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ボビーとキャシー刑事が法廷へ戻ってみると、法廷内での発砲事件の混乱は未だ収まっておらず、法廷内は立ち入り禁止となり制服警察官達が法廷の入り口を厳重に警戒しており、法廷を出された人間は廊下で右往左往している状況であった。

そんな雑踏を極めた廊下で、ジェーンはマーカス刑事に付き添われ不安そうな表情を浮かべていたが、ボビーの姿を見付けると涙を浮かべて喜びを露わにしている。

そんなジェーンを優しい笑顔で抱き締めながらボビーが

「良かった、本当に何処も怪我はないのかい?」

と心配そうに聞くと

「机の中でマーカスさんが、守ってくれたから何処も怪我はしてないわ」

嬉し泣きをしながらジェーンが答える。

ボビーは何度も頷きながらマーカス刑事に顔を向けると

「マーカス、ありがとう。ジェーンを守ってくれて」

ボビーも目に涙が溢れさせながらマーカス刑事に礼を述べる。

マーカス刑事は照れながらも

「ジェーンが無事で良かったんですが、折角の一張羅ジャケットの背中に穴が開いちゃいました」

と羽織っていたジャケットを脱ぐと、弾丸によって開いた穴に右手の人差し指を突っ込んでおどけて見せる。それを見たボビー、ジェーンとキャシー刑事の3人から笑いが漏れるが、ボビーは笑いながらも

「それじゃジェーンを守ってくれた御礼に、俺とジェーンでジャケットを見繕ってプレゼントするよ」

ボビーはジェーンの顔を見ながら言うとジェーンも

「ええ、マーカスさんに似合いそうなのを見付けてあげる」

と嬉しそうな表情でマーカス刑事に言う。

マーカス刑事が嬉しそうな顔をして

「それじゃ、飛び切り良いのをお願いしますね」

お道化た調子で言うと、ボビーは苦笑いを浮かべて

「おいおい、あまり高級なのは期待するなよ」

と言うとジェーン、キャシー刑事とマーカス刑事には笑顔が広がった。

そこへ固い表情の検事が4人に近付いて

「今日の公判は延期となったよ。公判を行う法廷が事件現場となってしまった以上、現場検証等が終わらないうちは法廷を使うわけにはいかないし、今日は別の法廷も全て埋まっているので、判事の判断で延期にするとのことだ。しかも、次回の公判は証人が法廷内で襲撃された事を受けて非公開として行うそうだ」

早口で4人に説明するとマーカス刑事が

「そうですか、それで次回の公判は何時になります?」

と検事に問い掛けてみる。

「先日、バレンタイン氏が裁判所の敷地内で暗殺された状況を踏まえて、こちらと弁護側に日程を連絡するとのことで、今は未だ分からんよ。ただし、裁判所から連絡が入れば警察へも連絡を入れるので、その時には再び証人を含めた厳重な警備体制を敷いて欲しい」

検事がマーカス刑事に答えていると、雑踏が収まらない廊下を手錠が掛けられて刑務官に連行されるフラビオ・ブルーノが通り掛かるが、銃撃騒ぎが発生する前に入廷した時のような太々しい態度は鳴りを潜め、明らかに意気消沈したように見えるだけでなく、ほんの僅かな時間で一挙に老けてしまったようにも見える。絶大な信頼を寄せていた腹心エリオ・ロペスの死が伝えられた事で、自らの裁判が有利に展開されないのを悟り有罪を覚悟しているのかもしれない。

老け込んだようなブルーノの姿を目にしたボビーの表情は、安堵したという感情よりも依然としてジェーンの殺害を諦めているようには思えない猜疑心の方が大きく支配している。

裁判所の屋上でM66拳銃の暴発により死亡したエリオ・ロペスが、ブルーノファミリーで如何ほどの地位を有しているか知る由もないボビーには、裁判所でのジェーン暗殺に失敗したブルーノファミリーの連中が、例えフラビオ・ブルーノからの直接的な指示がないまでも諦める事なく、執拗にジェーンの命を狙ってくるのではないかと考え、未だブルーノファミリーとの闘いが終結していないことを強く自覚した。


前代未聞の法廷での銃撃事件から3日後、それまでジェーンへの襲撃失敗により拘束された実行犯からの事情聴取によって判明したブルーノファミリーの秘匿箇所への一斉捜索が大々的に行われた。

捜索の結果、大量の武器類や違法ドラックが次々と押収され証拠物件の運び出しに当たっては大型トレーラー数台が必要となった程である。特に、ブルーノファミリーの収入源とされる数十トンのドラックが押収された事で、州内におけるドラックの供給バランスが崩れてしまいドラッグの価格が高騰し始めると、それまでブルーノファミリーとの取引関係がないと思われた店舗までもがドラッグを求める暴徒によって襲撃を受ける事態にまでなっていた。

そのためブルーノファミリーの人間達のなかでは、表向きの商売に就いている者達までが店舗を自衛するのに手一杯の状態となって、最早フラビオ・ブルーノが裁判で有罪判決を回避する為、重要な証人であるジェーンを襲撃暗殺するどころの話ではなくなってしまった。更にブルーノファミリーにとって致命的になったのは、組織の主な収入源である違法薬物の販売を支えているドラッグの在庫が枯渇する状況を打開すべく、手配していた数々のドラッグ仕入れルートまでもが警察の摘発を受ける事態となり、ドラックの生産拠点である南米からの供給が絶たれてしまう事態に陥り、ドラックの供給量を維持したいブルーノファミリーでは、窮余の策としてドラックにブドウ糖等の混ぜ物を増量することで凌ごうとしたが、これが返って裏目となってしまいブルーノファミリーが扱うドラックへの需要が落ち込む結果を招く事態となり、ブルーノファミリーが扱う質の悪いドラックだけが売れ残って不良在庫を抱え込み、ブルーノファミリーの財政状態は益々悪化していった。

この一連の流れが、ブルーノファミリー内においてボスであるフラビオ・ブルーノの裁判でさえも高額な弁護士費用を賄っていられるほど組織に余力がない中では、例えボスが有罪になったとしても早目に裁判を終結しなければという雰囲気が高まり始めただけでなく、ブルーノファミリーに資産があるうちにと組織の現金や小切手、預貯金等の横領を始める者が出てきており、加えてブルーノファミリーの幹部である連中が、傾き始めたブルーノファミリーを見限って、早々と別の組織へ鞍替えする者まで現れるに及んでファミリーの崩壊は避けられない様相を呈してきていた。

そのような状況を受けて、警察では重要証人であるジェーンに対する暗殺の危険度は、一時期ほど高くはないと判断して警護の体制を緩め始めた。最も、これは24時間体制で治安を維持する警察としても全警察官の人事管理といった観点から、何時までも複数の警察官を特定人物の警護のためとは言え専従させていられないという事情もある。

しかし、警察やブルーノファミリーの動きとは関係なくボビーの警戒心は一向に薄れることなく、暗殺未遂があった裁判所から帰宅した際にもジェーンに対して

「ごめんね、裁判所でジェーンが襲われそうになった時に渡そうと思っていたジェーンの護身用拳銃をバックアップとして使用したので、ジェーンの護身用拳銃を一時的とは言え証拠物件として警察へ預けることになった。だから、折角ジェーンが護身用に使うはずの拳銃は、警察から返却されないと使えなくなってしまったね」

と言って詫びる。

「そんな事、気にしてないわ。それよりもボブが無事でいてくれた事が嬉しいし、私に買ってくれた拳銃が役に立ったのなら」

ジェーンは微笑みながら本心でボビーに答え、そのジェーンの言葉を聞いたボビーが

「そう言って貰えると嬉しいが、ブルーノの裁判が終わったわけではないし、ジェーンの証言だって次回に延期となったから、再びブルーノファミリーがジェーンの事を襲わないとも限らない。そこでジェーンは未だ我が家でオンライン授業だろうし、此処に居る間は拳銃を持って歩く必要もないので、新しい拳銃をジェーンの護身用に使って貰おうと思うんだ」

ボビーが冷静にジェーンへ話すと椅子から立ち上がり、リビングの椅子に腰掛けているジェーンに待っているようジェスチャーしてガンルームへ歩いて行った。

暫くすると、ボビーは右手に樹脂製の黒いケースを持ってリビングルームに戻ってくると、テーブルの上に樹脂製ケースを置き

「ジェーンには、ちょっと大きいかもしれないな」

そう言いながらジェーンの目の前で樹脂製ケースを開けると中には、米国のスタームルガー社製のRuger-57拳銃が収納されていた。

その拳銃を見たジェーンが

「随分と大きいのね」

と素直な感想を口にした。それを聞いたボビーは、Ruger-57拳銃を取り出してから空のマガジンをRuger-57拳銃に装填すると

「ジェーン、ちょっと持ってみなさい」

ボビーは、銃口をジェーンから見て左側へ向けるようにして差し出すと、ジェーンは頷き右手でRuger-57拳銃を持ってみる。Ruger-57拳銃を手にしたジェーンを見ながらボビーが

「持ってみてどうだい?」

とジェーンに尋ねる。

「ちょっと大きいけど、握れないことはないわ」

そうジェーンは、ボビーに答えるとRuger-57拳銃の銃口をボビーの反対側へ向けて構えてみる。

「これ、見た目よりも軽いのね」

ジェーンが独り言のように呟くと

「マガジンには1発も弾薬が装填されていないから軽いだろうけど、その拳銃のマガジンには20発の弾薬が装填できるので、20発分の弾薬がマガジンに入れば重いかもしれないけど、一度撃ってみるかい?」

ボビーが微笑みながらジェーンに問い掛ける。

「ええ、一度撃ってみたい。けど、この拳銃の銃身は凄く細いけど大丈夫なの?」

頷きながら答えたジェーンだが、同時に素直な疑問も口にした。

確かにRuger-57拳銃が使用する弾薬の口径は5.7ミリメートルとなっており、日本のエアソフトガンが使用する弾の直径6ミリメートルからすれば、玩具で使用する弾よりも実銃で使用する弾薬の直径は0.3ミリメートルも小さいことになり、いくら装薬を発火させて実弾を撃ち出すとは言え、見た目の銃身はボールペンくらいの太さしかないのでは不安に思っても不思議ではない。

ジェーンからの率直な疑問を聞いたボビーは苦笑いを浮かべながら

「大丈夫だよ。そもそも発砲して危険が伴うような銃器をジェーンに使わせることは絶対にないよ。それじゃ、弾薬を持ってくるから座って待っていなさい」

と言って椅子から立ち上がると、ボビーは再びガンルームへ向かった。


米国の大手銃器メーカーであるスタームルガー社のRuger-57拳銃で使用する5.7×28ミリメートル弾は、近年の戦闘において防弾チョッキ等のボディアーマーを着用するのが常態化してきている事を背景として、NATO(北大西洋条約機構)はベルギーの銃器メーカーであるFNハースタル社に拳銃弾であっても防弾服を貫通させることが可能な弾薬と銃器の開発を依頼してきたことが始まりとなっており、NATOの要求条件に応える形で5.7×28ミリメートル弾と、その弾薬を使用するサブマシーンガンのP90短機関銃が開発された。しかし、開発されたP90短機関銃では秘匿携行するのには大き過ぎる事から、後にFN57(ファイブ・セブン)という拳銃が開発されている。

当初5.7×28ミリメートル弾は、軍等で使用されることを念頭に開発されたため、徹甲弾、曳光弾、亜音速弾等が用意されたが、これ等の弾薬は軍や警察関係以外での販売は禁止された事から、後に弾丸部分にポリカーボネートを使用してスポーツ射撃に特化させた弾薬が開発されて民間市場で販売されている。

5.7×28ミリメートル弾を使用する銃器について、開発後30年くらいはFNハースタル社のみが製造していたが、近年の拳銃に対する考え方がFBIのレポートによって一般的に法執行機関で使用される9×19ミリメートル弾、40S&W弾、45ACP弾のいずれであっても1発のみで対象者を無害化することはできず、数多くの銃弾を対象者に命中させることで無害化させることが有効であるとして、40S&W弾や45ACP弾よりも比較的反動が弱く、且つ多くの弾薬が装填出来る9×19ミリメートル弾を再評価している。そのような事を背景に1発当たりの破壊力であるストッピングパワーを重視するよりも、より多くの銃弾を発砲するファイヤーパワーが重要との認識が広まったことで、より多くの弾薬が保持できて発射反動が比較的緩い弾薬への注目が高まってきている。

ちなみに、5.7×28ミリメートル弾の弾丸重量は1.8グラム~3.6グラムであるのに対して9×19ミリメートル弾の弾丸重量は7.5グラム~9.3グラムと比較的軽量である事から破壊力の点では9×19ミリメートル弾より劣るものの、発射反動は9×19ミリメートル弾の7割程度となっており、9×19ミリメートル弾よりも連射スピードを上げることが可能となるほか、マガジンには20発の実弾を装填できる事からファイヤーパワーに優れていると言える。ただし、いくら発射反動が9×19ミリメートル弾の7割程度だとしても射撃経験のない者が、いきなり拳銃を握ってスムーズに連射できるわけではなく相当の練習が必要とされる事に間違いはない。


ボビーは、ガンルームから50発入りの5.7×28ミリメートル弾の紙箱1箱を持ってリビングルームに戻ってくると、ジェーンからRuger-57拳銃を受け取って、グリップの左側面のトリガーガード付け根にあるマガジンストップボタンを押して空のマガジンを抜き出し、マガジンの上部からライフル弾に多く見られるボトルネックの形状をした5.7×28ミリメートル弾を1発ずつ装填していく。なお、ボビーが持って来た5.7×28ミリメートル弾は民間市場で販売されているスポーツ射撃用の弾薬となっている。

マガジンに20発の弾薬を装填し終えるとボビーはジェーンを促して外へ向かう。ボビーが敷地内に整備した射撃場に到着すると、ボビーはペーパーターゲットを持って自作のターゲット板にペーパーターゲットを貼り付け、その間にジェーンはシューティンググラスを掛けてからイヤーマフラーを首に掛けて待機している。

ペーパーターゲットを貼り終えてジェーンのところへ戻って来たボビーから、ジーンズの尻ポケットに仕舞っていた20発の5.7×28ミリメートル弾が装填されたマガジンを渡されたジェーンがRuger-57拳銃に装着すると、マガジンの底を左の掌で軽く叩いてマガジンがマガジンキャッチにエンゲージされた事を確認して、左手でRuger-57拳銃のスライドを上から鷲掴みにするオーバーハンドメソッドという方法でスライドを後方へ引っ張る。スライドのエジェクションポートという空薬莢が排出される出口からマガジンに装填した弾薬が見えると左手で掴んでいたスライドを離す、するとスライドが勢い良く前進してマガジン最上部にある弾薬を薬室に送り込み発砲の準備ができた状態となる。

ジェーンは、右手で親指の上にある手動の安全装置を掛けてから、首に掛けていたイヤーマフラーを耳に装着しようと左手を沿わせた時に

「イヤーマフラーをしても、この弾薬は発砲した時に大きな発砲音が聞こえるから驚かないようにね」

ボビーが優しく忠告するのをジェーンは黙って頷いてから、イヤーマフラーで耳を覆ってから左手をRuger-57拳銃を握っている右手に覆い被せるにして銃口をペーパーターゲットへ向けて構える。

呼吸を整えたジェーンが、右手の親指で安全装置を外して慎重に引き金を引くと「パーン」という大きな発砲音が響き渡った。イヤーマフラーをしているジェーンにも充分過ぎる程の大きな発砲音に驚いたジェーンは両肩を一瞬ビクッと震わせる。

ジェーンがRuger-57拳銃の射撃練習を行うことをボビーは、予め警察無線で警護の警察官に連絡していたが、流石に大きな発砲音が響き渡った事で警護の警察官達も一瞬、発砲音が聞こえた方へ視線を向けるが決して慌てるような素振りは見せない。

ジェーンは最初の発砲音の大きさで驚きはしたが、その発射反動が想像以上に軽いことが分かると、2発目からは2連射のダブルタップ等を上手に決めて見せる。それを後方で見守っていたボビーは、目を丸くしてから嬉しそうに微笑んでいた。

ジェーンがダブルタップ等を繰り返し行った事で、あっと言う間に20発のマガジンは空になって、後退したスライドはスライドストップが掛かってホールドオープンという状態で止まった。10メートルの距離に設置したペーパーターゲットは、ジェーンがダブルタップを繰り返した割には3インチくらいに集弾している。肉眼でペーパーターゲットの状態を見て満足したジェーンが、脇にあるボビーお手製の木製テーブルにホールドオープンしたRuger-57拳銃を置いてから、両手でイヤーマフラーを外して振り返ると

「どうだった?」

照れ臭そうにボビーに尋ねる。ボビーは、微笑みながら拍手をして

「凄かったよ、まさかジェーンが簡単にダブルタップをしてターゲットを外さないとは思わなかった」

素直にジェーンを褒めると

「これ、そんなに反動が強くないから安心して拳銃が撃てるわ」

ジェーンが嬉しそうに言うのを聞いたボビーは、ジェーンのために購入したボディガード2.0拳銃が警察から返却されるまでの間、ジェーンに使ってもらえる新たな護身用拳銃が見つかって安心したというのが本音であった。しかし、ジェーンが安心して射撃できるのは良いとしても小柄なジェーンが、全長が220ミリメートルのRuger-57拳銃はガバメント1911拳銃の全長と同じくらいであるためか、44オートマグナム拳銃でも持っているかの様に見えてしまうので、とても護身用して携行させるのには無理がある。

そこで、ボビーは20発の5.7×28ミリメートル弾を装填したRuger-57拳銃をジェーンの寝室に置かせて、仮にボビーが自宅の敷地内とは言え屋外作業等で、ジェーンの近くに居てやれない場合や深夜の就寝中に襲撃を受ける事態に備えておくことにした。ただし、セルフディフェンス用として常にマガジンへ最大数の弾薬を装填することとなるが、2日に1回とか射撃練習をジェーンにさせてやればマガジンのスプリングがへたってしまう心配はない。本来ならば毎日射撃練習をさせてやりたいところではあるが、5.7×28ミリメートル弾は近年注目されるようになった弾薬であることから、未だ一般に普及している状況ではなく弾薬の価格は充分に高額のため、更に民間市場での注目を浴びて各銃器メーカーが魅力的な銃器を開発販売し、一般的に出回るようになれば弾薬メーカー各社が製造販売する事で価格も下落するのだろうが、それまでは気軽にジェーンの射撃練習させてやるというわけにもいかない。


その日は朝から快晴で比較的空気も乾燥していたので、ジェーンが日課となっている大学のオンライン授業を受講している間に、ボビーはガレージから左肩にアルミ製の脚立を担ぎ、右手には木工用パテと金属製のヘラを持ってブルーノファミリーの連中が襲撃した際にログハウスに着弾した弾痕の補修作業を行っていた。

襲撃してきた連中が放ってきた銃弾は外壁の木材を貫通させたわけではないが、弾痕がある辺りは木材内部に穴を開けて銃弾が留まっており、そのまま放置しては風雨によって木材が腐ってしまう。そうなれば、大掛かりな修繕を施さなければ安心して生活できない。そこで、銃弾によって開けられた弾痕に木製パテを塗り込んでやって木材内部に雨水が侵入するのを防いでやるのだ。

ボビーが弾痕の修理に没頭していた頃、街の方から1台のバイクに跨った20代くらいの若い男性が猛スピードでボビーの自宅へ向かっていた。

ボビーの自宅200メートル手前くらいの距離で、護衛に来ている制服警察官達にもバイクのエンジン音が聞こえていたが、直にブルーノファミリーの勢力が傾いている状態を目の当たりにしている警察官達からすればジェーンを襲撃してくる余力はないだろうという油断もあったために、バイクで疾走してくる男性に疑いの眼差しを向けてはいなかった。

バイクに跨った若い男性は、ボビーの自宅を警護している警察官達の手前50メートルくらいに迫るとスピードを緩めてきた。男性が跨っていたのはホンダCB400で警護の制服警察官の1人が男性に向かって「スピードを出し過ぎないように」と忠告しようとした矢先に、突然バイクの進行方向をボビーの自宅に向けたかと思った途端にバイクを加速し始めた。

慌てた警察官達は、バイクを制止しようとしたが急加速をしているCB400を止める事もできず、エンジン音を響かせながらボビーの自宅の玄関前に向かっていく、CB400の男性がボビーの自宅近くまで来るとバイクを止めて、背中に背負っていたバックからポンプアクションのショットガンを取り出した。そのショットガンは、ピストルグリップを装着しているために全長が思いの外短い。取り出したショットガンの銃身の下にあるフォアエンドを掴むと後方へ引き、弾薬であるショットシェルが薬室に装填されると無言でボビーの自宅へ向けて発砲した。

撃ち出された散弾のうち2~3粒が、窓ガラスに命中するとガラスには2ケ所に蜘蛛の巣状のひび割れが出来る。発砲音と窓ガラスに散弾が命中した音を耳にしたオンライン授業中のジェーンは、両耳を手で塞ぐと悲鳴を上げる。

発砲音が聞こえたボビーは、慌てて脚立から降りると右腰に取り付けていたヒップホルスターから44マグナム弾を使用するニュースーパーブラックホークを抜き出し、玄関の方へ向かった。

ボビーが自宅の修繕作業に拳銃を、しかも44マグナム弾を使用するニュースーパーブラックホークを携行していたのは、山間部にある自宅周辺には野生のクマが出没するのは決して珍しいことではなく、仮に自宅の修繕作業中にクマと遭遇した場合には自衛のために銃を使わなければならなくなるが、携行性に優れる拳銃で野生のクマを相手とするには44マグナム弾くらいの破壊力がなければ心許ないので、修繕作業と言え44マグナム弾を装填したニュースーパーブラックホークを携行していたのである。

ニュースーパーブラックホークを持って歩き出したボビーが、家の中からジェーンの悲鳴が聞こえてくると小走りになって玄関へ向かうと同時に、右手の親指でニュースーパーブラックホークのハンマーを起した。すると、玄関の前にはホンダのCB400バイクが止まっており、ヘルメットも被っていない若い男性がポンプ式のショットガンを持って佇んでいる。

ボビーは大声で

「お前、一体何しに来た?」

と声を掛けると、若い男性は返答することなくボビーにショットガンの銃口を向けてくるとショットガンを発砲してきた。

慌ててボビーが家の陰に隠れると、放たれた散弾が自宅の壁に命中して小さな木片を飛び散らせる。ボビーは、ニュースーパーブラックホーク拳銃を両手で構えると隠れていた自宅の陰から飛び出してみると、CB400に跨っていた若い男性がボビーから見てバイクを盾代わりにするようにしてショットガンを構えている。

そこで、ボビーはホンダCB400に向けてニュースーパーブラックホーク拳銃を発砲すると大きな発砲音と共にホンダCB400が倒れた。盾代わりになる物を失い、更にはボビーの自宅を警護しに来ている制服警察官達が拳銃を構えて迫って来る状況に、若い男性は持っていたショットガンを放り投げると両手を挙げて降参する意思表示を示してきた。

ボビーは、ニュースーパーブラックホーク拳銃の銃口を若い男性に向けた状態にして制服警察官達が若い男性に近付いて逮捕するのを待っている。それは、ボビーが手にしているニュースーパーブラックホーク44マグナム拳銃であることから、仮に若い男性が反撃するような行為をした場合、相手を拘束するための手錠やテーザー銃のような道具を持たないボビーとしては、ニュースーパーブラックホーク拳銃を発砲する以外に手段がない。しかし、この至近距離で44マグナム弾を発砲した際には映画やドラマ等のように弾丸を掠めさせるような撃ち方ができる可能性は低く、間違いなく相手を死傷させてしまうので安易な行動が取れない。

そこへ、玄関からRuger-57拳銃を右手に持ってジェーンが現れると両手を挙げていた若い男性は、急に右手を右腰の辺りへ移動させる。それを見たボビーと制服警察官達は、頭の中に若い男性が右腰にマイクロコンパクトの拳銃を隠し持っていてジェーンに発砲するかもしれないと一瞬過るが、未だ視界に男性の右手に拳銃が握られているのが確認できているわけではないので、ボビーや制服警察官達も拳銃の使用ができず、制服警察官達が口々に若い男性に対して「フリーズッ」と警告するのが精一杯である。

若い男性は、制服警察官達の警告を無視してジーンズの尻ポケット右側から何かを抜き出した。制服警察官達からは男性が右手に何かを握っているのまでは確認できていたが、それが拳銃である確証はない。また、男性の左側に位置していたボビーからは右腕が腰の方へいったのまでは分かるが、そこで拳銃を取り出しているのかまでは見ることができない。

男性の右手には、スタームルガー社製のLCP拳銃が握られていた。全長131ミリメートルのマイクロコンパクト拳銃は380ACP弾薬を使用し、成人男性ならば手の中に隠れしまう大きさで護身用の銃器として比較的人気がある。男性は予めLCP拳銃の薬室に弾薬を装填していたのか、右手の人差し指を引き金に掛けるのと同時に中指と薬指でLCP拳銃を握り締めながら銃口をジェーンへ向けようとしている。

ボビーと制服警察官達は、ジェーンへの発砲を阻止しようと銃口を男性に向けた瞬間に「パーン」という可成り大きな発砲音が響き渡った。若い男性は、「あっ」と叫ぶとLCP拳銃の銃口が斜め下に向いている状態でLCP拳銃を発砲させ、「パン」という発砲音と共に放たれた380弾は、砂利敷の地面に命中して小さな石礫を数個撥ね上げる。その後、男性はLCP拳銃を放り投げると左手で右肩を抑えながら「イテーよ」と叫んで地面を転げまわる。

最初の発砲音に驚いたボビーと制服警察官達は、発砲音が発せられた方へ視線を向けるとジェーンがRuger-57拳銃を両手で構えて若い男性へ向けて発砲したのだが、直後に男性が「イテー」と叫び地面に転げまわるのを目にすると、ボビーと制服警察官達は一斉に男性へ近付いていく。

男性に近寄ると、制服警察官の1人が地面に落とされたLCP拳銃を若い男性から遠ざけるように蹴り飛ばし、その間はボビーと別の制服警察官が手にした拳銃の銃口を男性に向けて不測の事態に備えている。

LCP拳銃が地面を転げ回っている男性の手が届かない位置まで遠ざけられてから、2人の警察官が撃たれた右肩の応急手当を施した後に両手を後へ廻してから手錠を掛けて拘束する。

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