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ダンジョンクリエイター  作者: ダルマ
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第三話 消えた灯

メイラザールはダンジョン作りのきっかけを思い出していた。


公的なパーティーの集まり、そこでライバルのドラゴン達と口論の末、ダンジョン作りが提案された。


その時部下かが言った。


『口げんかに乗ってはいけません!』


だが、逃げるわけにはいかなかった。


ドラゴン族の中では地位も名誉もある古代種。


圧倒的な暴力でねじ伏せることで威厳を保ってきた。


だから、どんな勝負であれ逃げることは許されない。


そして、――騙された。


ダンジョンがダンジョンではない。


部下が言う。


『これではいけません!』


認めない。


どうにかなるはずだ。


敵が来ればそれを蹴散らし、金にして立て直す。


ダンジョンとはそういうものだ。


雇い入れた兵士達が次々と辞職していった。


敵がいない。


どうして、誰もやってこない。


また部下が言う。


『もう資金がありません』


売り言葉に買い言葉、罵倒は部下に向けられた。


次々に部下が減っていく。


一人でもできる。


誰かが悪い。


私はよくやっている。


うまく、やっている。


まだ何とかなる。


『……もう』


そして、最後の部下も去っていった。


残されたダンジョンに一人取り残された。


もう誰もいない。


味方も敵も誰一人、ここにはいない。


静かな時間が流れた。


それは次の日も、また次の日も、永遠のように続いた。


その時、同族の昔話を思い出した。


『人族の中で変わり者がいて、そいつダンジョンで暮らしていて、ダンジョンの事にめっぽう詳しいらしいわよ』


唯一残っていたプライドに火が灯る。


その人族を雇い入れ、ダンジョンを立て直す。


誰かにそれがバレたら笑いものになる?


だったら、隠し続ければいい。


人族だとバレずにうまくやれば……。


最後の賭けだ。


プライドを捨て敵である人族のいる里まで降りて、縋った。


経過はどうであれ、人族を招き入れる事には成功した。


噂の人族かどうかは分からない。


だが、この人族はダンジョンクリエイトに興味を示している。


後は、ここがダンジョンでないことをうまく誤魔化し続けるしかない。


入り口は小さいが、人族のサイズでは特に気にならないだろう。


中に入ってからは、何も話さない事で誤魔化し続ける。


ここはダンジョンだ、人族では知らない事が多いだろう。


だから気が付かれるはずがない。


人族が何かを言った。


だが聞こえなかった。


だから、無視する。


「奥まで行くぞ。玉座に案内する」


人族は何も尋ねてこない。


道に迷わないのは、私がここの主人だからだ。

私がいるから魔物や兵士が現れないのだ。

私がいるから罠が発動しないのだ。


色々と言い訳を考えながら質問されないのならば都合がいいと進み続ける。


だけど、何もない玉座に辿り着くと言い訳すら思いつかなくなった。


「な、何か聞きたいことはあるか?」


だから、自分から尋ねてしまった。


後は野となれ山となれ。


「作り始めてからどれくらい経ってる?」


ダンジョンの劣化を気にしている?


「およそ一年といったくらいだ」


これならば、


「敵はどれくらいの頻度で現れた(・・・)?」


うまく誤魔化せる?


「五回ほど」


まだ希望はある!


「ど、どうだ、クリエイトがいがあるだろ!」


ドクンドクンと柄にも合わず心臓が激しく鼓動する。


ところが、


「うん」


素っ気ないほど、冷たい返事。


その返事は全てを理解し、興味を失っていた。


ダメだ。


ダメだダメだ!


人族まで見放すな!


お前まで、いなくなるな!


腹の裾を掴み、必死に答える。


お前までいなくなったら――、


「そ、そうだろ……。いいダンジョンなんだ……」



――私は一人になってしまう。



最後の賭けである人族にも見放される。


もう、このダンジョンには何もない。


金も、権力も、プライドですらダンジョンによって失われた。


ダンジョン作りは誇りと誇りを掛けた戦い。


誰かの助言を聞き入れていれば、少しは違う形になったのだろうか。


「私は……」


震えた声で言う。


嫌われ者の末路。


「馬鹿だった……」


始めて認めた時にはもう何もかもを失った後だった。


最後に残った灯も静かに、消える。



「失敗しただけだろ」



もうそれは取り返しがつかないはずだ。


それでも、


一緒に(・・・)頑張ろう!」


まだ、一人ではない。


その言葉と差し伸ばされた人族の手に自然に手が伸びるが、掴むことは出来ない。


「もう何も残っていない……」


すぐに来る絶望だったら、掴まない方がいい。


しかし、止まった手は強く人族から引っ張り上げられた。


「ゼロからのスタートだ!」


消えた灯は新たな灯となって小さくつけられた。



「大丈夫、今度は俺がいる!」



トクンと心臓が小さく跳ねる。


「一緒にいてくれるのか……?」


ここからがスタートライン。


「当然」


メイラザールの顔が熱を帯びる。


「そ、そそ、そそそこまで言うなら仕方ないっ、やって見せなさいっ」


ごもった口調に隣にいる人族は笑っている。


――失いたくない。


そう本心で思った。


「改めて名を訊かせなさいっ」


「ハイクレース・アウディ」


この人族は私のモノにする。


「ならば、今後はDと名乗り、私の事は――」


「Dか、いいね」


「めめ、メイラと呼ぶことを許しますっ」


身内の中でも親密な者しか呼ばせない敬称を明かす。


「わかった。改めてよろしく、メイラ」


掴まれていた手に力を加えて掴みなおす。


「ええ、よろしくD」


この手が離れない事を祈り、ここからダンジョンクリエイトが始まる。


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