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優しい灯  作者: 豆大豆
2章
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変わる放課後④

自習室から帰る生徒が増えてきた。

既に8時近くになっていた。

私もお腹がすいてきたから、切り上げることにした。

明日から何かお腹に入れるものを持ってこようかな。


受付の人に「お疲れ様でした」と言われ、「ありがとうございました」と返して塾を出た。

帰りの電車に乗り込んでからスマホを見ると、通知が来ていた。


日向くんだ。

メッセージが来ている時間は、塾で試験を受けていた時間だった。


私は急いでアプリを立ち上げ、日向くんとのメッセージルームを開く。


悠:「お疲れ。今図書室にいるんだけど、今日はもう帰った?」


日向くんからのメッセージはいつものように、ちょっとだけぶっきらぼうで、でもそれが今の私にはホッとするような温かさがあった。


だけど、日向くんが私にメッセージを送ってきたということは、昨日今日と私が図書室に来ていないことを気にしてくれていたのだろう。

顔を出さなかったことを後悔した。いつもこうだ。

何かが起こってから、過去の自分を責めたくなる。


そう思いながら、日向くんにメッセージを打ち込んだ。

片手で吊革につかまり、電車の慣性に揺られながらスマホの表面をなぞる。


咲:「お疲れさま。返事が遅くなってごめんなさい。」

一緒にスタンプを添える。


一呼吸おいて、文面を考える。

ちゃんと今の状況を伝えたいと思った。


咲:「しばらく塾に通うことになったので、当分は図書室に行けないです。伝えるのが遅くなってごめんなさい。」


自分の指が打ち込んだ「図書室に行けない」という言葉が、冷たい言葉に見えてしまう。


ふと車窓の外を見ると、家々の光が後方に流れていく。

ただ通りすぎていくだけの誰かの生活の光は、どうしてこうも温かく見えるのだろう。

それが全て本当ではないと分かってはいるけれど、多くの人が笑顔でその灯に照らされているような姿を思い浮かべてしまった。


電車が木々の間を走り抜けるとき、吊革に手を伸ばしてスマホを見つめる少女の姿が窓に反射していた。

その姿は周りから孤立しているように見えて、なんだか暗いな、と思って、慌ててスマホをポケットに入れた。



電車から降りて、街灯に照らされたいつもの帰り道を歩く。

どこかの夕飯のおいしい匂いが漂ってきて、少しだけお腹が鳴った。


同時に、スマホが震える。

日向くんからのメッセージだった。


悠:「了解、教えてくれてありがとう。体調、気を付けて。」


その文面はいつもの彼らしくも見えるし、なんだかドライにも見える。

もしかしたら、少しだけ不快にさせてしまったかもしれない……。

すぐに文面を打ち込む。


咲:「こちらこそ、連絡くれてありがとう。最近寒いから、日向くんも体調に気を付けてね」

マフラーをつけたネコのスタンプを添える。


すぐに既読がついた。

送ってから、もうちょっと文章をよく考えたらよかったかな、と少し後悔した。

今、日向くんはどんな気持ちでこの文章を読んでくれているのだろう。

不安がうずまいてしまう。だけど、すぐに彼からのメッセージが飛んできて、そんな気持ちをどこかに運んでくれたようだ。


悠:「塾頑張ってね。応援してる。でも、無理しないで」

一緒に、「ご自愛ください」と頭を下げる漫画のキャラクターのスタンプがついている。


ただの社交辞令かもしれない。それでも、彼らしい気遣いが感じられる。温かいのに、胸のどこかが少しだけ痛んだ。矛盾みたいだけど、今はそれでいいと思った。


これ以上、メッセージのやり取りは邪魔になるかなと思い、

「ありがとう」とお辞儀するネコのスタンプをひとつだけ送信した。


すぐに既読がついて、しばらく眺めていたけれど、それ以上返事は来なかった。


それでも十分だった。

薄暗いところにあった私の心が、日向くんのメッセージから言葉にならない温かさを受け取って、暗い夜道でも寂しくなかった。

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