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28.まじで皇女になりました(そして旦那もできました)

ご覧いただきありがとうございます。

「――っはぁ……はぁ……」


 はっと、明香は目を開けた。体は祭壇の前に跪いていた体勢から動いていない。意識だけが天界に昇っていたようだ。

 全力で長距離を疾走した直後のような疲労感と倦怠感が全身を襲う。乱れた息を整えながら天を見上げると、吹き抜けの天井から燦々(さんさん)と光が降り注ぎ、青一色の空には金の太陽と銀の月が輝いていた。空を覆っていた黒雲は跡形もなくなっている。

 そして何故か――陽光とは別の光が、天井から空へと突き上がっていた。紅と朱を混ぜたような鮮やかな光だ。


(や……った、の?)


「うん、良くやった。初めてにしては上出来ではないか。流石だ」


 上機嫌な声に振り返ると、けろりとした顔の高嶺が、何事もなかったかのように立っている。


「で、殿下! 私できたんでしょうか――あれ、発作は? 大丈夫なのですか?」

「ああ、もう治った」


(治ったって、あんなに苦しそうだったのに)


 あっさり言う高嶺を見つめ、もしかして、と思いあたる。


「もしかして仮病……」

「いや、まさか。先ほどしか起こらない単発の発作だったのだ」


 真面目な顔で言う高嶺に、太子への礼儀も忘れて叫ぶ。


「そんな一点狙いの発作が都合良く起こりますか!? 仮病だったんでしょう! 心配したのに」

「心配してくれたのか」


 どこか期待を滲ませた問いかけに、明香は頰を膨らませて頷く。


「しましたよ、ものすごーく心配しました」


 ものすごーくか、と復唱した高嶺が、ふふっと嬉しそうな顔で笑った。


(あ……あれ、何か可愛いかも)


 高嶺の様子を見て思わず口に手を当てた時、二方向から視線を感じて振り向く。一つは黄土色の不思議な生き物だ。明香と高嶺の近くにちょこんと座り、呆れたような、けれど温かな目をしている。

 もう一つは、相変わらず祭壇にいた褐色の鳥だ。息を呑むほどに優しい眼差しを湛えている。

 この不思議な生き物たちにも、助けてもらった。体に寄り添ってくれたもふもふの毛の感触や、意識を地上まで導いてくれた赤い翼の輝きは、感覚を天に昇らせている最中でも感じることができた。

 礼を言おうと口を開きかけた時、広間の扉が開いた。


「藍闇太子殿下、雲が晴れました」

「ようございました」


 安堵の表情を浮かべ、小走りで駆け込んで来たのは松庵と佳良だ。後ろから同じような顔をした神官たちも続いた。


「儀式は成功されたのですね」

「安心いたしました」


 口々に祝いの言葉を述べていた皆が、明香を見てぎょっとしたように硬直する。


「そ、そのお姿は……」

「姿?」


 明香は咄嗟に自分の体を見下ろし、目を見開いた。


「な、何これ……」


 自分の全身が艶やかな紅朱色の光を放っている。天へと突き抜ける光は自分の体から発せられていたのだと、ようやく気が付いた。それも、ただの紅朱ではない。虹色の光彩を纏っている。

 虹色の光は至高神だけが有せる色。もう本当に、言い逃れはできない。


(私は日神様の御子――紅日皇女)


 認めざるを得ない真実が突き付けられる。高嶺が澄んだ声を張り上げた。


「神々のお怒りは、この皇女明香が見事に宥めた。都は安泰だ」


 わっと神官たちが歓声を上げる。だがその声は、明香には遠く聞こえていた。


(色々なことがありすぎて、頭がはち切れそう……)


 しかし、高嶺はまだ休息を与えてくれなかった。


「静まれ」


 一声で皆を黙らせ、優雅な所作で衣をさばいて姿勢を正す。黄土色のもふもふが、ぴょんと高嶺の肩に飛び乗った。


「これで自他共に確信できただろう。明香こそが神託が告げし御子姫だ。――皆控えよ、これより蒼月皇陛下のお言葉を伝える」


 瓏々と告げられた言葉に、全員が顔色を変えて跪拝する。精神的な疲労でよれよれの明香も、半ば条件反射で礼を取った。


「面を上げよ」


 ただ一人立っている高嶺は、皆に顔を上げさせると、抗いようのない力を宿す双眸をひたと明香に据える。


「斎縁家の養女明香。そなたを全き天威師と認め、神千国の皇族として迎え入れる。また、正式に皇女の地位を与えて太子の正妃とし、その意向によっては太女の地位も与える。これが陛下のご決定である」

「…………え?」


 本日何度目か分からない「え?」をまたまた発し、明香はぽかんと高嶺を見つめた。


「せいひ……?」

「太子妃ということだ。私の妻だな。望むのであれば私と並んで太子にもなれる」


 高嶺が丁寧に言い直してくれるが、そういうことを聞いているのではない。


(私が太子殿下の、妻になる?)


 明香は二の句が告げず、ただはくはくと口を開閉させている。

 だが、いきなり太子の妻となることを決定事項として告げられたにも関わらず、混乱や困惑は湧かなかった。それどころか、胸の奥が小さく高鳴る――甘酸っぱさを帯びたそれは、まぎれもない幸福と歓喜だった。まるで、分かたれていた自分の半身と再び一つになることができたような喜び。

 自分は高嶺の妻となることを嬉しく思っているのだと、頭のどこかで理解する。


「今述べたことに関する正式な勅書は、正規の手順にて発行が完了し、有効化されている。従って――そなたは既に正式な皇女かつ私の妻だ」


 もう決まった事なのだと告げ、高嶺は明香に歩み寄った。そして、典雅な所作で跪く。今までとは違う、どこか柔らかな瞳で真っ直ぐにこちらを見据えて告げる。


「日の御子にして紅日神の神性を有する全き天威師・皇女明香よ。闇の御子にして藍闇神の神性を有する全き天威師・太子高嶺がご挨拶申し上げる。汝、日神の寵を受けし尊き女神。私は日たるあなたと添うて共にこの国を担い、支え、導いて行きたいと思っている」

「…………」


 胸に広がる甘く切ない感情がその深さと重みを増す。そして、自分が高嶺に惹かれていることをはっきり自覚した瞬間、明香の容量は超過を迎えた。不意に気が遠くなりかける。


(あ、無理……もうむり……情報量が多くて受け止め切れない……)


 この温かな感情を抱いたまま気絶してしまおうと思考が告げる。


 ――しかし、高貴なる神がそれを許さなかった。


 空に浮かぶ大きな雲が五色に輝く。赤、青、黄、緑――そして蒼。

 蒼き龍が四色の光を絡みつかせながら、雲を割って飛び出して来た。


ありがとうございました。

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