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20.太女の皮は剥がれゆく

ご覧いただきありがとうございます。

 花梨は金の扇を握り締め、蒼白な顔をして叫ぶ。


「日神は、神託の子はこの私よ! この神器がその証拠でしょう! 私が目覚めた時に神器も一緒に現れたのよ! 高嶺お兄様だって皇帝陛下と一緒にその目で確認していたじゃない、これは確かに金日神様の神器だって!!」


 神官たちが当惑気味に顔を見合わせ、次いで高嶺を見る。佳良が思案するような眼差しで言った。


「畏れながら太子殿下。日神様が――全き天威師様が二人お出になられたという可能性はありませんか? 神託では人数までは明言されていなかったはず」

「そ、そうよ! 仮にこの娘が天威師だったとしても、私だって同じはずよ!」


 我が意を得たりとばかりに花梨が頷く。だが、高嶺は無情に首を横に振った。


「いいや、違うな。そなたは天威師ではない。本当は自分でも分かっているだろう? 今のうちの自供することを勧めるが」


 花梨の顔が、傍目にも察せられるほどはっきりと引き攣った。


「……な、何のことか分からないわ」

「そうか。しらを切るならば仕方ない。――次は神器の真相を話そう。そなたが全き天威師として覚醒した際、私も皇帝陛下と共に神器を確認し、金日神様の気を感じ取った」


 神から神器を賜ることができるのは、原則的には加護を受けた者のみだという。


「ゆえに陛下は皇女及び太女冊立の勅書を発行された。……ただし、その地位は暫定とする、という注釈付きでな。誰にも漏らさなかったが、私も陛下もそなたの覚醒には当初から懐疑的であった」


 場が微かにざわめき、明香も目を丸くした。


「ど、どういうことよ……」


 花梨が声を震わせながら言う。心なしか顔色が悪い。


「そなたの神器を初めて見た時、陛下と私は違和感を感じた。確かに金日神様の神威なのだが、しかし金日神様のものではない力を放っていたゆえに。これについては後ほど詳しく話す」


(金日神様の神威だけど金日神様の神威じゃない? ……どういうこと?)


 思いながら、明香はそっと松庵と佳良を見た。聖威師である二人ならば、同様の何かを感じていたのではと思ったのだが――松庵はただ黙しており、佳良は呆気に取られている。

 皆が続きを聞きたがっているのを察した高嶺が再度口を開いた。


「加えて、そなたは天威師にしては不自然な部分が散見された。日神の神格を示す徴は出ていたが、それもどこか不鮮明でぼやけていたしな」


 それでも、いずれは改善されていくのではないかと様子見していたのだ、と続ける。


「全き天威師でありながら神々に認められずとも、態度を改めれば変わるかもしれぬと思った。神威をろくに感じ取れず、闇雲に神器を振り回すばかりでも、覚醒したばかりの未熟さゆえの可能性もあると思った。天威に覚醒すれば至高神様にお目通りを許されお声を聞くことができるようになるが、未だそれらをなし得ていないのも、多少時間がかかる場合もあるのかもしれないと考えた」


 次々に挙げられる点に、明香は呆れてしまった。


(それは確かに、ちょっとおかしいかも……)


「わ、私だって金日神様のお声を聞いたわ。木霊(こだま)のように反響していたから、どんな声だと言い切ることはできないけれど……とても優しい気配だったわ。私に寵を与えるというお言葉を下さって、同時に神器が顕現したのよ。最初に神器を見せた時に説明したじゃない」


 花梨が口早に抗弁するが、高嶺は落ち着いた態度で反論した。


「だが、そなたが金日神様のお声を聞いたと言うのはその一回限りではないか。そなたの他に聞いた者は誰もおらぬ。我等の前でもう一度呼びかけてみよと言っても、今は調子が悪いというばかりではぐらかす」


 淡々とした言葉に、花梨が無言で目を逸らした。言い返そうとしているが、上手い言葉が出て来ないようだ。


「加護を与えた者が呼びかければ、神は必ずお応え下さるはず。頑なにそれを行わぬのは何故だ? できないからか? そのようなお声は、そもそも聞こえていない――そなたの作り話であるゆえに」

「なっ……そんなの、それこそ言いがかりよ、本当に調子が良くないだけよ! 陛下や高嶺お兄様は最初から上手くお声を聞けてお目通りもできたかもしれないけれど、そうじゃなくてゆっくり成長していく天威師だっているのよ!」


 顔を真っ赤にしながら激しく言い募る花梨に、高嶺は意外にもあっさりと肯定した。


「そうだな。その可能性も無いとは言い切れない」


 おかしいと思う点が多々あっても、それだけで偽物だとは断言できないのだという。


「様々な部分で不自然ではあっても、そなたが天威師ではないという決定打にはならない。最初は未熟である場合や、特殊な場合があることも考えられる。今後研鑽を積み心を研ぎ澄ませていけば、今挙げたようなことは解消していくかもしれぬ。そうなるように導くことこそが先達たる私の役目なのではないかとも思った」


 三千年の歴史を誇る皇家には、歴代の天威師たちの資料や記録が取り揃えられているはずだ。時にはいっぷう変わった天威師が生まれたという記録でもあったのかもしれない。


「また、日神様はお優しく聡明な方であらせられるが、同時に灼熱の太陽の如く苛烈で己を通される面をお持ちでもある。そのような面はそなたにも通じるところがあるゆえ、全くもって日神に相応しくないとまでは言えなかった」


 花梨が真実日神であるという可能性も、無いわけではなかったのだ。

 もしも本当に全き天威師であった場合、誤って偽者呼ばわりすれば大変なことになる。愛し子を偽物扱いされた日神の怒りが神千国の全土に降り注ぎかねない。ゆえに、迂闊に詐称扱いするわけにはいかなかった。

 かといって、本当は天威師ではなかった場合は偽者をそうだと信じて持ち上げ続けていたことになり、それはそれで日神の怒りを買うだろう。


「そなたが本物の天威師であろうとなかろうと、早期に真相を解明し適切な行動を取らねばならなかった。そなたが神器を出現させてから当面の間は様子を見ていたが――違和感は日増しに強まっていった。徴もいつまでも鮮明にならぬ上、有頂天になったそなたは驚異的な速さで横暴さを増していく」


 この半年を思い出すかのように視線を宙に向けた高嶺は、苦い顔を浮かべた。


「そなたとて皇家に生まれた者だ。下の者への接し方や御威に目覚めた際の心構え、神への尊敬、そして徴を得られなかった場合の気の持ち方などは、幼少の頃より教え込まれて来たはず。にも関わらず、覚醒と同時に今まで身に付けて来たことを忘れ去ったかの如き勢いで言動が凶悪に変質していき、歯止めが効かない状態になっていた」


 そういえば、と明香は瞬きした。

 確かに、幼い頃の花梨に悪い評判は聞かれなかった。むしろ、感受性が豊かでよく笑い、明るく勤勉な性格だと言われていた気がする。北の御子と同じく、成長して徴の発現確率が低まっていくに連れて話題に上らなくなり、忘れられていったが。流石(さすが)に以前から今のような性格であったのなら、難しい御子としてもっと違う評がされていたのではないだろうか。

 思えば、佳良も似た様なことを言っていた。以前の彼女はこうではなかったと。驕慢で横柄な性格が有名になったのは、覚醒してからだ。


(元々は今みたいな性格じゃなかったってことだよね。佳良様もそう言ってたし。徴が出なくて、陰口を叩かれたことがすごく辛かったのかな。で、思いがけず覚醒した反動で、今までの鬱憤(うっぷん)が噴き出ちゃったとか?)


 明香が考え込んでいる間に、高嶺はさらに続けた。


「力に振り回されるどころか完全に呑み込まれ、これまでずっと心身に刻み重ねて来たはずの教育も気概も忘却した振る舞いは、とても天威師の器量ではない。ゆえに、私たちは本格的に調査を始めた」


 だが、白珠も高嶺も忙しい。何しろ皇帝と太子だ。

 天威師は過去を視ることもできるが、今回に関しては、至高神の神威を持つ神器が深く関与している特殊な案件であるため、天威をもってしても上手く視ることができなかった。

 神の声を聞けるのだから神に聞く、という選択肢もあるが、一歩間違えれば非常に不敬で図々しい行動になりかねないため、本当に手詰まりになった時の最終手段だ。

 そこでやむを得ず、自身の所感や文献、推論を基に、地道に仮説を組み立てていったのだ。


「政務の合間を縫い、天威や神器について記載されている資料や、実際に感じたことなどを基に様々な推察を重ね――私たちはある結論に行き着いた。……ここで話は逸れるが、世界は現在、東と西に分かれている。これは子どもでも知っていることだ。が、太古の昔は分かれておらず一つであったことも、神官ならば知っているな。明香も、斎縁家や神官府の講義で習ったであろう」

「え? ……は、はい」


 いきなり話が飛んだ。


(何でいきなり世界の成り立ちの話に?)


 神官たちも困惑を浮かべているが、無言で頷いている。


「これは神話の復習になるが――最古の至高神様と地水火風の四大高位神様は、元々はどの神も二柱ずつ存在されていた。しかし、同じものを司る同じ神格の神が二柱いるのだから、世界を二つに分けて片方を一柱ずつが管轄しようということになり、東と西に世界を分け、神々もお分かれになられた」


 これは、世界の創世記の中でも初めの方に出てくる内容である。


「我が国は東の皇国。従って、我が国にいるのは東を管轄する至高神様と四大高位神様だ。西にはまた別に、西を管轄する至高神様と四大高位神様がいらっしゃる。――分かるか。最も古き日神たる金日神様は、我らが崇める一柱だけではない。分かれられた先の西にも、もう一柱の金日神様がいらっしゃるのだ」


 花梨の表情が強張り、松庵と佳良、そして何名かの神官が息を呑んだ。だが、明香を始め、それが何なのかと頭の上に疑問符を浮かべている者たちもいた。

 高嶺の続きを引き取るように、松庵が言う。


「つまり……太女殿下がお持ちの神器は、東ではなく西の金日神様のものであると?」


 その言葉で、明香もようやく合点がいった。

 だが――。


(そんなことって起こり得るの?)


 ここは東の国だ。にも関わらず、何故そのような事態になったのか。




ありがとうございました。

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