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翌日の朝、いつも通りに目を覚ましたボビーは8時には、自家用車のピックアップトラックに乗り込むと片道2時間のドライブで一番近い街まで赴いた。最初に、ホームセンターへ向かうと来客用のベッドルームのドアに取り付けられそうな取っ手付きの鍵を1つ購入し、次いでスーパーへ向かい食材を色々と買い込んだ。自分1人であれば大した量を購入する必要はないが、19歳の娘と1か月も保護対象者として生活するとなれば、何度も買い出しに出るのは、相手に狙われる危険性が高まるので、いつもの倍以上に食糧を買い込む事にした。
街での買い物が済むと、食糧を荷台に積載したピックアップトラックを運転して自宅に帰る。家に着いたのは14時を少し過ぎていたので、買い込んだ食糧を亡くなった妻が元気な頃に購入した大型冷蔵庫へ次々と手際良く収納していく。買い込んだ食糧を収納し終えると、スーパーで購入したテイクアウトのハンバーガーと紙パック入りの野菜ジュースで昼食を済ませ、ガレージへ向かうと各種工具を入れている工具ボックスを手に来客用のベッドルームへ行き、既存のドアの取っ手を外し始め、ホームセンターで購入した鍵付きの取っ手へ取り替える作業に没頭する。暫くドアと葛藤した成果で、部屋の内側から鍵が掛けられる取っ手へ取り代えることができた。これで、少なくとも19歳の娘が安心してベッドルームで寝られるであろうとボビーは満足しているが、実際には妻を癌で失ってから永い間、女性と接する機会が無かった為に万が一にでも若い娘の魅力に負けるかもしれない自分への戒めができたことへの安堵の気持ちが大きいかもしれない。
ベッドルームのドアの改造が済んで、後片付けを終えると部屋に置いているスタームルガー社製のニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃の7.5インチとペーパーターゲットを持って敷地内に作った射撃場へ向かう、ペーパーターゲットを設置すると10ヤード離れた場所に立ってニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃のハンマーを右手の親指で起こし、ペーパーターゲットのセンターに狙いを付けると右手人差し指をトリガーに添える。呼吸と整えてトリガーを引くと大きな轟音と共に強烈な反動がボビーを襲う。このニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃も10年以上は所持し使っているので慣れているとは言え、相変わらず44マグナム弾は何十発も撃てる弾薬ではないと感じる。両手で拳銃を保持しているが、発砲直後の反動で四十五度くらいに拳銃は跳ね上げられる。決して扱い難いわけではないが、大口径のマグナム弾のような弾薬を発砲する場合には、腕だけで反動を受け止めるのではなく身体全体で受け流すようにすることと手首を意識的に固定して発砲した時の反動で手首が捩じられないようにしないと手首の関節を痛める事になる。
ニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃は、シングルアクションなので拳銃を発砲する際には毎回ハンマーを起こしてやる必要があり、スミス・アンド・ウェッソン社製のM66拳銃のようにトリガーだけを引いても発砲することができない。ボビーは毎回ハンマーを右手親指で起こしてペーパーターゲットのセンターを狙って発砲した。44マグナム弾を撃ち込まれたペーパーターゲットは、命中した辺りが大きく裂けているが集弾状況は悪くない。ペーパーターゲットを回収してからニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃を左手に持つと右手でハンマーの右側にあるローディングゲートを開くとシリンダーは時計回りに回転するようになる。また、バレルの右斜め下にはエジェクターという空薬莢を排出するための金属の細い棒が備わっており、そのエジェクターには小さな取手が付いているので、エジェクターを手前に引いてローディングゲートから一発ずつ空薬莢を排出する。排出した空薬莢はM66拳銃の空薬莢を回収したのは別の空き缶に入れる。
シリンダーから発砲の終わった6発の空薬莢を排出し終えるとニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃を右手に持って室内に戻りメンテナンスを始める。拳銃のメンテナンスが終わると、ローディングゲートを開けて44マグナム弾を一発ずつ装填してホームプロテクション用に使用できる状態にして部屋の片隅に置くとボビーはガンルームに向かい一丁の散弾銃と弾薬を持ってきた。
ボビーが手にしているのはケルテックという1991年に設立されたアメリカの銃器メーカーで「風変りな銃を作る」メーカーとして国内ではメジャーな存在となっている。そのケルテック社製のKSGというブルパップタイプの散弾銃を持ってきた。この散弾銃は、一般的な散弾銃のようにマガジンがチューブタイプなのだが二列備えていることで装弾数が増やせる利点がある。また、ブルパップタイプなので銃身が18.5インチ(46.99センチメートル)もあるが全長が66.3センチメートルと取り回しに優れている。ただし、この散弾銃は片方のチューブマガジンを撃ち尽くしても自動的に別のマガジンにチェンジするわけではなく手動で切り替える必要があるので充分な射撃訓練を行って操作に習熟しておく必要がある。この散弾銃もポリスオフィサー時代に送られてきた銃器で、ボビー自身も操作に習熟するくらいにテストしていた過程で、取り回しに優れているのに装弾数が多いことに注目していたのだ。
テーブルに戻り椅子に座ると、ボビーは持っているKSG散弾銃を裏返してグリップの後ろから12ゲージの散弾を装填してゆく。散弾は射程距離が比較的短いのだが近距離に対しては球状の鉛製弾丸が銃口から放たれると一定の範囲に広がりながら跳んで行くので大勢の対象者には絶大な効果を発揮する。なので、十九歳の少女を狙ってくるブルーノファミリーの暗殺者が複数で襲ってきた場合には充分対応できるし、もしボビー自身が負傷して銃を発砲できない場合になったとしても少女に撃ってもらって自らの命を守ってもらえる。そんな風に保護対象者の少女を迎え入れる準備を整えたボビーは、今夜も一人っきりの夕食を済ませると食器等の後片付けを早々に済ませてベッドルームに向かい休むことにした。
翌朝は、雲一つない晴天で周囲の森からも野鳥が囀る音が心地よく気持ちの良い一日になりそうである。スッキリと目覚めたボビーは、妻を亡くしてから初めて覚えたハムエッグを焼くと厚切りのトースト二枚と野菜ジュースで朝食を済ませる。朝食に使った食器やフライパンを洗い終わり片付けている最中に携帯電話の着信音が響くとポケットの中でバイブレーションが起こる。濡れた手をハンドタオルで拭いてから電話にでると
「教官、お久しぶりです。新米だった頃に射撃のトレーニングを受けましたマーカスです」
と若く勢力が漲る声が聞こえてきた。声の主はボビーがリタイヤする一年前に警察官として採用され射撃のトレーニングを施したマーカスであった。
「やぁ、久しぶりだ。しかし、もう教官というのは止めてくれ。私は、もう君の教官ではないし、君だって立派な刑事なんだろう?」
ボビーは懐かしそうに話すと
「でも、これまで危険な場面を潜り抜けて来れたのも貴方からの教えがあったお陰ですし、貴方ほど教え方が上手いインストラクターはいませんでしたよ」
「そんなお世辞を言ってみたところで何のメリットもないぞ。それより要件は何なんだ?」
穏やかに問い掛けるボビーに対してマーカスは
「例の保護プログラムの対象者となっている少女ですが、うちの署の女性刑事と一緒に私が運転する車で貴方の所へ出発します。たぶん十四時頃に到着すると思いますので、その連絡です」
「分かった。それで警護チームも一緒に来るのか?」
ボビーは慣れたように問い掛けると
「はい、別の車両で我々と一緒に向かいます。ただし、私と女性刑事、それに保護対象者が貴方の家に入ったところで警護チームは周辺に展開して警備に当ります」
「了解した。それじゃ道中、くれぐれも気を付けてな」
現役時代のようにボビーは応えて携帯電話を切った。早速、ブルーノファミリーとの闘いの火蓋が切って落とされたことを実感したボビーの顔つきが現役の頃のように引き締まった。
ポリスオフィサーとしての経験があるボビーにとって、勝負は少女が到着してからではなく自分の自宅に向かった瞬間であることを認識していた。なので、キッチンの窓から道路の方へ視線を向ける。少女を乗せた車が到着するまでの間に不審な車両が近くに駐車するような事があれば警戒をしながら臨戦態勢に移る必要がある。
道路には不審な車両は見当たらなかったので、ボビーはガンルームに向かい小さめのホルスターを手にすると木製の椅子に右足を乗せてパンツの裾を引き上げると手にした革製のアンクルホルスターを装着し、そのアンクルホルスターにハウスプロテクション用としていたM66拳銃を差し込みパンツの裾を直すと、ニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃とハンティング用のライフル銃を持って家を出るとガレージのシャッターを開けて作業台にニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃とハンティング用のライフル銃を置き、その近くにガレージ内に置いている椅子を移動させて道路の見渡せる位置に置くと腰掛けながら道路を監視し始めた。
昼近くまでは、時折長距離トラックが通る以外に道路を走行する車両は無かった。一旦、ニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃とハンティング用のライフル銃を持って自宅の中に入り昼食を食べ終えるとボビーは再び拳銃とライフル銃を持ってガレージ戻った。時計の針が13時を過ぎた頃であっただろうか、一台の見慣れぬ黒いセダンタイプの車両がボビーの自宅へ向かう入口の手前で路肩に駐車した。ボビーはガレージで日向ぼっこをしているように装って車両の状況を眺めていると、路肩に止まった車両は完全にエンジンを切ったようでマフラーから白い排気ガスが出ていない。気になったボビーは、現役のポリスオフィサーならば職務質問をするところだが、今の自分には権限のないことを自覚しているので、携帯電話を取り出すとマーサスに電話を入れて状況を伝えた。ボビーからの状況説明を受けたマーカスは
「了解しました。早速、警護で一緒に来ているパトカーを1台、そちらに先行させます」
と言って電話を切った。
少女が到着する予定時刻の20分前に麓の方から赤と青の緊急ランプを点滅させたパトカーがボビーの方へ疾走してくるのが見えると、路肩に停車していたセダンタイプの車両は山の山頂方面に向けて立ち去っていった。
疾走してきたパトカーは、セダンタイプの車両が停車していた辺りで赤と青の緊急ランプを点滅させたままパトカーを止める。パトカーから2人の制服警官が降りて、周囲の地面を見ているようなので無数の煙草の吸殻が落ちているのかもしれない。それから25分後にパトカーに先導されたシルバーの覆面パトカーがボビーの家の方へ入ってきた。
玄関の少し前辺りでパトカーを停車してマーカスと女性刑事に付き添われた少女が車を降りた瞬間、先ほど山頂方面に移動したはずのセダンタイプの車両が猛スピードで疾走してきた。路肩に停車していたパトカーからは2人の制服警官が降りてセダンタイプの車両に停車するように呼び掛けているようだが、セダンタイプの車両は制服警官の制止を無視してスピードを緩めることなくボビーの自宅に向かう脇道近くになるとタイヤを鳴かせながら90度方向を変えてボビーの自宅へ突っ込んできた。その様子を見ていたマーカスと女性刑事は腰のヒップホルスターからグロック社製のG19拳銃を抜き出して19歳の少女をボビーの居るガレージへ追いやる。
ボビーは、震えている少女の肩を優しく掴むとガレージの奥へ移動させると、右手にはテーブルに置いたニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃を握り右手の親指でハンマースパーに掛けてハンマーを起こすと、2人の刑事より前の位置に出てセダンタイプのフロントガラスへ向けてニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃を発砲した。
ドォンという大きな発砲音が聞こえると、同時にセダンタイプのフロンドガラスには2センチメートルくらいの穴が開いた。セダンのドライバーは反射的に上体を縮めると無意識にハンドルを右に切ってしまい、更に急ブレーキを掛けたのでセダンの車体は左側面をボビー達に見せるよう横向きになって停車した。ボビーは、右手の親指でニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃のハンマースパーに掛けてハンマーを起こし次の発射態勢を整える。ボビーの後ろにいた二人の刑事はG19拳銃をセダン方向に向けながら大声で「フリーズッ」と叫びながら停車したセダンに近寄ろうとしていたが、ボビーの位置からはセダンのドライバーが拳銃を脇から抜くのが見えたので、迷うことなくニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃をセダンの運転席側のドアへ向けて発砲した。一発目と同じ大きな発砲音が響くとセダンの運転席側のドアに穴を開けただけなく、ドライバーの腹部に命中したようでドライバーは拳銃を放り投げて、自分の腹を押さえるような仕草をしているのが見える。ボビーとセダンが停車した距離は概ね10メートルくらいなので、この距離から44マグナム弾を打ち込めば弾丸は車のドアを貫通しただけではなく車内にいる人間を死傷させるだけの威力が残っている。
その間に、セダンの助手席にいた男はカービン銃を握ってフロントドアを開けて車外に出るとボビーの方へカービン銃を向けて発砲しようとしていた。二人の刑事は再び「フリーズッ」と叫んだ後、それぞれが2発ずつG19拳銃を発砲した。しかし、発砲された弾丸のうちカービン銃の男に命中したのは2人の刑事が発砲した1発のみであったが、それぞれ男の胸部に命中していたのでカービン銃を持っていた男は少女に発砲することなく射殺された。
その後は、お決まりの現場検証でボビーの自宅はパトカーに警察官や検視官等でごった返している中で、ボビーは2人の刑事から保護対象者である少女を紹介された。紹介された少女は、名前はジェーン・ニューウェイと言い19歳の学生なのだそうで比較的スリムな体系で美人というよりは幼顔のキュートな感じがするが、ほんの少し前まで何回目か命を狙われたことで不安そうな表情で震えており警護の女性刑事に抱き締められていた。しかし、警護のマーカスがボビーを紹介すると真剣な眼差しでボビーを見つめると
「お願いっ、私を守って、そして、パパとママを殺した男達に復讐してっ」
叫ぶようにボビーへ訴えかけてきた。ボビーは、穏やかな表情で
「お前さんのパパとママの敵討ちまでは分からないが、少なくとも私の目が届くところに居るうちは全力でお前さんを守ることだけは保障するよ」
とジェーンに言うと右手を差し伸べ少女の右手を優しく握った。ジェーンは多少なりとも不満そうな表情を浮かべていたが、ボビーとの握手に何度も小さく頷く。
ジェーンとの握手を解いたボビーは、男性刑事のマーカスに
「とにかく、いつまでも家の外に居ても仕方ないから家に入って、それにカウンセラーが来てくれるのであれば至急呼んでくれ。襲われた直後なんだから、ジェーンにはサポートが必要だよ」
と助言をすると、マーカスは了解とばかりにサムアップをしてパトカーの警察無線でカウンセラーをボビーの自宅へ来てもらえるよう連絡した。
ボビーは、ジェーンと警護の女性刑事を誘導するように自宅に向かうが、ジェーンを乗せてきた覆面パトカーの脇まで来ると女性刑事にジェーンの荷物を聴いて大きなボストンバッグを掲げて家の中に入り、ジェーンと二人の刑事を迎え入れた。
三人がソファーに、ジェーンを真ん中にして腰掛けるとボビーは三人にコーヒーを淹れてテーブルに置く。ボビーも自分の分のコーヒーを注いだマグカップを持って三人の前に座るとマーカスに
「それで、周囲をガードする警察官をどの辺に配置する予定なんだ?」
と尋ねると
「流石に家のすぐ前というのは生活し辛いだろうから、あの主要道路からの入り口に二台のパトカーを配置して四名体制で護衛しますよ」
マーカスは顎の下に手を当てながらボビーに答える。確かに、如何に証人保護プログラムの実行といっても警察にも人員の都合があり、何十人もの警察官を周囲に配置するわけにはいかない。その限られた人員で24時間体制で警護するが賄い切れない部分を元ポリスオフィサーであるボビーが対応しなければならいし、その為に彼に白羽の矢が立ったわけでもある。
「了解した。ところで一つ確認したいんだが、4名の警官は全員カービンを持って護衛にするのか?」
更にボビーが質問すると
「その予定です。さっきのように車両で突っ込んでくることを想定すると、ある程度の距離からカービン銃で制止させないと危険でしょうから」
マーカスの返事に頷きながら聞いたボビーは
「最後に、俺はもう現役のポリスオフィサーじゃないので、ジェーンと俺に身の危険が迫ってきたら、ケースによっては警告なしに自前の銃器で反撃するので了解してくれ。ただし、俺だってブルーノファミリーと全面戦争をしたいとは思ってないから、機関銃を持ち出してフルオートでぶっ放すようなことはしないから」
とマーカスに伝えると
「分かってますよ。ジェーンは大切な証人だし、ボブだって現役の警察官じゃないんだから、正当防衛の範囲での発砲を規制したりしませんよ」
ボビーに向かって軽いウィンクをしながらマーカスが答えた。
それまでのやり取りの間、視界の端でジェーンの様子を見ていたボビーは
「幾らか落ち着いてきたようだから、ジェーンの寝室に案内しよう」
と声を掛けて、ボビーは再び大きなボストンバッグを掲げて奥の部屋に向かうと女性刑事に付き添われながらジェーンも続いて来る。ボビーが案内したのは亡くなった妻の寝室であった。愛する妻を亡くしても妻の寝室は、今でも使用しているようにキチンと整理されており、ベッドは枕カバー、掛布団、マットレスカバーは花柄の綺麗な柄があしらわれた物が使われている。
「亡くなった妻が使っていた物なんだが、私のような男には女性が好むようなコーディネートが出来ないので、もし気に入らなかったら、そのチェストに何枚かカバーが入っているので好きな柄の物に替えてくれ、それと部屋のドアには鍵を付けておいたので内側からロック出来るようにしておいたよ」
と言うとボビーは、ジェーンの荷物を寝室のテーブルに置いた。
「それじゃ、私はリビングルームに居るから、それと部屋の鍵をここに置いておくよ」
ボビーは、それだけを言うとジェーンと女性刑事を残してリビングルームへ向かった。
暫くするとジェーンと女性刑事がリビングルームに戻ってくると、マーカスと4人で雑談をしてジェーンの緊張を解すようにしていると女性のカウンセラーが到着した。カウンセリングはジェーンの寝室で行ってもらうことにして、2人が寝室に入るとボビーはマーカスに
「一つ相談なんだが、ここに警察用無線を置いて貰えないか?ここを護衛してくれる警官の動きが分かるし、もし何か緊急事態が発生した時に警察無線で助けを求めることも出来るので」
ボビーの依頼にマーカスは
「オーケー、本来ならば民間人の自宅に警察無線を設置するのは無理な相談だけど、ボブなら元警官だし、今回の証人保護プログラムの協力者でもあるんだから上司に掛け合って無線機を置けるように手配するよ」
と快く了承してくれた。
その後、ジェーンのカウンセリングも終わり2人の刑事とカウンセラーが帰るときに、カウンセラーがボビーに
「ジェーンは思いのほか、貴方を父親のように思って安心しているようです。特に、ここに来て直ぐに襲われた時に、貴方が取った彼女を守ろうとする行動で少しずつ信頼しているようで精神的にも安定しているようです。どうか、彼女を守ってやってくださいね」
親切にもボビーにアドバイスをしてくれた。元々、亡くなった妻の間に子供がなかったボビーには、2人の刑事とカウンセラーが帰ってしまってジェーンと2人きりになった際、両親を目の前で殺害された彼女との接し方について明確な考えがあるわけでもなく、どうしようかと思っていた矢先のことで幾らかは気持ちが楽になった。
2人の刑事とカウンセラーが、それぞれの車に乗り込んでボビーの自宅から出発するのを見送る際には、ボビーの隣で見送っていたジェーンの表情は微笑んでいるように見えても何処か暗さが漂っていた。
それを目にしたボビーは、この少女に本当の意味での笑顔が戻るまでには未だ多くの時間が必要なのだと理解した。