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ヘッドライトが円錐型の光を——

 ヘッドライトが円錐型の光を夜道に投げかけていた。三人の男は三人とも顔を髭で覆っていて、このあたりの農夫が着るくたびれた黒い背広に鳥打帽をかぶっていた。全員がベルトに銃を差していて、古い紙巻き煙草を髭に火がつくくらいギリギリまで吸っていた。

 警部は後ろの座席に乗っていて、目隠しをされていた。曲がった角の数を覚えようと思ったが、三十回を超えたところであきらめた。後ろ手に縛られ、頭を二回撃たれるのに、無駄なことだ。

 車は砂利を敷いた前庭のような場所について、サイドブレーキが引き上げられる音がした。車から押し出され、目隠しが取られると、そこは山のふもとにある農家だった。二階の窓枠にランプの灯がちらついていて、二十メートル離れた反対側の窓にも明かりがあった。ひとつの岩山から削り出したみたいな、かなり大きな家で昔の農民たちはこうした家に三十人くらいの一族で百年近く住んで小作をしていたのだ。

 背の高い扉の前に制式のライフルを膝の上に置いた少年がいて、警部に散弾銃を向けていた男を父ちゃんと呼んでいた。

「お頭、まだ起きてるよ、父ちゃん」

「そりゃあ、起きてるだろうさ。お頭が連れてこいって言ったんだからな」

「起きてるよ、お頭」

「分かったから、扉の前からどけよ。ガキは寝る時間だぞ」

「オラ、歩哨なんだ」

 二メートル以上ある扉を開けると、いきなり大きな板を樽のあいだに渡して作ったテーブルがあり、その向こう、重ねた穀物袋の上にトマゾ・カタンザッロが座っていた。その後ろにはガラクタの山があり、てっぺんには老人の操り人形が座っていた。隣の棚には聖人のお守りが三十個くらいピンでとめてあった。山賊でも、――というよりは山賊だからこそ、迷信深くなる。弾が当たらないお守りや憲兵に姿が見えなくなるおまじないとか。

 そんなことを考えながら、そばの椅子に座っているカラヴァッジョ中尉に声をかけた。

「あんたも連れてこられたんだな」

「ええ」と、中尉はうなずいた。

 カタンザッロが空いた椅子を指差したので、中尉の右隣りに座り、あらためて〈叔父〉を見た。カタンザッロは中肉中背で手下たちと同じ、埃っぽい黒服をつけ、弾薬ベルトの切れた部分に太い針を刺して縫い合わせていた。

「この針はな」と、カタンザッロはプロになり損ねたバスの声で話しかけてきた。「鞍をつくる職人からもらったもんだ。革を刺すにはこのくらいの太さが必要なんだ。その職人は本物のマエストロで、あんな鞍には二度とお目にかかれねえ。死んだんだ。憲兵に撃たれてな。千年前の彫像に弾丸をぶち込むようなもんだ。物の価値が分からねえってのは恐ろしいもんだ。で、お前らだが、この針で目玉を抉り出されるかどうか、おれの機嫌にかかっている」

 すると、後ろの操り人形がわめきだした。「バ、バ、バ、バラしちまえ! けけけ憲兵は皆殺しだ!」

「親父、静かにしててくれよ」

 人形はカタンザッロの父親だった。

 カタンザッロは革を縫う手を止めて、そっちが話す番だと手のひらを上に向けて、見えないリンゴでも差し出すように動かした。

 警部が言った。「あんたはベネト・ダレッサンドリ巡査とサルヴァトーレ・ピオスコ巡査を殺した」

 カタンザッロは首をふった。「やってない」

「コラーゾ議員を殺した」

「それもやってない」

 中尉が代わった。「あんたはコンツェッタ・サリエリを殺した」

「誰だよ、それ?」

「大蔵省の女性事務員だ」

「やってねえ。なんで、おれが」

「あんたは〈叔父〉だ」

 カタンザッロが低く重い声で大笑いした。老父も笑い、警部を連れてきた三人の男たちも笑った。

「なあ、兄ちゃん。憲兵ってのは冗談のうまいやつしか採用しないって決まりでもあるのか? おれが〈叔父〉? どんなふうに頭を打ったら、そんな考えが浮かぶのやら」

「あんたはこのあたりを支配する山賊で、警察と癒着するくらいの度量があった」

「そんなこと、〈叔父〉になるかどうかには関係ないんだよ。それとおれがサツの関係を知ってるらしいが、どこまで知ってる?」

「ダレッサンドリとピオスコはあんたに手入れの情報を流しただろう?」

「ああ、そこまでわかってるのか。でも、お前らの情報は正確じゃないな。正しくはカネにクソ汚えダレッサンドリとクソ生意気なピオスコだ」

 カタンザッロはダレッサンドリの船の購入証明書をはじいて、中尉に返した。

「この船はダレッサンドリがコツコツ賄賂を貯めたもんじゃない。一撃だよ。一発で十五万も払えとおれに言ってきやがった。あいつにくれてやっても、全部オンナに消えちまう。頭のおかしいダレッサンドリはどっちが上か、分かってなかった。本当にぶち殺してやりたい」

「だから、殺したんだろう?」

「やってねえ。ピオスコ。こいつは出世したいから、適当な部下にでかい盗みをさせて、自分に逮捕させろって言ってきやがった。仲間を売れってんだ。カス野郎が。ピオスコのクソ野郎が何を欲しがってたか、知ってるか、警部さん? あんただよ。あんたの席を狙ってたんだ。古王国史上最も若い警部になる、だとよ。大した脳みそ入ってねえくせに、あの野郎……。あいつも本当にぶち殺してやりたい。いや、ぶち殺してやりたかった。おれじゃない。だがな、あのふたりのクズを始末したやつにはブラボーと叫んでやるよ」

「コラーゾ議員は?」

「ブン屋がおれに何ができる。ペン先でつっつくのか? だいたい、おれのことを知っているやつはみんなおれを売るのに五万レラじゃあ割にあわないことを分かってる。おれは絶対脱走して絶対にそいつを思いつく限り、最悪のやり方でぶち殺すからだ」

「〈叔父〉は?」

 カタンザッロはにやりと笑った。「〈叔父〉になるにはおれは堪えが足りない。だから、〈叔父〉はおれじゃない。〈叔父〉ってのは〈叔父〉以外の人間を好き勝手にできる。だが、〈叔父〉同士のことについちゃ、いろんな制約があるんだ。気ままに山を駆け巡って、手当たり次第に殺して奪うなんてことはできない」

「このあたりの誰が〈叔父〉なんだ?」

「教える気はない」

「怖いのか?」中尉が言った。

「惚れてるからさ。同じ悪党として」

「だが、〈叔父〉はそうじゃない。やつらにとって、あんたはおれたちと同じ、〈叔父〉以外の誰か、だ。あんたはふたりの警官を失った。もう手入れの情報は入らない。そして、議員が殺された。あんたたちはやっていないというが、軍はそうは思わない。本土の共和国軍が議員殺しを本気で捕まえるためにやってくるぞ。飛行機と戦車をつれて、一個旅団。あんたがおれたちをさらったのは、おれたちの目に革の針をぶち込むためじゃない。取引のためだ」

「へえ。で、兄ちゃんは何ができるってんだ。中尉ってのは将校じゃ、下から二番目だろ?」

「警官と議員を殺ったやつを渡してくれ。それで何とかする」

「あいにく誰か分からねえ」

「じゃあ、〈叔父〉の名前だ」

 カタンザッロはまた笑い、老父に振り向いた。

「なあ、親父。おれは何だか、こいつらが〈叔父〉を相手にして、どれだけひでえ目に遭うのか、興味が出てきたよ。正直な話、おれはあいつらに何の借りもねえわけだしな」

「言っちまえ!」老父はガラクタの上で跳ね、手足をばたつかせた。「言っちまえ!」

「じゃあ、親父の許しももらったわけだし、言っちまうか。この辺の〈叔父――」

 そのとき、窓をふさいでいた板が割れて、銃弾がカタンザッロの顔を吹っ飛ばした。

 誰かがランプを吹き消し、山賊たちは落ち着いて、銃を取り、窓際に寄った。暗闇のなかで金属のかち合う音がした。銃火が山賊たちの顔を一瞬だけ照らした。警部は身を低くしたまま、裏手の台所に近い隅に身を投げた。弾がすぐ上をかすめ、漆喰が飛び散った。

 台所には大きな机が倒されて、それに隠れながら、シルクハットをかぶった山賊が外の銃火へ撃ち返していた。土器が割れて、警部の頬を切った。銃撃は激しく、外は夜闇で体格すらろくに見えない。これでは外に出ても、外の部隊が警官であるにしろ憲兵であるにしろ、モレッロが分からず、集中砲火を浴びるだろう。

 卵を踏みつぶしたような音がした。シルクハットをかぶった山賊が背中から壁に突っ込み、縫い合わされたみたいに両手を広げたまま、ズルズルと崩れていった。

 また銃声がして、階段のある部屋から刃物を手にした男が警部に襲いかかった。右に体をひねると、ナイフが石の壁を削り、火花が散った。肘で顔を突くと、刃物男はわめき散らしながら、覆いかぶさるように切りかかった。

 そのとき、背の高いシルエットが肩から刃物男にぶつかった。

 倒れた刃物男の手を踏みつけて骨を砕くと、叫び声が上がって、のけぞり、その喉と顎が銃弾にもぎ取られた。

 外から拡声器の声がした。「カラヴァッジョ中尉! ご無事ですか!」

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