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スプラウトヴァージュの交差点  作者: 実川みのる
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1.プロローグ

秋風が枯れ葉を巻き上げ、はらはらと木の彩りを削いでいく。古い木枠にはめられた硝子は外の風景を少しだけ歪めて映し出していた。大昔に手作業で作られた硝子は不規則な歪みを生じさせるのだ。明らかに現代の代物ではない。古城を改修して作られた石作の校舎の中は、歴史ある風格を残したままに学校として機能させられている。

そんな中熱心に窓の外を眺める少女が一人。


初老の教師は生徒がうたた寝をしていないか目ざとく監視をしながら教壇に立ち、歴史の授業をしていた。


今はちょうど異界ノヴレッジが地球に出現し、異界のなかでも魔法族と呼ばれる人間が侵略戦争をはじめたころの単元である。


89年前の異界大戦で、地球との唯一の交流点となる島が北大西洋に突如発生した。

その島の名前はエメラルドグローブ島。通称、魔法島。

少女がたった今、退屈な授業を受けている学び舎もまたそこにあった。

魔法使いの住む島だ。

したがって、彼女も魔法が使えるのである。生まれ育ったのは、この島でも異界でもなかったが。


彼女はこの島の中で異物だった。


「ウッドヴァイン。XXXX年に起こった魔法族によるフランス地域への大規模攻撃は何と言う?」

「ナント侵攻です」

ウッドヴァインと呼ばれた金髪をツインテールにしている眼鏡の少女は教科書にも目を落とさず、教師の方にも見向きをしないで言葉を発した。

この様子に一瞬むっとしたように教師は眉をひそめたが、いつものようにため息を付く。どうしようもないと言いたげな語調で「窓の外ばかりを注視しないように」と注意を促す。


これにも少女は視線を向けること無く無視をきめこんだ。

それに一瞬の間が開く。


教師はしばらく少女を見つめていたが、時間の無駄だということを理解し、教科書を諳んじることへと戻る。周囲の数人の女子生徒はひそひそと声を潜めて彼女の悪口を言い合い、クスクスと笑った。いつもの授業風景は元通り淡々と進んでいく。

少女にはこれが大変苦痛で、つまらないことだった。


一度読めばわかることを喋り続ける教師も、一度見れば覚えられる問題を繰り返しさせられるのも、一度使えば使いこなせる魔法を使わさせられるのも、全てが平坦な作業だと思っていた。

工場で延々と流れてくる簡単な部品の組み立てを、いつまでもさせられているような感覚。働いている間は賃金が出るが、学校はそうもいかない。


そして、面倒くさい幼稚なこどもとの人間関係もつきまとう。彼女にとってここは監獄と変わりなかった。ずっと時計の針が早く進まないかと、睨みつけることしかできない。


そして時計を眺めるのに飽きたので、彼女は空を流れ行く雲をじっと観察していた。


カミラ・ウッドヴァインは学校という場所が大嫌いである。

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