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21.神器の真相

ご覧いただきありがとうございます。

この辺りから同シリーズの別作品(大公女の話)と少しずつ繋がりが出てきます。

(本格的にリンクするのは2章の中盤からです)

 高嶺の返答は淀みなかった。花梨が持つ神器を視線で示してきっぱりと言う。


「ああ。この神器からは間違いなく金日神様の神威を感じる。しかし、女神の神威ではないのだ。陛下と私が抱いた違和感――金日神様の神威だが金日神様のものではないという感覚の正体はそれであった」


 例外がないわけではないが、基本的に女神の気は柔らかく、男神の気は力強いのだという。


「お怒りになった時や荒神になられた時は女神でも苛烈な気を放つが、この神器からはそういった憤りや攻撃的な気配は感じない。平常心を保たれたままの素の状態でこれだけ猛々しい神威を放つとすれば、それはおそらく男神だろう。だが、我が国の――東の金日神様は女神だ」


 最後に関しては、神千国の者ならば誰でも知っていることだ。伝記によれば、人型を取った時の日神は、まだ少女とも言えるほどに若い小柄な女性の姿をしているという。そこまで考え、明香は口元を抑えた。


(まさか、昨日虹の光の中でお会いしたあの方って……)


 慄然(りつぜん)としている間に、高嶺の話は続く。


「しかるに、西の金日神様は男神である。また、帝国で日神あるいは陽神の神格を有する天威師は、西の日神様より下賜された神器をお持ちだ。それらの波動とこの神器の波動は同じものであった」


 帝国の現皇帝・橙日帝を始め、帝族の何名かは太陽神の神格を持ち西の金日神の加護を受けている。白珠と高嶺にとっては近しい親族に当たるため、実際に彼らの神器を見たことがあるのだという。


「対して、我が皇国にて太陽神の神格を有する皇族は、東の金日神様より神器を賜って来たが――その気配はこの神器とは似て非なるものだ。そこで、そなたが覚醒した時期の動向を再確認してみたところ、帝国のある高位貴族が開いた宴に出席していた記録が見付かった」


 花梨がびくりと強張り、佳良が眉を顰めて聞き返す。


「帝国の貴族でございますか」


 皇国と帝国は親密な友好関係にある上、皇家と帝家も縁戚に当たるため、折に触れて深い交流を重ねて来た。皇家あるいは帝家に生まれた者は、互いの国の言語や作法を習得するのは当然とされている。そして、どちらかの国で儀式や宴、催しなどが行われる場合、相手の国の者を招くことも日常茶飯事であった。


「あ……あの時は個人的に招待を受けて招かれたから応じたのよ。あの時の私はまだ庶子だったけれど、それでもいいから来て欲しいと手紙が届いたのよ」


 花梨が掠れた声を張り上げ、高嶺も頷いた。


「その点に関してはそなたに落ち度はない。高位貴族の宴であれば皇族が招かれることが多いが、状況や事情によっては庶子で手を打たれる場合もある。問題なのは宴に出席したそなたが取った行動だ。――そなた、屋敷にあった西の金日神様の神器を盗み、持ち帰っただろう」


(――ええぇ!?)


 明香はもちろん、この場にいる全員が目を剥いた。佳良が、信じられないという思いを隠し切れぬ声音で言う。


「ま、まさか……神器は厳重に保管されているはずでございましょう。盗み出すことなど……」

「そのまさかが起こったのだ。何があったかというと――これは昨夜、橙日帝陛下からお聞きした話だが」


 高嶺がさらに続けた言葉で、皆は一斉に息を呑んだ。佳良が目を見開いて言う。


常赤(とこあか)の君から?」


 常赤の君とは橙日帝レイティの通り名だ。帝家の者は感情が昂った際に瞳の色が赤く変わる特性を有している。怒りや苛立ちなどの激情に呼応して起こる現象で、大抵は一過性で収まるものだが、橙日帝は平時から赤い双眸をしているため、上記の通り名が付いた。


(橙日帝陛下の眼ほど美しく恐ろしいものはない、が帝国の人たちの口癖なんだっけ)


 業火よりも激しく、鮮血よりも昏い真紅の双眸に射抜かれると、誰もが心を射抜かれ、恐れ戦いて頭を下げると言われている。

 なお、帝家の者は獰猛で苛烈な性格が多く、本気で激昂すれば宥められるのは皇家の者だけである。帝家が皇家の護り手であるように、皇家は帝家の心を鎮める癒し手だとされており、皇家の者が宥めれば帝家の者はたちどころに機嫌を直す。


「ああ。西の金日神様の神器がこちらにあるという答えにたどり着かれた蒼月皇陛下は、橙日帝陛下に調査を依頼されていた。その結果をお聞きしたのが昨夜だ」


 高嶺が小さく息を吐いた。


「結果は――先ほどから話している、帝国の高位貴族の家が発端であった。建国期より帝家の腹心として仕えて来た名高い家で、御威を持たぬ帝家の庶子が嫁や婿に出されることもある最高格の名門だ。庶子の受け皿になることで、帝家の流れを汲む家系になったことを認めるという意味で、帝家の秘宝の一つである神器を貸与されていた」


 神器の言葉に、皆がぴくりと反応する。


「その神器は、帝家の血を引く者を守護するという御意志を込め、西の金日神様が遥か昔に帝家へ下賜されたものであった」


 ゆえに、神器の守護対象となる者――つまり帝家の血を引く子孫は神器を使うことが可能になる。


「貸与された神器は、普段は邸の奥にある祭壇(さいだん)に保管され、その家の血族しか通れぬ結界を張ってあったという。だが半年前、先代当主の娘が私的な宴を開き、自身の権勢と格を誇示するために神器を出して披露した」


 当主に持ち出しの申請はしていなかった。誰にも相談せず、娘の一存で行ったらしい。


「その家の現当主と跡取りは、宴の日は神鎮(かみしず)めの公務で邸を留守にしていた。念のため、神器が祭壇から出されれば察知できるようにしていたそうだ。だが、当主は務めの中で打撃を食らい一時的に意識不明になり、別の神鎮めに従事した跡取りも消耗して短時間ながら昏睡状態となってしまったことで、娘が神器を持ち出したことを察せなかった」


 怒れる神と対話し宥めるのは、御威を持つ神官の職務だ。難易度が高いものや危険を伴うものは皇族と帝族が引き受けるが、時には神官たちも損傷を覚悟で神鎮めに臨む。

 当主と跡取りが共に倒れた隙を突く形で、まんまと持ち出された神器は宴に飾られ、招かれた人々の目を釘付けにした。その宴に花梨も招かれていたのだという。


「宴の後、主催者の娘が神器が無くなっていることに気付いた。招待者たちが帰路に着く手続きや見送りなどを行うため、邸の者が会場を離れ、無人になった一瞬の隙に起こった出来事だったとのことだ」


 私的な宴であることから使用人の人数も最小限であったっため、全員が出払ってしまうという事態が生じたのだ。

 花梨は唇まで真っ青にして俯いている。佳良が躊躇いがちに口を挟んだ。


「太子殿下、度々お言葉を挟んで申し訳ないのですが……神器の周囲や会場の扉に感知用の結界などを張ってはいなかったのですか? もしくは、万一の際に追跡できるよう神器に格で印を付けておく、警備を常駐させておくなど、何らかの予防を施していたはずだと思いますが」

「ああ。主催者の娘が結界霊具で防壁を張っていたようだが、霊具の動力となる霊威の充填を失念しており、途中で結界が切れていたそうだ。秘宝がなくなっていることに気が付いた娘は、使用人にはもう祭壇に戻したと伝え、事実を隠ぺいした」


 そこまで話した高嶺は懐に手を入れ、折り畳んだ布を取り出して広げた。薄い生地は、僅かに光沢のある紫色をしている。大判の手巾のようだが、神千国で使われているものとは模様も雰囲気も色遣いも異なっていた。明らかに西の――帝国風の意匠であった。

 凍り付いている花梨に一瞥をくれ、高嶺は布を軽く掲げる。


「これはそなたの宮を秘密裏に捜索した際に押収したものだ。宴の折、神器は神威が強すぎたために、神の気を和らげる効力を持つこの神布(しんぷ)で包まれていたという。神布ごと持ち去られたために気配が薄れ、神器が移動していることに誰も気付かなかったのだろう」


(あちゃー……)


 明香は思わず額に手を当てた。橙日帝を筆頭とする帝族たち、あるいは不在だったというその家の当主が宴に出ていたならば、僅かな神威の動きでも察知できていたかもしれないが……。


「主催者の娘は神器の盗難を誰にも告げず、自身の伝手で極秘裏に探した。だが、彼女は宴に参加していた出席者の中で、そなたは犯人から最も遠いと考え、ろくに調べていなかった」


 花梨は穏和で争い嫌いな性格が定評である皇家の者だ。そんな者が盗みを働く確率は低い。それよりも、自分の失脚を望む帝国の者の仕業ではないかと、帝国内にばかり目を向けていたという。


「一方、そなたが持つのは西の金日神様の神器ではないかと当たりを付けられた蒼月皇陛下は、橙日帝陛下にその旨をお伝えされた。帝家には全ての秘宝の詳細が記録された資料があるゆえ、そちらと照合することもできる。橙日帝陛下は件の高位貴族に貸与している秘宝を思い付かれ、直ちに現当主に連絡を取られた」


 当主はすぐに祭壇を確認し、神器がなくなっていることが分かったため、主催した娘を問い(ただ)したという。


「隠し切れぬと悟ったのだろうな、娘は観念して事のあらましを白状したそうだ。未だ秘宝は見付かっていないと言ったらしい」


 花梨は言葉も無く沈黙を貫いたまま、ただ縮こまっている。


「帝家には神器を貸し出した際の記録が残されている。貸与時、時の帝国皇帝は神器に己の御璽(ぎょじ)を押印された。あくまでこれは帝家のものだという証としてな。帝族が触れればその御璽が浮き上がる。そなたが持つ神器を帝族に触わっていただき、御璽が浮かび上がるか、浮かび上がればその紋様や波動が、帝家の記録に控えとして押印されている御璽のそれと一致するか、確認してみるか?」


「…………」


 万座の注目を浴びる中、青ざめた顔で目を彷徨わせていた花梨は、やがて力無く項垂れた。




ありがとうございました。

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