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81.全力飛翔

ご覧いただきありがとうございます。

(……え?)


『それはいい。皇女様、今の手合わせのように、我らが清々(せいせい)できるような方法で相手をしてくれませぬか』


 緑の光がすぐさま賛成を示す。青の水神と黄の地神も同意を表すように光をきらきらと煌めかせた。西の四大高位神は東に比べて活発な気性なのかもしれない。


(う、うそ……どうしよう)


「清々、でございますか……」


(それってやっぱり運動する類のことだよね)


 上擦りそうになる声を何とか押しとどめ、平静を装って言うと、脳裏に頼もしい義兄たちの声が響いた。


『明香、無理にやることないよ。俺たちがいるんだから今回は任せてくれてもいい。四大高位神には上手く説明するよ。もちろん、やってみたいなら挑戦すればいい。その時は喜んで力を貸す。明香の好きなようにしていいんだよ』

『ここは帝国であり相手は西の四大高位神なのだから、私たちが相手をするのが道理だ。だが、神の意を尊重してそなたが相手を務めることも正しい。どちらでも適切だ。ゆえに明香の思うように、やりたいようにすればいい。私たちはその決定を尊重して支える』


(お義兄様……)


 優しく助け舟を出してくれるラウとティルに甘えて、このまま任せてしまいたくなる。だが、四大高位神が指名したのは明香だ。それも踏まえ、思案している風を装いながら大急ぎで思考を超速回転させる。


(神の望みを聞いて、意に沿って、求めに応じる。それが皇族の務め。てことは、私が相手をするべき?)


 とはいえ、さすがにいきなり本番で手合わせを行う自信はない。もしかしたらテアと同じく、やってみればできるのかもしれないが、無理だった場合はラウたちに多大な後始末をさせることになる。


(お義兄様方に助けてもらえる今は失敗できるんだから、いい実地練習の機会だと思ってやってみるのも手かもしれないけど……)


 実際、そう言って頼めばラウたちは快く引き受け、全力で協力してくれるだろう。そうすれば、きっと明香は大きく成長できる。だが――


(でも、ここは皇国じゃなくて帝国。いくら近しくても異国だから。しかも相手は、その異国の最高神様方。これは事態が大きすぎるよ。自分でもできないかもしれないって思うような行動を軽はずみにしない方がいい)


 何が何でも今この時に経験を積まなければいけないわけではない。皇国に帰ってから、それこそ今回そっくりの条件を設定した擬似空間で練習する方法などもあるのだから。


(どうしよう。お義兄様方に任せちゃう? いや……自分のできる範囲で何かやれない? 清々して、すっきりさっぱりしてもらえる方法)


 臆する気持ちを抑え、思い付く方法をさらに高速で検討する。


(怒りを思い切り叫んで吐き出してもらうとか? でも、できれば楽しみながら発散していただきたいし。いっそ激しく踊ってもらう? いや、相手をする私が舞踏得意ならそれでいけるけど、そうじゃないし。他に、他に何か……あ!)


 思考をぐるぐる回し、現実では一呼吸にも満たない間でここまでのことを考えた明香は、ぱっと顔を上げた。四色の光を見据える。


「承知いたしました。お相手にご指名いただきましたこと、身に余る誉れにございます。でしたら、四大高位神の皆様――私と追いかけっこをしませんか」


 期待を込めたようにくるくると濃淡を変えながら揺らめいていた光が、ぴたりと止まった。

 ラウたちがきょとりとした顔で明香を見る。


『追いかけっこ……でございますか?』


 予想外の内容だったらしく、水神がやや呆気にとられた様子で繰り返す。


「はい。今から私が外に逃げて、分庁の建物の周囲を5周してからここに戻ります。皆様は私を追いかけて、5周の間に捕まえて下さい。捕まえられれば皆様の勝ち、捕まらずここに戻れれば私の勝ちです」


 広大な皇宮の一角を占めるこの分庁もまた、大きな敷地面積を誇る。そこを5周となれば、かなりの移動距離である。


「ただし、あくまで追いかけっこですので、神威を分庁中に広げて私を包んだり、最終地点に神威を満たして戻った際に必ず捕まるようにしたり、分庁や皇宮を破壊したり、そういった手段はお控えいただけますと幸いでございます。しっかりと私を追いかけて捕まえていただきたく」

『は、構いませぬが……』


 風神が若干戸惑った様子ながらも応を返した。


(よし、いいって言って下さった!)


 ほっとした時、高嶺が声を上げた。


「恐れながら申し上げます。皇女が申し上げました遊戯の特性を踏まえまして、今回に関しては皇女が御身ないし御身のお力を回避、防御するご許可をいただけませんでしょうか」


 神や神の力を受けねばならないのならば、神威を放たれた時点で逃走ができなくなり、追いかけっこの前提が崩れてしまう。遊びの性質上必要なことであるためか、四大高位神は是を示してくれた。


『ああ、それはもちろん』

『よろしゅうございます』


(高嶺様、素晴らしい助け船ありがとうございます!)


 明香はさっと立ち上がり、ラウたちににこっと笑いかけてから床を蹴る。一瞬で窓枠まで跳躍し、その勢いのまま鍵を開け放って全開にし、外に躍り出た。


「では始めます!」


 吹きすさぶ風が衣をはためかせる中、巨大な鳳凰に転身して上空へ羽ばたいた。はっとしたように、四大高位神たちの光が閃いて窓から飛び出してきた。一直線に明香を追ってくる。


(ふふん、負けないんだから。だって――追いかけっこは得意だからね!)


 何しろ泰斗と栄生たち、近所の人々、テアとミア、果ては高嶺にまで鍛えられたのだ。天威師の高嶺ともやり合っていたのだから、高位の神が複数相手でも負けない。


(大丈夫、高嶺様の方がずっと手強い)


 絡みつくように追い縋る光をかわし、一気に加速して引き離しながら、分庁の周囲を飛翔する。

 1周目は少し遠慮がちに追いかけてきた四大高位神も、2周目以降は本気になってきた。

 3周目は速度をぐんと早め、連携して四方向から追い込もうとしたり、途中地点で待ち伏せしたり、軽い遠隔攻撃のようなもので動きを止めようとしたり、様々に策を凝らしてきた。

 だが、明香はそれらを難なく躱し、するするといなしていく。


(高嶺様が神威を避けてもいいっていう許可を取って下さってて良かった! 後でしっかりお礼言っとかなきゃ)


 ふと眼下を見ると、金髪碧眼の人々が唖然とした様子でこちらを見上げていた。


(わ、皆見てる!)


 天威師の視力は、素の状態でも遥か彼方までを見はるかす。帝国の官吏たちに混じって、ローアンとソフィーヌが心配そうな表情で視線を向けているのが見えた。さらに、分庁の先にある皇宮に目をやると、やはり多くの者たちが空を見上げて騒然としていた。


(そりゃ、鳳凰が空を飛んで四大高位神様の光がそれを追いかけてたら何が起きたんだと思うよね)


 しかも鳳凰が飛ぶのは本日3回目だ。


(こんな目立つこと、やめた方が良かったかな。でもお義兄様方が上空でばかすか手合わせしたって、それはそれですごく目立つから結局同じだよね……)


 むしろ、そちらの方が注目を浴びてより大騒ぎになったのではないだろうか。考えている内に、既に周回は4周目に入っていた。


(そうそう、挟み撃ちは定番だよね。蘭と鈴がよくやってきたなぁ)


 進行方向で待ち伏せしていた青光を、わざと速さを落としてから寸前でひょいとかわす。速度が緩んだ隙に追い付こうと背後から迫っていた緑光が青光と衝突し、後ろに続いていた黄光がさらに追突して三つ巴で吹き飛んだ。辛うじて巻き込まれなかった赤光に、何をやっているのかと叱られている。

 さすがに調子乗りすぎたかと明香は内心で青ざめた。


(ああ、今のはまずい。後で謝り倒そう)


 そう思って遠くを見た時、ちょうど視線を投げた方向に皇宮の神官府があった。本殿の一室にある窓を開け、恵奈と松庵、そして永樹が順に横並びになってこちらを見上げている。


(松庵様、大神官様、それに永樹さんも)


 恵奈と永樹は青ざめ、はらはらとした顔でこちらを見ている。一方の松庵は、湯呑みに入れた茶を飲みながら煎餅らしきものをぽりぽりかじり、面白そうな眼差しで微笑んでいた。恵奈と永樹が、何とかしろと言わんばかりに松庵を左右から小突いているのだが、にこにこと笑うばかりで動かない。


(色んな人に見られてるなぁ……。佳良様だって見てるかも。きっと心配してる)


 今日は色んな人に心配をかけ通しだ。明香は頭を抱え――ようとしたが、今は手がないのでできなかった。


(後で皆にちゃんと説明しなきゃ)


 気持ちを切り替え、いよいよ最後の5周目は、四神は遠慮なく神威の波動や光線を飛ばしてきた。それらをひらりひらりと避けながら高速で飛ぶ。さすがに疲労が出てきていたが、後少しだ。


(何か、結局ティルお義兄様方と似たようなことをしてる気が……)


 ただし、今の四大高位神たちは最初の取り決め通り、分庁や皇宮に神威がいかないよう調整してくれている。ティルが相手をしていた時にはそのような配慮はなく、眼下の街に攻撃がいかないよう采配しながら捌いていたので、やはり義兄たちの方が数段上なのだろう。


(――もう少し!)


 そしてついに、勝利地点である場所に続く窓が見えてきた。始めに飛び降りた窓だ。疲れた翼を懸命に羽ばたかせ、明香は一気に速度を上げる。


「明香!」


 開いたままの窓の内側から高嶺が顔を覗かせている。少し後ろにはテアとミアの姿も。

 背後を飛んでいた黄光がしゅるりと伸び、窓に向かった。おそらく、窓を塞いで入れなくしてしまおうという算段だろう。ちょこまかとすばしこい明香は捕まえられなくとも、動かない窓ならば簡単に覆ってしまえる。

 黄色い光が窓の半分ほどにかかった時、明香が到着した。窓に向かう勢いはそのままで、鳳凰の変化を解除する。紅色の羽がぶわりと舞い、瞬く間に大気に溶けて消えていった。

 大きな鳳凰から小さな人間の姿に戻った明香は、黄色い光をぎりぎりですり抜け、飛翔してきた勢いのまま中に飛び込んだ。直後、窓は完全に黄光に覆い隠された。


「高嶺様!」


 両手を広げて迎えてくれた高嶺の胸に飛び込むと、ぎゅっと抱きしめられる。疲労で踏ん張れず、膝が砕けてしまったが、高嶺の腕は難なく明香を支えてくれた。


「お帰り、明香」

「はい、ただいま戻りました」


 太陽すら包んで休ませてしまう夜の瞳に見つめられると、自然に微笑みがこぼれる。興奮していた心がすぅっと落ち着いていった。大きな安心感が全身を満たしていく。


 と、どかんばちんべちんという音が窓の方から響いた。


 振り返ると、高速で飛んできた青、赤、緑の光が勢い余って黄光にぶつかり、四色揃ってべちゃりと潰れていた。


ありがとうございました。

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