表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/155

22.甘い夢の終わり

ご覧いただきありがとうございます。

評価やいいね等ありがとうございます。すごく励みになります。

 神官たちが花梨の持つ神器をじっと見ている。神器は扇型だが、金の羽を連ねた意匠になっており、東方でも西方でも通じる絶妙な形状だった。それゆえ、余計に気が付かれなかったのだ。はっきりと西洋風のこしらえをしていれば、もっと早くに真相に達せていただろう。

 高嶺はふぅと小さく息を吐いた。


「ここまでが帝国側の調査で明らかになったことであり、それをお聞きしたのが昨夜のことだ。その後続けて、蒼月皇陛下や橙日帝陛下方と共に、西の金日神様に詫びをしに行った」


 思わぬ言葉に全員が硬直した。


(に、西の金日神様に?)


「当然であろう。ご自身の神器が勝手に持ち出され、異国において全く誤った用途で使われたのだ。勘気をこうむっていても何らおかしくはなかった。ゆえに東の至高神様に心から詫びを入れて頼み込み、西の金日神様の元に繋いでいただき、皆で陳謝したのだ」


 日神の怒りは全てを焼き尽くす。東西の至高神を巻き込んだ世界存亡の危機だったのだ。


(太子殿下がさっき仰ってた、昨夜の非常に大事な用事ってこれだったんだ!)


 これは確かに抜けられない。覚醒したばかりの明香(神託の御子)への対応を後回しにしてでも、皇帝と太子が雁首(がんくび)そろえて詫びに行かねばならない事態だっただろう。とはいえ、幸いにもあちらの金日神はそれほど怒っておらず笑って許してくれたという。

 なお、高嶺によると天界は東も西も繋がっているそうだ。神々の管轄が分かれたとはいえ、仲違いして決別したわけではないため、東西の神は頻繁に行き来して交流しているという。


「西の御子花梨への処罰は、今後陛下方と検討する」

「…………」


 明香は、複雑さと安堵がないまぜになった心地を覚えた。散々殴りつけられ、血だらけで顔を腫らしていた泰斗を思い出すと、ずきりと胸が痛む。


(周囲への被害とかも含めて検討して下さるよね。どんな処分になるんだろう。……というか、今の話だと太子殿下も皇帝陛下も、多分昨晩から一睡もされてないんじゃない?)


 目の前で淀みなく話し続ける高嶺は一糸の乱れもなく、疲労など微塵も感じられないが。


「なお、この神器は西の金日神様に無効化していただいた。体内に収納できる以外には何の力も残っていない。それでも残滓はこびりついているゆえ、明香の覚醒に引きずられ、神を感じる感覚が増したり、離れた宮から高速で神官府まで駆け付ける身体能力を発揮したりはしたようだが――それも一時的なものでしかない」


 扇を一瞥し、高嶺は無感情な声でぴしゃりと言った。


「擬似的に発現していた徴も、そなたの中から既に消滅している。これまでは神器の護りがあったゆえ、私の気にも耐えられていたが、今後はそうはいかぬであろう」


 花梨は今まで、高嶺が放つ気迫に幾度も抗って来た。しかし、それは神器を持っていたからできた芸当だったのだ。

 言われた花梨は、信じたくないという表情を浮かべて扇を振る。しかし、頼りないそよ風が吹いたのみで、金の光は放たれなかった。

 花梨は泣きそうな顔で、それでも何度も扇を振る。何度も――何度も。自分が頼れる縁であったただ一つの証が既に失われたことを、認められないのだ。

 それを意に介さず、高嶺は続けた。


「ともかく、これで真相が繋がったため、蒼月皇陛下は西の金日神様への詫びの後、すぐに二種類の勅書をしたためられた。一つは花梨の廃太女と廃皇女、もう一つは真の神託の御子の皇女冊立だ」


 佳良が考えをまとめるように視線を揺らしながら言う。


「太子殿下、畏れながら……一つよろしいでしょうか」

「何だ」

「太女殿下は何故、神器を使えたのでしょうか。元は帝家の血を引く者のための神器であったとのことですが。また、太女殿下の気の色は初代陛下と同じ緋色でした。それも神器の力によるものだと?」

「ああ。花梨には帝家の血も流れている」


 皇国と帝国の初代皇帝は血を分けた実の兄妹であり、両国の二代目皇帝はその子どもたちだ。従って、皇家と帝家はどちらも、両国の初代皇帝を祖としている。加えて、皇家と帝家は幾度も通婚を繰り返して互いの血を混じらせている。


「多少なりとも帝家の血を引く花梨にも神器は使えただろう。当然ながら細かな制御はできず、ただ振り回して衝撃波を放つばかりであったが。さらに、初代陛下の再来は皇家に生まれた者ならば心の底で望むこともあろう」


 表面上ではそのようなことは考えるだけで畏れ多いと思っていても、心の奥底に我こそは初代のようにという願望があってもおかしくはない。


「その思いに反応し、神器が作用して気の色を初代陛下と同じ緋色に染め上げてくれたのだろう。日神の神格を示す徴に関しても、神器の力で擬似的に出ていただけであり本人のものでは無かったため、不鮮明であったということだ」


 そこで花梨がようやく扇を振る手を止め、呆然と立ち尽くした。じっとりと冷や汗をかきかながら、恐る恐る周囲の気配を探れば、神官たちの視線がその身に突き刺さる。

 失望、軽蔑、呆れ、悲しみ、怒り、困惑、動揺……あらゆる負の感情が無数の毒矢のように彼女の全身を貫いていた。



ありがとうございました。

今回は短いので、次話をすぐに(1時間後くらいに)投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ