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不器用”勇者”の幸せな契約婚 ―ビジネスライクで誠実すぎる二人は、最高に相性がいいようです―  作者: 時田唯


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3-4.「私は”勇者”チヒロ。協力、感謝する」

 ――ここからの話はすべて、後にハタノが記憶を元に思い出したものだ。

 それくらい当時の状況は混迷を極めていたし、ハタノ自身、チヒロの動きが早すぎて見えなかった、というのもある。

 何れにせよ彼女の行動は恐ろしく冷徹、かつ、論理的な行動であったと思う。




 迷宮十三階層、その奥にオークの集落は存在した。

 石畳の迷路から一変、僅かな草木と土の地面が広がる広間にて、でっぷりとした腹を揺らしたオーク達が寝転がり、あるいは槍を研ぎながら言葉にならない鳴き声をあげていた。

 その数、およそ五十以上。


 その中央広間には、複数名の人間が縛られた姿で転がされていた。

 人間の姿は様々だ。足を折られたまま怯える鎧姿の少年。魔術師のローブが大きくはだけ、ボロボロの姿を隠すこともできず倒れたままの女性。

 人垣の中央に一人、白い貴族服を着込みでっぷりと肥えた男がいるが、その男もいまは情けなく青ざめ震えるばかりだ。



 ”知恵付き”――人並みの知恵をもつ特殊なオークが誕生した場合、彼等の行動様式は大きく変化する。

 群れを成し、社会を作るのだ。

 魔力のよどみから自然発生する魔物は本来、社会性を持たないが、知恵付きの集団は別だ。魔物としては異例の、同種同士で交配を始め、生まれた我が子を愛し、育て、家族を形成していく。

 そのため爆発的に数を増やす性質を持ち、さらに家族の絆を深めるため”祭り”を開く。

 もちろん祭りの主役は、人間の肉というご馳走。捕まった彼等はじきに四肢を裂かれ、魔物の腹の足しになるだろう。



 その祭りの開演に、チヒロ達は間に合った。

 見張りを消したチヒロが、広間へと足を踏み入れる。

 直後。奥の玉座に腰掛けた、並のオークの二倍以上の体躯をもつ”王”と、ぴたりと、目が合った。


 王がその豚顔を歪め、チヒロを睨み――


「……どうシテ、無傷の人間がここに居ル? 貴様、何者――」


 チヒロが消えた。

 正しくは、強弓より放たれた矢のように、飛びかかった。


 ハタノが気付いた時には、チヒロは和服をはためかせながら王の鼻っ柱に蹴りを入れ、そのまま地面に叩きつけていた。

 ぐおお、とオークの王が悲鳴をあげ、配下のオーク達が驚いて顔を上げる。

 誰一人、チヒロの速度に追いつかない。



 その一瞬が、命運を決めた。



 チヒロが王を足蹴にする。

 そして倒れた王の首筋に、すっ……と刀を寄せ、凜とした声で告げた。


「全員、動くな。王の首が惜しければな」

「なっ――き、貴様! この王タル我を質に――ぐぎゃアッ!」

「喋るな」


 チヒロが刀を突き立て、王の右腕を貫いた。

 その悲鳴に並居るオーク達がようやく立ち上がり、チヒロに槍を、弓を、そして魔法の杖を向ける。


 チヒロはすかさず周囲を見渡し――王の傍にいた、小さなオークに目をつける。

 王の子供だろう。

 魔物と呼ぶにはつぶらな瞳を浮かべたそいつに、チヒロは刀を下ろす。


 子供オークの右膝から下が飛んだ。

 悲鳴をあげる子供オークの首根っこをチヒロが掴み、見せつけるように突き出し――矢を放とうとしたオーク達へ、盾になるようぶら下げる。

 ざわり、と魔物達の動きが止まった。


「ッ、わ、我が子ヲ離せ! 貴様、ナンたる無礼を……」

「喋るな、と忠告したはずだが? 抵抗すると痛い目を見るぞ。お前の子が、な」


 チヒロが子供のオークを捉えたまま、その首筋に刀を沿わせる。

 チヒロの瞳には何一つ、感情らしきものは浮かんでおらず――その冷ややかな眼差しが、オークの王を引きつらせた。


「ま、待て。止めろ! 頼ム!」

「なら全員、その場を動くな。旦那様、歩ける者をなるだけ増やし、脱出を」

「っ……はい!」


 さすがのハタノですら、一瞬、我を忘れた。チヒロの凶行に怯んだのだ。

 が、理性はすぐさま、彼女の意図を理解する。


 ”知恵付き”を殺せば、オーク達は暴走を始める。そうなると、三十名以上もいる怪我人を救出することは難しい。

 チヒロが王を抑え、時間を稼ぐ間に、ハタノは怪我人達の元へと走る。


(粗雑治癒でいい。まず脱出の準備を)


 ハタノは動けそうな兵士の縄をナイフで切りつつ、状況を選別。

 縄で縛られてるだけの者。足や肩をへし折られ転がされている者。腹部に刃物を突き立てられたまま蹲ってる者。左腕がなく既に冷たくなっている者。

 こびりつく血と汗と悪臭のなか、ハタノは救える命を数える。

 生存者は止血を済ませており、逆に出血多量の者はすでに絶命している。生死の境にいる者が少ないのは、ある意味で幸運――死体は救助する必要が無いから。

 ハタノは手近な男の足首をがっと掴み、整復しつつ治癒魔法を放つ。


「失礼。歩けるように治癒します」

「あ、がっ、っ――!」


 足をへし折られた鎧姿の男を掴み、治癒魔法を一気に行使。

 血管や神経の断絶には復元魔法が必要だが、さいわい骨は自然治癒力が高いため、整復さえ正しくすれば治癒魔法が届きやすい。


「なるだけ、動ける人を増やします。それと皆さんこれを」


 治癒魔法を扱いながら、ハタノは魔力ポーションを手渡していく。

 ”才”ある者なら、魔力を体力に換算でき、失血や体力の消耗を軽減できる、と見込んだのだが――


 その差し出したポーションを、横からかっさらわれた。


「それを我によこせ! 我の治癒をしろ、こんな愚図共など放っておけ!」


 叫んだのは人質達の中央、でっぷりと肥えた男だ。

 迷宮では目立ちすぎる白の貴族服に、ちぢれた金髪。ふくよかな肉体は迷宮に潜るには適してなく、腰元に下げた立派な剣にも使い込まれた様子はない。

 ハタノは苦い顔をしながら、苦言を呈した。


「いまは可能な限り、人命を救助することが先決です。すみませんが魔力ポーションは生存者へ均等に」

「そんなことより、早く我を地上に……」

「――助かりたければ黙って従え!」


 遠くからチヒロの喝が飛び、貴族男が震えて黙った。

 それ幸いにと、ハタノは別の者を治癒をしつつ、瀕死と思わしき二人に目線を送る。


 ……一人は失血が酷い。脱出まで持たないだろう。

 もう一人は腹部にナイフが刺さったままだが、幸い大きな失血はない。刃物が動脈や臓器を傷つけている可能性は高いが、刺さった刃物がそのまま蓋の役割を果たしている可能性がある。

 この場で治癒するには時間が掛かりすぎるが、刃物を動かさず地上まで運べれば、救命できるかもしれない。



 歩ける程度になるまで治癒を続けるハタノの傍では、チヒロがオークの王と交渉を続けている。


「貴様、マサカ“勇者”か? ……このママ、我等の命を――」

「安心しろ。そのような無体は行わない。私は”勇者”。人命は守るが、無益な殺生は好まない」

「し、信じラレルか、そんなもの!」

「証拠をみせよう」


 チヒロが、盾にしていたオークの子供をそっと下ろした。

 既に泡を吹き、気絶していた魔物の足に手を当て、治癒魔法を行使する。

 ハタノの治癒魔法には大きく劣るが、光とともに子供の失血が止まる。


「大人しくするなら、これ以上の手は出さない」

「だが、人間ガ我等を見逃すなど、聞いたコトガ――」

「オークは人肉を好むが、迷宮の魔物を喰らって生きることも出来るだろう? ひっそりと迷宮の地下に潜むのなら、私もそれ以上手は出さない」

「…………」

「王よ。お前は魔物だが、それでも愛おしい妻や息子がいるのだろう? 家族を愛しく思う気持ちは、私にも理解できる。決して、無碍にはしない」


 信じてくれ、と、チヒロは刀を突きつけながら、柔らかく口元を緩めた。

 慈母のように、優しく。

 追い詰められたオークの王にとって、その微笑みはとても魅力的に見え――同時に、ハタノはその笑顔が、仕事中に自分がよく浮かべている笑顔にそっくりだと気づく。


 ハタノはチヒロから視線を逸らし、治癒師らしき男の遺体のアイテム袋に手をつけた。

 救援用の折りたたみ担架を取り出し、かろうじて歩ける者達に指示。


「あちらの、腹を刺されてる方を運び出します。刃物は絶対抜かず、なるだけ動かさないように。私が持続回復しつつ、地上まで持たせます。後は歩けない者を背負い、脱出を」


 最後に、ハタノは金髪の貴族男を睨み付けた。


「怪我人を運びます。協力をお願いします」

「っ、わ、我に命令するか。なんで我がこやつらの世話など! 第一、我も怪我をしてるのだぞ、怪我を!」

「軽傷でしょう。手伝いをお願いします。それとも豚の餌になりたいですか?」


 男はこの後に及んでも何か言いたげだったが、チヒロを恐れて黙った。

 それでも下銭な仕事はしないとばかりに腕を組む。まあ、邪魔をしないのなら結構。ハタノも期待していない。


 そうして可能な限り怪我人をつれ、ハタノが脱出の準備を始めた頃――


「待って! お願い、彼を、助けて……」


 ハタノの身体に、女戦士がすがりついてきた。

 その女の傍らには、相方らしき右腕のない男。

 地面に横たわったまま血は流れきっており、呼吸もなく瞼も半開きのまま宙を見つめている。


「お願い、お願いだから……!」


 女が縋る。きっと、彼女にとって大切な人だったのだろう。

 が、それはもう、死体だ。


 ハタノは、チヒロと同じ……慈母のように優しい笑みを浮かべて、囁く。


「安心してください。必ず助けますから」

「ああ、良かっ――」


 女がほっとした隙をつき、ハタノは彼女の額に手を当て催眠魔法を打ち込んだ。

 麻酔効果を持つこの魔法は、対象の精神がゆるんだ時のほうが有効だ。


 どさ、と女が崩れ落ち、その身体をなんとか背負う。これで全員だ。


「チヒロさん。あとを、お願いします」

「ええ。旦那様も後発隊と合流後、速やかに地上へ」

「はい。チヒロさんも、お気を付けて」


 ハタノは後ろを振り返らず、怪我人の群れとともに足早に出口を目指した。





 その姿を見届けたチヒロは、そっと刀に力を込める。


「オークの王よ、あなたは魔物ではあったが、約束は守る真摯な方であった」

「ああ。だかラ、我が子を助け――」

「私は”勇者”チヒロ。協力、感謝する」


 チヒロが王の首を跳ね、返す刀で子供の首を切り飛ばした。


 途端、オーク達が怒りと絶望の声をあげ、暴走する。

 チヒロはすかさず広間の入口へと飛び、刀を翻しながら、全てを焼き払う炎を灯し始めた。


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