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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
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それでも、前へ①

遠いところから私を呼ぶ声が聞こえる。

お母さんの声だ、ということに気付いたのは、意識が夢と現実、どっちにあるのか分からない時だった。


目を開けた瞬間に寝過ごしたことを直感し、飛び起きた。

しまった。

いつもなら家を出ている時間を過ぎていた。

スマホのアラームは何度も鳴った形跡があった。


「咲、起きた?今日学校よね?」

「うん……時間がないから、今日は朝ご飯食べないで行く」


慌てて出かける準備をする。今出れば遅刻はしなさそうだ。


リビングを見ると、食卓にお母さんが用意してくれたおにぎりとお味噌汁があった。湯気は上がっておらず、すっかり冷めているようだった。

せっかく用意してくれたのに……。

胸がチクリと痛む。


「咲のごはんはお母さんが食べておくから。これ持って行きなさい」


いつものお弁当に追加で、朝ご飯代わりのゼリー飲料と、栄養食を一つ持たせてくれた。

お母さんの気遣いがありがたかった。


「ありがとう。じゃあ時間ないから行くね」

「行ってらっしゃい。無理しないでね」



登校中、自分と同じ制服を着た生徒が思いのほか多いことに気付き、ちょっと安心した。

そういえば、こんな時間に登校することは無かったかも。


学校についたのは、ホームルームが始まる5分前だった。

教室に入ると、友達が「珍しいね。寝坊?」と聞いてきたので、

「うん、寝過ごしちゃった」と答える。

それでも遅刻せずにほっとした。


授業中の眠気になんとか耐えて放課後を迎える。

そのあとはすぐに塾に向かい、授業を受け、そのまま自習室でいつもの席で勉強を進めた。

昨日の夜に抱えた不明点は講師に聞いて解決できた。


しかし、勉強を進めると、また別の不明点が立ちはだかった。

授業で習ったはずなのに、その時はついていけたはずなのに。

時間が経つと記憶の書庫への道は深い霧にのまれてしまうのだろうか。


参考書には、自信がない箇所、分からない箇所を示す赤い付箋がどんどん積み重なっていく。

自信がついてきたら、赤から黄色、そして緑へと色を変えるつもりだったが、赤と黄色ばかりが目立つ。

とにかく、今はがむしゃらにやるしかない。そう思った。


結局、私は自習室が閉まる9時まで残った。

他にも何人か残っていた。

みんなよく体力が続くなあ。


受付の人はすでに帰っており、照明は半分ぐらい消えて薄暗くなっていた。

外に並んでいる自転車もほとんど残っていない。

近くの道路沿いに、何台もの車が停まっていた。送迎のようだ。

オレンジ色のランプの点滅は車によって異なり、まるで即興の演奏をしているようだった。



私はそれを横目に、カバンを肩にかけて家路につく。

教材がぎっしり入ったカバンが疲れた体に重くのしかかった。



電車に乗ると、時間が遅いせいかいつもよりも空いていた。

座席に座った途端、体への重力が倍ぐらいになったような感覚に襲われ、意識がふわっと離れていった。

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