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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
103/145

それでも、前へ②

電車に揺られながら目を覚ますと、乗客は自分以外にいなかった。


窓の外を見ても真っ暗で、時折遠くに見える光は、見覚えのない街の灯りだった。


私は慌てて、次の行き先案内板を確認した。

それは、私が下りるはずだった駅のはるか先にある終点の名前を示していた。


どうしよう。完全に寝過ごしてしまった。

スマホで時計を確認すると、すでに10時を回っていた。



今すぐ引き返したいのに、そんな私の思惑なんて知るはずもない電車は、暗闇を迷いなく突き進んでいく。踏切の音が一瞬で彼方へと流れていった。

何もできない状況に、焦りと心細さだけが募った。



電車はそのうち速度を落とし、終点に到着した。

遮るものが少ない、田舎の駅だった。

私は慌てて電車を降りた。他の車両からも人がまばらに下りてくる。

その足取りは迷いがなく、繰り返されている日常を感じさせた。

きっと私みたいな迷い人はいないだろう。


薄暗い街灯に照らされた駅のホームからは人がいなくなり、残ったのは私一人だった。

反対側へと向かう電車の時刻表を見ると、一応はあったが、1時間後だった。


スマホで時間を調べると、家につく時間は日付を超えそうだった。

周りを見ても、時間を潰せそうなところは何もない。

低い住宅の灯りしか見えなかった。

そのどれもが、家の中という安心した環境に囲まれている人々を思わせ、うらやましく感じた。


冷たい風が駆け抜けていき、体の熱を奪っていく。

同時に、泣きそうになるぐらいの心細さと不安感が襲ってきた。


私はスマホを開き、お母さんにメッセージで電車を乗り過ごしてしまったことを伝えた。

すぐに電話がかかってきた。


「お父さんが迎えに行ってくれるって」

「……うん、ありがとう、助かる」


遠慮する余裕はまるでなかった。


駅の待合室で座って待っていると、窓から入ってくる車のライトが待合室の壁を流れていく。

駅の外に目を向けると、お父さんの車が着いたようだ。


荷物を持ってお父さんの車に乗り込むと、「忘れ物は無いか?」とだけ聞いてきた。

私が頷くと車はゆっくりと帰り道へと進みだした。



車内は無言だった。もともと口数が多い人ではない。


「ごめんなさい、こんな遠くまで……」


私が謝ると、お父さんは「夜はすいてるから、そんなに時間はかからなかったよ」と答えた。


いつもは赤や青でじっと変わらない信号も、そのほとんどが点滅していた。

黄色信号の点滅を、少し速度を落として通り抜ける。


お父さんは小さな声で言った。


「……頑張るのは良いけど、無茶だけはだめだ。精一杯やってるのは分かってるから」


私は、「うん……」としか答えられない。

お父さんが心配してくれているのが、言葉の端々から伝わってくる。


だけど、ごめん、お父さん。

それじゃダメなんだ。


飲み込んだ言葉が、頭の中だけで巡った。

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