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103.暴走する神器

ご覧いただきありがとうございます。

 白珠の肩に乗っている褐色の大鳥。あれこそが初代陛下の神獣だと思っていたが、違うのだろうか。


(だって日神の私と共鳴したし、すごく熱くて力強い気を持ってて)


 そう考え、あれっと首を傾げる。

 そうだ、あの鳥はとても力強い波動を放っていた。だが――


(ちょっと待って。初代陛下……緋日皇陛下の気って、()()()()()()()()()だったんだよね。それって力強いとは違うんじゃない?)


 初代が創り出した神獣であるならば、創り手と同質の気を持つものではないだろうか。今更になって己の予想の矛盾に気が付き、明香は小さく息を呑んだ。


(てことは、あの鳥は初代陛下が創ったものじゃなくて――そうだ、私あの波動を知ってる。覚えがあるって何度か思った)


 一度目は、帝国分庁に登城した時。

 二度目は、白珠の記憶を通して橙日帝と共鳴した時。


 燃えるような橙日帝の気に触れた時、どこかで感じたという既視感を覚えたのだ。


(ならあの鳥って)


 一方、テアの言葉を受けた豪栄が顔面から色をなくし、目を左右にさ迷わせる。そして、かさついた唇から消え入りそうな声を絞り出した。


「さ……祭壇を開けたら透き通った緋色の玉があった。伝承に書かれている神獣の核と同じものだった。だから杖を近付けたら……玉が濁り、浮き上がって外に飛び出して行ったのだ……」


 ミアが淑やかな笑顔を貼り付けたまま小さく舌打ちし、テアが苦々しい顔で続けた。


「穢れを押し付けられたせいだよ。核の中で眠っていた神獣は狂い、光の柱となった。生を司る太陽神の光も、荒れれば命を奪う灼熱の光線となる。このまま時間が動き出せば、世界は一瞬で焼き尽くされるだろう」


 綺羅が嘆息して外に視線を投げた。


「おまけに、穢れが移った神獣の光が特別区中を照らしたため、聖域全体が汚染されてしまった。連鎖的に他の神器までおかしくなっている。先達の真皇族が東の金日神様から賜った神器も暴発していた」


(さっきのされてた怪鳥って、もしかしてそれ……?)


 あの怪鳥は、金日神の神器から喚び出された神獣だったようだ。至高神の力であれば、本来は同族である天威師を傷付けるはずはない。だが、狂っていたためにあのような形で顕現し、明香と秀峰を襲撃してしまった。ソフィーヌが続ける。


「帝城の特別区にある神器も暴走しています。東西の至高神様より、帝家と皇家で対になるように賜った秘宝もございますので。東の神器がおかしくなったことで、対となる西の神器も狂い、その不具合が他の神器にも波及しているのですわ。現在、橙日帝陛下方がその対処と収拾に当たっておられます。ひと段落すればこちらに合流されるでしょう」


 明香は瞠目した。光の柱や金の怪鳥のような騒ぎが、帝城でも起こっているらしい。


(お姉様方がここに来たのは、そのせいだったんだ。暴発の源になってる皇宮の神器を確認するためにいらっしゃった……)


 高嶺が険を帯びた声を発する。


「宗基家当主。そなたが手にする神杖の穢れが発端となり、多数の神器を誤作動させているのだ」

「そ……っ……」


 言葉を失った豪栄に温度のない一瞥をくれ、白珠が口を開く。


「外は死の光が洪水のごとく溢れている。この状況で間違っても時間が動き出さぬよう、こちらで改めて時間停止をかけ直した。この光に触れても無事でいられるのは、天威師くらいであろう。――私は神千国皇帝としてこの事態を見過ごせぬ」


 次いで、念のためにという表情で、綺羅がさらに補足する。


「時間操作は禁術だが、国や世界の存亡がかかるような状況かつ一刻を争う緊急時であるなどの諸条件を満たせば、短時間ならば認められる。今回は死の光から世界を守るためゆえ、特例で許容範囲に入る」


 その時、外から轟音が響いた。ばねが弾けたように地が揺らぎ、床がぎしぎしと鳴る。


「またいずれかの神器が暴走したようです」


 そちらを一瞥した綺羅が、落ち着いた口調で言う。


「対処して参ります」


 だが、ローアンとソフィーヌが即座に口を挟んだ。


「真皇族が荒事をする必要はないんだよ」

「手荒なことは帝族にお任せ下さい」


 そして白珠に一礼し、ふっとかき消える。直後、縹と茈の光が外を駆けた。神器に対処してくれているらしい。


「……」


 秀峰が眉を寄せ、懐から小鳥を取り出した。緋色の小鳥の体躯はぼんやりと光を帯びているが、よく見ればところどころ黒に染まっている。帝子兄妹が出て行った外を見ていた綺羅が視線を向け直し、たちまち顔色を変えて秀峰に話しかけた。


「殿下、始まりの神器が」


 僅かに焦りを帯びた声に、秀峰が苦い顔で頷いた。小鳥の体に点々と浮かぶ黒ずみは、徐々にその面積を増していく。それに比例するように、纏う光も朧に霞んでいった。


「まずい、他の神器が次々に狂っていく影響を受けている」


(も、もしかしてあの鳥が始まりの神器なの!?)


 明香は小鳥をじっと観察した。元気なくぐったりとしている小鳥は、今にも息絶えてしまいそうな程に弱って見えた。


(始まりの神器はものすごく不安定で、少しの衝撃でも消えちゃいそうなくらいになってるって聞いたけど……)


 確かに、すぐにでも儚くなりそうなあの小鳥の様子と合致する。

 白珠がさっと秀峰を見る。美しい切れ長の眼差しに、鋭い光が宿った。


「初まりの神器が消えれば、我ら天威師はもはや地上にいることは叶わなくなる。我が後継の一、黇死(てんし)太子よ。死の神……死神(ししん)たるそなたの力を以って、何としても始まりの神器に迫る終わりを退けるのだ」

「承りました」

「は、その無能が太子?」


 静かに応じた秀峰にかぶせるように、素っ頓狂な声を上げたのは豪栄だ。


「あなたまで狂ったのか。北の御子は御威無しの穀潰しのはずだ!」


 だが、秀峰は己への侮蔑を一顧だにしない。小鳥を両手の平に乗せ、捧げ持つように胸の前で軽く掲げると、目を閉じる。


「御威無しならば、この時間停止と光の中で動けるはずがないだろう」


 呆れ果てた声音で高嶺が呟いた。


「そ、それは、お前たちが結界を張って守っているのでは……」


 だが、苦し紛れにひねり出した言い分を叩き折るかのごとく、秀峰の体から蛍火のような燐光が無数に立ち昇る。夢の中で蒼の使徒が纏っていたものと同じ、虹色がかった黄白の光だ。


「に、虹色……」


 豪栄がこぼれんばかり目を見開き、信じられないという呟きを漏らした。虹色は至高神だけが持てる色であり、天威師の証だ。明香は恐る恐る話しかけた。


「あの……」

「ん?」


 高嶺はすぐに気配を和らげ、応じてくれた。


「陛下が先程、()()と……至高神様は日神か月神か闇神では?」


 ちらと白珠を見ながら言うと、蒼き皇帝は高嶺を見た。


「至高神のことについては?」

「申し訳ありません、次回の講義で話そうと思っており、まだ……」


 申し訳なさそうな高嶺の返事に、気にした風もなく頷く。


「そうか。構わぬ。皇家の者に必須である天蜜や、天威師の地上での存在理由である神々の怒りなどを伝承する方が優先だからな。死神の話は後回しになってもやむを得まい」


 そして一瞬だけ思案するように視線を揺らし、続ける。


「では、今話してしまいなさい。私は他の神器の様子を見て来る。対症療法では間に合わないようであれば、穢れの根源である神杖を天威で清め、特別区全体を天威で浄化することになるだろう」

「私と姉もお供いたしますわ」


 ミアが白珠に微笑んだ。

 その脇で、テアが縄状にした天威で豪栄の全身を縛り上げ、猿轡をかませる。次いで、自身の天威を風呂敷のように広げて神杖を包んだ。


「神杖はひとまず隔離した。丹冥(たんめい)皇子、すまないがこいつはここに転がしていく」

「承知いたしました、紫死(しし)帝女殿下」


(え?)


 いい笑顔で告げるテアと、静かに首肯する綺羅のやり取りを聞いた明香は、首を傾げた。


(綺羅様は丹()皇子殿下だよね?)


 テアが呼びかけた称が違った気がしたが、聞き間違いだろうか。


(それに、テアお姉様の称号も……しし、って――テアお姉様は紫の気だから……一つは紫?)


 疑問符を飛ばしている間に、白珠はテアとミアを伴い、無駄のない動きで殿舎を出て行く。

 目礼してそれを見送った後、綺羅は秀峰を守るように側に控えた。

 高嶺は明香の隣にやって来ると、さらりと言う。


「紅日皇女。これより緊急講義を行う」

「……えっ?」


 思わぬ展開に、明香は一音高い声を出してしまった。


(な、何を仰ってるの?)


「こ、講義って、今はそんなことをしている場合では……っ」


 反射的に抗弁しかけたが、あることを思い出して言葉を止める。


(待って、そう言えば……)


 帝国の分庁で別れる前、高嶺が言っていた。


『遷都の儀までに時間を見付けて講義をしよう。幾つか話しておかねばならない大切なことがある』


(もしかして、緊急講義ってそれ?)


 それに、白珠も『今話すように』と言っていた。加えて、講義を行うという宣言を聞いても、秀峰や綺羅が反対しない。それらを勘案すると、おそらく必要な内容なのだ。

 であれば、迅速に応じるのが明香の最大の役目なのだろう。


「――いえ、何でもありません。分かりました、お願いします」

「ありがとう。――内容は至高神についてだ」

「はい」

「まず、北の御子殿の太子としての称号は、黇死(てんし)という。黄色がかった白を意味する黇に、生死の死。黇死太子だ」


 兄上ではなく北の御子と言う呼称を使ったのは、今は私的な時間ではないからだろう。先程から幾度も出ている語を、改めて反復する。


「死、ですか」


 死はこの世界では生と並んで尊崇を受ける事柄だ。ゆえに、不吉さや嫌悪感は感じない。むしろ尊崇と畏敬の念を覚えるほどだ。しかし――


「けれど、義兄様……いえ、北の御子様は天威師なのですよね? 先程も申し上げました通り、至高神様は日、月、闇のどれかであると認識しておりましたが」

「いいや、違う」


 高嶺はひたと明香に視線を据え、その言葉を告げた。


「一般には知られていない()()()()()()がいる。その神格は、死。つまり死神だ。北の御子殿は、その四番目の至高神なのだ」

ありがとうございました。

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