日が昇り、あかね色の光が——
日が昇り、あかね色の光が惨状をあらわにした。
屋敷の壁はボロボロに裂け崩れ、扉は木造部分が全て削り取られ鉄の骨組みだけが焼け残っていた。
憲兵たちは屋敷から椅子を持ち出して、壁に立てかけ、死んだ山賊たちを椅子に座らせ、銃を持たせて、記念写真を撮っていた。カタンザッロとその父親、警部をさらった三人の男、それに外で歩哨になっていた少年。
この場所は匿名のタレコミがあり、判明したと隊長が説明した。
警部と中尉はとりあえず、今日は休んだほうがいいと言われ、非番になった。
その後、新聞はカタンザッロ一味の壊滅、ダレッサンドリ巡査、ピオスコ巡査、そして、コラーゾ下院議員殺害の犯人としてカタンザッロを被疑者死亡のまま起訴し、〈石の棺〉市を騒がせた殺人事件は解決した。
ふたりの巡査がカタンザッロと癒着していたことは封印された。警察の怒りを買ってまでして、それを報じる新聞はなかったし、それにふたりはもう故人であり、遺族たちを傷つけるようなことはしないほうがよい。それに王都でテノール歌手が硫酸入りボンボンを食べて喉をダメにしたが、その背景にはオペラのファン垂涎ものの痴情のもつれがあり、購読者の興味はそちらに向いていた。
結局、カラヴァッジョ中尉以外の全員が納得した。真実は闇に葬られるのが、古王国では似合っているのだ。
「それでどうするんです?」警部は官用自動車を駅の駐車場に停めた。アカシヤに囲まれた中庭のような場所で、絵描きがひとり、機関車を手荒な、だが光の波長を感じられるタッチで描いていた。「王都に戻るんですか?」
「ええ。わたしは三人を殺した真犯人がまだ挙げられていないことを知っているし、それはつまり、サリエリ事件が解決していないことを意味しているわけです」
「サリエリ事件にそこまでこだわるんですね」
「あの晩、わたしは食事の約束をしました。あのときは全てが順調だった。それが一瞬で崩れた。ですが、一番もろかったのはわたしでした。あのとき、彼女に放った言葉は、忘れられないし、許せない。それに彼女はわたしと違って、強かった」
内ポケットから何か焦げた紙片を、破かないように注意深く取り出した。そこにはこうあった。
【……ンツィオ銀行 〈叔父〉】
「本来ならサント・ヴェッキオと書かれるはずのところに書かれた言葉が〈叔父〉です。彼女が最後に残した唯一の手がかりです。わたしが打ちのめされているあいだ、彼女は新しい道をひらいていた」
強い人間はひと握りだ。そして、その強さにあてられた人間は歪んでしまう。あまりにも輝かしいから。人間は輝くためにあるのではない。輝きを他者にゆだね、安息を得るために神を信じる。大聖堂が人の心を支配すると同時に安らぎを感じるのは自分が輝かしさとは無縁の存在であると再認識できるからだ。
午前十一時の空を見上げた。サリエリ女史は輝いていたのだ。その輝きにあてられたカラヴァッジョ中尉は二度と安らぎを覚えることはない。生涯かかって、コンツェッタ・サリエリの輝きに焼き尽くされるのだろう。
そのとき、絵描きが警笛のような声で叫んだ。銃声がして、中尉が倒れた。警部は銃を抜いた。また銃声がして、ガラスが砕けた。メゼッロがいた。古いライフルを手に何か叫んでいた。銃声がして、モレッロは左足が見えない力に引っ張られ、足元をさらわれるようにして転んだ。
「人の女房を寝取りやがって!」
メゼッロはそう叫んだ。自分に真っすぐ向けられたライフルの照準の向こうに、メゼッロの血走った目があった。
メゼッロの顔が破裂した。命の消えた体に立て続けに弾がめり込み、メゼッロはコマのようにまわって倒れた。
「警部! 大丈夫ですか?」
中尉が空になった銃を手に叫んだ。
「左足を撃たれた」
カラヴァッジョ中尉は銃を車のなかに放って、警部の左足を調べた。
「大丈夫です。左の靴の踵が削られただけです」
「そっちのほうがひどそうだ」
中尉は左腕を撃たれていた。
「やつはなんて?」
「おれが女房を寝取ったとかなんとか言っていた。ともあれ、礼を言うよ」
命を助けられたのに、最初にやってきたのは安堵や興奮ではなく、中尉の望まぬ形でやすやすと事件を解決することに屈した後ろ暗さだ。自分がもう少し堪えのない人間だったら、中尉とともに真相を突き止める自殺行為に身をゆだねただろう。
だが、警部は結局、その自殺行為に突き進む。本人の意思に反して。
立ち上がったときに見えたのだ。
車の後部座席に転がった、中尉の自動拳銃が。




