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ダンジョンクリエイター  作者: ダルマ
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第一話 ドラゴンと青年

新連載になります。


ダンジョンのある世界。


様々な種族がその攻略を目指し一攫千金を狙い、ある者はダンジョンマスターの称号という名誉に憧れる。


そして、ダンジョンは人々の生活に欠かせない。

物資はもちろん、宝石や趣向品。ダンジョンに生まれる様々な者が人々の生活を豊かにしていた。


その中で稀有な種族がいた。


ドラゴン族である。


ダンジョンを攻略しようとする種族とは異なり、自身でダンジョンを管理し住処とする。

だからといって、そこが本拠というわけではなく、一つの流行とも趣味ともいえる。


目的は様々であるが、大半がダンジョンの出来を自慢するという、力比べ。

それによって格を表していた。


そんなある日も、『ダンジョンマスター』の管理を司るギルドに一人の……、一頭の女性が来訪していた。


性別は雌、名をメイラザール・バルガザーシュという。

彼女は、ドラゴン族の中でも最強の種族である古代種。人型に変身できるようになって数百年の月日が経っている。


そんな彼女が人型の姿でギルドの受付のテーブルを加減した拳で叩く。


「何故だ⁉ ちゃんと許可を取りに来ているではないか!」


勘違いがないように言うが、人族は基本的に敵である。


そんなドラゴン族であるメイラザールが、正式に人族のルールに則り、一つのダンジョンの攻略を受け入れるよう来訪したのだ。


しかし、受付の女性は困ったように説明をする。


「基本的にダンジョンの中に入れるのはダンジョンマスターを目指す、キャプチャーの方だけです。こちらでキャプチャーになる為の試験も受け付けておりますが……」


メイラザールは「ぐっ」と知らないルールに唸る。


ドラゴン族は気高い種族という自負が、人族の輪に一瞬でも入ることに嫌悪感を抱いた。

ただでさえ、人族の住まう地に来ることさえ抵抗があったのに、加えてその仲間になれと言われたような気分だ。

さらに、それすら我慢してさらに我慢しなければならない理由があるにもかかわらずだ。


だからといって、ここで暴れることはしない。


なぜなら、ドラゴン族が敵と認識しているのは、正確には人族も、であり、他の種族も基本的にドラゴン族を敵と認識している。


それを色々な種族が集まり、少なからず力自慢の猛者達が集まるギルドで暴れてしまっては、いくらドラゴン族と言え、ただでは済まない。


苦虫を噛みしめるように、メイラザールは我慢を強いられる。


「……他にダンジョンに入る方法は?」


だから尋ねる事しかできない。


「でしたら、単純にダンジョンに入るという理由であれば、キャプチャーへ依頼を出し、同行者としてダンジョンに潜ることはできます。ですが、危険は伴いますし、金額に応じて依頼自体が受けてもらえない可能性もあります」


再びメイラザールは小さく唸る。


「そ、それはいかほどか?」


しかし今度はプライドによるものではない。

単純に、持っていないモノを出せない為だった。


「そうですね。護衛付きや、何か目的な品などがあればその分上乗せが必要ですね」


メイラザールは受付の言い方にわずかな可能性に目を輝かせて飛びつく。


「両方ともいらん! さすれば値段は――」


「金貨五枚ほどでしょうか」


――終わった。


「そ、そうか。うむ。は、払えん金額ではないが、少しばかり思案しようと思う。せ、世話になったな」


騒ぎを起こさず、正規でのダンジョンに潜るのは不可能であることを悟ったメイラザールは明らかに肩を落としながらギルドの扉へととぼとぼと歩き出した。


そんな後ろ姿を見送る受付の女性は、


「(お金なかったんだ)」


心の中で呟いた。


そんな中、様子を見ていた気さくなドワーフ族の男性が、メイラザールに話しかける。


「なんだ嬢ちゃん、ダンジョンになんか目的があったんか?」


メイラザールはそのドワーフを見下ろしながら、


「まぁな」


素っ気なく答える。


技巧が抜き出た種族であるドワーフは、あまり敵対することはない。

だが、背中に背負うハンマーのような武器で、キャプチャーであるのは間違いがないだろう。


「なんだ、話しぐらい聞いてやるぞ」


本来の目的を諦めかけていて分、話しぐらいしていいかとメイラザールはぽつぽつと話し始めた。


「噂でな。ダンジョンに住む、ダンジョンに詳しい人族がおると聞いて、一目会ってみたかったのだ」


そういうと、ギルト内にも聞こえていたのだろう。

急に静寂の後、ギルド内が笑い声で響き渡った。


話しかけてきたひげ面のドワーフもその一人だ。


「がっははは、嬢ちゃんそれはただの、噂で嘘だ」


メイラザールは知人から聞いた話を信じ、藁をもすがる思いで来た。

それにも関わらず、人族の間ではそれは嘘でしかないとされていた。


自分が騙されたことにメイラザールの白い肌が真っ赤に染まる。


「ダンジョンに住むなんてのは、ダンジョンで生成された魔物や魔獣、それこそドラゴンぐらいしかできん。人族がダンジョンで暮らすなんてのは不可能だ。それこそ、もって七日がいいとこ、万全な準備をしていたとしても、ひと月もすれば、魔力も尽き、生き残れんぞ」


そんなことは分かっている。


だからこそ、そんな者がいれば、『ダンジョンを作る為の役に立つ』と信じてやってきたのだ。


「それでも潜りたいってんなら、同行者として連れてってやらん事もないぞ」


これ以上、恥の上乗せはと思わくはないが、ここまで来たならばこの目で確かめなければ引っ込みが付かない。


そう思い、意を決して――、


「金次第だがな、がっははははは」


その声を飲み込んだ。


「酒でもいいぞ」


尚も笑い続ける。


皆が皆馬鹿にしている笑い声をあげる。


メイラザールの頭は真っ白になった。


自分よりも低い種族にここまで馬鹿にされて、黙っていてはドラゴンの誇りが傷つく。

いっそのこと全てを消し炭にしてやろうか。


羞恥が怒りに変わっていく中で、同族の顔が浮かぶ。


ここで暴れては自分が置かれている状況、その結果から人族にすがる為に人族の里に下りたことが露呈される。


そうなれば、どちらにせよドラゴン族の恥。


もうすでに、誇りなど消えてしまった。


怒りもなにもかも失っていく。


いっそのことこのまま消え去りたいほどに。


そんな時だった。


ギルドの扉が開き、人族の平凡な青年が入ってくる。


「相変わらず汚い笑い声がする場所だなー」


呑気な表情で笑い声の理由も知らず、その嫌な雰囲気に嫌悪感を向けていた。


その青年に、気さくなドワーフは、


「そう言うな。お前もこの話を聞いたら笑い転げるぞ」


恥を伝染させるために、その青年にこれまでの話を話してしまった。


また一人、嘲笑の目が増えるのかメイラザールは今度こそギルドの扉へと歩き出した。


しかし、


「ダンジョンを見学したいの? 俺でよかった同行する?」


笑いもせず、青年はそう言ってきた。


メイラザールは、また同じ目に合うと言い返す。


「それはお高いんだろうな」


青年は「あー」と天井に視線を向け、


「ただついてくるだけなら、何もいらないよ。俺、ダンジョンで特別な事何もしないし」


「は?」


つまりは無料(ただ)で同行させてくれるということらしい。


しかし、ここにきてそんなうまい話があるとは思えない。


「何が目的だ」


「目的?」


青年は考え込む。


さらに考え込む。


長いこと考え込む。


なんて答えるのか、辺りのキャプチャー達も耳を澄ませる。


そして、青年が絞り出した答え。


それは、



「帰宅?」



メイラザールが作ったものとは別の静寂がギルドに訪れた。


誰もが思う。


意味が分からない。


「何を言ってるんだ」


思わず、メイラザールは訊き返した。


「ああ、そうだよね。分かりやすく言うと、俺、ダンジョンが好きでダンジョンの事調べるのにダンジョンで暮らしているんだよね。だから、さっきの話しから俺のお客さんなのかなって。でも、俺、君みたいな綺麗な人知り合い居ないし、ダンジョン見学がしたいのかなって思ったんだけど、違ったかな。あははは」


目的の人間、それがこの青年だと自らが言った。


そこに、


「まて、若造っ! そんなわけがあるか! いくら何でも嬢ちゃんを騙くらこかそうなんぞ、見逃せんぞ!」


「え? なんで騙すの?」


「な、なんでって、人族の恋愛は知らんが、そう言う事だろうが!」


「人族の恋愛?」


そう言うと、青年はメイラザールを上から下まで眺めて言う。


「だって、この人ドラ――ふぐん」


そこまで言いかけた所で、青年の口をメイラザールが手で塞いだ。


「よ、余計なことは言うな!」


どうやら、この青年はメイラザールがドラゴン族であることに気が付いている。


「ぷはっ、なんなんだいったい」


正体をバラされそうになり、慌てたメイラザールは一つ無謀な賭けにでる事を思いついた。


いっその事、もうこいつでいいんじゃないかと。


「わかった、お前で構わん!」


「じゃあ、更新手続きだけ済ませるから、同行ってことでいい?」


慌てた結果、本来の目的しか、メイラザールの頭にはなくなっていた。


「違う、お前にダンジョンクリエイトを頼みたい!」


三度訪れるギルド内の静寂。


思わず暴露した事実にメイラザールが「しまった」と自身の口を塞ぎ、青年を見た。


「ダンジョンを作る……?」


信じられないといった表情。


そして、誰かが言った。


「そんなこと出来るわけがない」


それが出来るのはドラゴン族だけ。


そうなると、


「全員武器を構えろ!」


正体がバレた。


一斉に注がれる殺気。


「くっ、仕方がな――」


ここで暴れては同族にまで情報が漏れ出る。


ここは一端逃げるしかない、そう駆けだそうとするや、がっ、と青年に両手を掴まれた。


「離せ――」


「やる!」


「だから、離――は?」


「ダンジョン作る」


語彙力がなくなった青年の一言。


「俺、ダンジョンを作るのが夢だったんだ。だから、あんたに着いていくよ!」


気さくなドワーフが叫ぶ。


「そいつはドラゴンだっ、離れろ小僧!」


少しの間を青年が作り、


「え、今まで気づいてなかったの?」


信じられないといった表情でドワーフの事を憐れむように見た。


「へ?」


間の抜けたドワーフの声が零れる。


そんな、ドワーフ、いやギルド内の全てを置き去りにして青年は受付まで駆けだした。


「あ、これ更新するつもりだったんですけど、いらなくなったのでお返しします」


青年はキャプチャーの証明であるギルドカードを返すと、


「あと、そうだ。ダンジョンが出来たら手紙送るんで挑戦者、送り込んでください。多分、最初のうちは新人さんでちょうどいいくらいになると思うので、そのへん考慮するとお互いにいいかもしれないです。じゃあ、お願いします。それじゃあ、お世話になりました」


言いたい事だけ言い残し、最後に頭を下げる。



そして、人族の青年はドラゴン族の少女の前に駆け寄った。


「よし、準備はできた。早速君のダンジョンに行こう!」



奇妙な出会いが奇妙な出来事を織りなす。


「ハイクレース・アウディ、ディって呼んで」


そんな物語がダンジョンを通じて始まった瞬間だった。



不定期連載になります。

文章が溜まり次第、UPするといった形になります。


詳しくは活動報告に書いてあるのですが、

別作品『異世界でものんびりと』も連載しています、両作品共々よろしくお願いいたします。

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