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若竹姫が朝雲の君とご結婚をしたのは、若竹姫が鳥の巣を訪れてから、ひと月後の季節の変わったころだった。(季節は、夏から秋になった。都を襲っている流行病や飢饉、それに災害の傷跡は、まだおさまってはいなかったけど、本当にひどいときにくらべれば、ずいぶんとよくはなっていた。黄泉送りの花火もとても綺麗だった。たくさんの黄金色の花火が、都の夜空を埋め尽くすように咲いていた。人たちはみんなその黄泉送りの花火を見て、死んでいったたくさんの人たちに、大きな、大きな祈りを捧げた。……、たくさんの涙と一緒に)
都では若竹姫の実家の神社でこじんまりとした結婚式が行われた。
それは若竹姫と朝雲の君のお家の結婚式としては、とても小さなものだったけど、お二人のご意向でそうすることにした。(食べるものだって、ままならない人たちがたくさんいるのだから、盛大な結婚式をおこなっては、よくないと思った)
結婚式の衣装を身にまとったお美しい二人は(若竹姫も朝雲の君もまるで物語の中に出てくるお姫さまと王子さまのような美しさがあった)幸運を授けるという、大きな神社の敷地の中にある赤い橋を渡り、大きな神社本殿に向かい、そこで生涯の誓い(夫婦の契り)を立てた。(その日、空は本当に綺麗な青色に晴れ渡っていた。その青色の中を白い鳥が二羽、鳴き声を上げながら飛んでいた)
二人は宮中でもとくに仲の良い夫婦として有名になった。(とくに若竹姫は本当にいつも幸せそうにしていた)
二人はご結婚をして、一年後に、一人の子供を授かった。
産声を上げたのは、玉のように美しい女の子。
名前は、若竹姫と朝雲の君の二人で相談をして、菜の花の姫と名付けた。
菜の花の姫は、とても美しい姫として宮中で有名になり、温かい家庭のもと、華やかな都で自由気ままに、幸せに日々を過ごしていた。(そのころになると、都では、あるいは国中でも、いろいろな度重なる大きな厄災の傷も癒えて、人々の暮らしは以前よりもずっと豊かになりはじめていた)
「ねえ、お母さま。これ、なに?」
ある日、朝雲のお屋敷の中にある古い木の鳥籠を見つけて(黙って勝手に胸のところで抱きしめるようにして持ってきた)菜の花の姫は若竹姫、……、改め、今は(ご結婚をして)『白花の宮』と名前を変えていた自分のお母さんにそんなことを聞いた。
白花の宮はとても美しい女性に成長していた。(若竹姫のころから美しい姫だったけど、大人になって、さらに美しくなった)真っ白な着物と帯を着ていて、黄色の着物と赤色の帯を着ている菜の花の姫の小さな手をとって、二人で菜の花の姫がもってきた古い木の鳥籠を胸に抱くようにしてもっている。
「それは私の宝物なんです。ずっと昔に、お母さんがとても仲の良いお母さんの友達からお誕生にもらった大切なものなんですよ」とにっこりと笑って、白花の宮は菜の花の姫に言った。
「なんのための道具なのですか?」菜の花の姫は興味津々と言った可愛らしい顔をして、(その大きな黒い瞳を、きらきらさせながら)白花の宮にそうきいた。
「鳥を入れておくための道具です」白花の宮はにっこりと笑ってそう言った。
「……、鳥。でも、鳥はどこにもいませんよ」と不思議そうな顔で、白花の宮の顔を見て、菜の花の姫はいう。
「はい。いません。だってこんな小さな籠の中に閉じ込めてしまったら、可哀想でしょ?」と優しい声で、白花の宮はいう。
それから一度、白花の宮は青色の空を見上げた。白花の宮の見る青色の空の中には、一羽の白い鳥がいた。その白い鳥は、そのまま自由気ままに空をとんで、白花の宮の目には見えない、どこか遠いところにまで飛んでいってしまった。
「空っぽの鳥籠、ですか? お母さま」ぽかんとした顔で、菜の花の姫はいう。
「はい。そうです。『空っぽの鳥籠』です。菜の花の姫」とにっこりと笑って、自分に甘えてくる菜の花の姫の綺麗な美しい黒髪を撫でながら、白花の宮は空を見ることをやめて、そう言った。




