第二話 ダンジョンもどき
メイラザールのダンジョンへは徒歩で行くことになった。
ディはドラゴンの背に乗せてもらえるかもと少なからず期待していたが、ドラゴンのプライドからそんな事させるかと一喝された。
なので、人里離れた山奥まで数日の時間を使う。
道中、特に会話らしい会話はなかった。
理由としては話すことがなかったこと。
メイラザールが何か後悔の念のような独り言を終始呟き続けた事。
ディはディで初体験のドラゴンのダンジョンに期待値で想像を膨らませるのに忙しかったなど、お互いに違うベクトルで忙しかった。
そして、いよいよそのダンジョンへと到着した。
現在、メイラザールとディはダンジョンの入り口の前にいる。
見た目は、小さな洞穴のようで、小柄な人型のメイラザールですら屈まなければいけないほど小さい。
ディは、カモフラージュの一種だと考える。
ダンジョンクリエイトを頼まれたという事は、まだ制作段階。その状態で敵に襲われない為の処置、そう理解する。
何度も言うように、ディにとってドラゴンの巣は初体験の事だ。
ダンジョン好きといっても、それだけではダンジョンに好き勝手入れるわけではない。
とりわけ、ギルドに所属しているとランクというものもある。
だから、ダンジョンの中には悪名高い知名度の高いドラゴンの巣を知っていても入る事は困難だった。
近くの町まで来れたとしてもその入り口すら見たことがない。
よって、今までの経験値はあまり役に立たないかもしれない。
ディは早くダンジョンの中へと入りたい一心で、催促の目をメイラザールへ向ける。
メイラザールはどこか、強張った表情でディを見た。
「覚悟はいいか?」
ディは深く頷く。
ドキドキを期待に変えてそのダンジョンへと一歩を踏み出した。
「これが……」
ほの暗いダンジョンは光源がまだ少ないようだ。
だけど、ダンジョンに詳しいディはすぐに気が付く。
「……ダンジョン?」
ダンジョンには必ずと言っていいほど、あるはずのものがない。
もちろんそれは、ダンジョンにとって一番大切な物であるため、入って早々置いてあるものではない。
だが、ダンジョンならでの気配が感じられない事でディは頭を傾げた。
「なるほど、クリエイトか……」
その言葉で大体の説明はつくと勝手に納得する。
「奥まで行くぞ。玉座に案内する」
ぶっきらぼうに言うと、メイラザールが進んでいく。
道中、何本かの分かれ道などがあるが、それ以外は特に罠らしいものも、迷路なんかの惑わしの通路、魔獣、魔物なんかも現れたりはしなかった。
ただ、何か所か崩れた場所があったり、戦闘をした形跡などは見かける。
ディの中で、一つの疑問が生まれていた。
だが、この段階では確証は得られない。
今はまだ、早計であると何も口にはしない。
そんな状況が続き、黙々と進むこと、一時間もかからず最奥まで到達した。
「な、何か聞きたいことはあるか?」
何もかもを投げ出したような口ぶりに、ディは思いついた質問をいくつかしてみる事にした。
「作り始めてからどれくらい経ってる?」
「およそ一年くらいだ」
「敵はどれくらいの頻度で現れた?」
「五回ほど」
うーんと、ダンジョンの中で天を仰ぎディは悩み始めた。
「(これは正直に話してくれるだろうか……?)」
ディはいよいよ確信を得てしまった。
ここはダンジョンではない。
ただの洞窟だ。
ダンジョンにはダンジョンコアという心臓がまず必要である。
それは、ダンジョンの維持や、修繕に使われ、コアの質によっては魔獣を作り出す。
が、その核がない。
ここがまだクリエイト段階であり、まだ誰にも気が付かれておらず、ダンジョンコアを植え付けていない状況だと考えたが、さっきの質問によってそれもないことが明らかになった。
「ど、どうだ、クリエイトがいがあるだろ!」
ダンジョンもどきのアピール。
「うん」
ディは空返事をするしかなかった。
それだけでメイラザールも全てを理解した。
腹の裾を掴み、必死に答える。
「そ、そうだろ……。いいダンジョンなんだ……」