に向かう日向くんの背中を、私は少しだけ見つめていた。




