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真っ暗な部屋の中で若竹姫が目を覚ましたのは、……、懐かしい夢を見ている途中の出来事だった。(部屋のろうそくの明かりは白藤の宮が消してくれたようだった)
若竹姫の見ている夢の中では、ずっと雨が降っていた。(それはいつものことだった。悲しい夢ばかりを見るのだ)
……、でも、目を覚ました若竹姫が部屋の外に目を向けると、暗がりの中ではあったけど、どうやら、もう雨は降ってはいなかった。(小さな雨の降る音も聞こえなかった。止んでいる雨を見て、雨が止んでよかった。白藤の宮が雨に濡れていなければいいなと思った)
「あら、起きてたんですか?」
そんな白藤の宮の声が聞こえた。
若竹姫がその白藤の宮の声が聞こえたほうを見ると、暗闇の中に手に明かりの小さな行灯を持っている白い着物をきた白藤の宮がまるで『幽霊』のように、その場所にいて、若竹姫のことをその闇の中から(行灯の小さな明かりよりも、深い夜の闇のほうがまさっていた)じっと、その二つの黒い目で見つめていた。(そのときの白藤の宮の顔には生気のようなものが感じられなかった。若竹姫はそんな白藤の宮を見て、内心、小さく驚いた)
「お布団の用意できでいますよ。お風呂上がりにそんなところで寝ていると風邪を引いてしまいますから、早くこっちにいらっしゃい」
と、行灯を持つ手をすこし上にあげて、ぼんやりとゆらめく炎の明かりで自分の顔を照らし出すようにして、くすくすと童のように笑いながら、白藤の宮は若竹姫に言った。(そのときには、もういつもの生き生きとした白藤の宮の顔に戻っていた)
「……はい。わかりました。白藤の宮」
まだ少し寝起きでぼんやりとしている若竹姫は、そう言って、(自分の動揺を隠しながら)ゆっくりとその体を動かすと、深い夜の闇の中でこっちこっちと手招きをしている無邪気な白藤の宮のところまで音もなく緑の畳の上を歩いてするすると移動をする。
白藤の宮のすぐ隣までくると、白藤の宮はそっと(にっこりと笑いながら)なにも言わずに、若竹姫の白い小さな手を優しく握った。
「さあ、いきましょう。若竹」と白藤の宮は若竹と若竹姫の幼名をいう。
「……はい」
お母さま。
と言いそうになって、慌ててはいのところで口を閉じた若竹姫は白藤の宮を見ながら、優しい顔でそう言った。(若竹姫は自分がいつのまにか、小さな童の若竹のころに戻っているような、そんな不思議な気持ちを感じた)




