72話
「ローゼル嬢、本当に大丈夫ですか?」
「……ええ。心配はいらないから」
前を走るクラウスが心配しながらこちらを振り向いた。
最短で決着を付けたいので私とクラウス、それにエミールとエルスを連れて城の回廊を激走している。
まあ、宿舎を出るまでが大変だったんだけどね。
ほぼ不眠不休で動いている私を心配したエルスが「休んでくれ」と苦言を呈してきたが、休んでいる間に事が進んでしまったら目覚めが悪い。
必死に止めるエルスを制止して部屋を出ようとしたら、ドアの前にアルフレードが立ちはだかり「休め」と厳しい口調で言って来た。当然「大丈夫」の一点張りを突き通した。
まあ、そう易々と頑固者二人が聞いてくれるはずもなく「休め」と「大丈夫」の単語のみが飛び交う中、見かねたクラウスが口を開いた。
「こんなくだらない言い合いをしている間に休めてしまうのでは?」
至極当然の事を言い放放たれた。その勢いのままアルフレードを諌めるように話を続けた。
「ローゼル嬢が大人しく我々の言う事を聞くと思いますか?思いませんよね?──ですから、ここは従者である貴方が一緒に付いてくるで手を打ちませんか?」
溜息混じりにディスられた挙句、口煩い従者が付いてくるで決着がついた。
「まったく、頑固な所は昔から変わらないのですから……帰ったらこの件も含め、改めて教育致しますからね。……って聞いてますか!?」
「聞いてるわよ!!むしろ今そんな事話している場合!?」
「今だからこそです!!」
走りながらもエルスの口は止まらない。
エミールとクラウスは苦笑いを浮かべてるだけで助けようともしてくれない。
(エルスめ……人の事散々言ってるが、あんたの口煩ささも変わってないからな!!)
むしろ酷くなってる気がする……
ゲンナリしながらも足を止めずに進んで行った先でエミールの止まれの合図。
視線の先には、護衛の兵士が二人。ドアの前に立っていた。
「あそこね」
「ええ。……あの兵は私が引き付けますので、後の処理はお願いしますね」
「了解」
そう言うとエミールは護衛の兵士の元へ。
しばらく話した後、エミールは兵士を引連れその場から離れて行った。
去り際にこちらに視線を送ってくる辺りちゃっかりしている。
「さあ、行きましょう」
ドアの前までやってくると息を深く吸い込み、そして……
「たのも-----!!!!」
バンッ!!とドアを勢いよく蹴り開け部屋の中へ進むと、ベッドの上で目をまん丸にして驚いているノルベルトがいた。
「な、ななななななんだお前らは!!!!」
いきなり複数人で乗り込んできた挙句に、剣を手にしている事に気が付き顔面蒼白だ。……こういう所は馬鹿みたいに勘のいい……
「クラウス!!!貴様何をしている!!!早くこいつらを部屋の外に連れ出せ!!」
クラウスの姿を見つけると堰をきったように怒鳴りつけてくるが、その命令を聞くものはいない。
「あら、どうしましょ。ねえクラウス様?」
「ふふふっ。意地悪な方ですね。私があなたに手を出せる訳ありませんよ」
「な、なななななななな…………」
ノルベルトに見せつけるようにクラウスの肩に腕を回し、親しげな雰囲気を醸し出すと信じられないとばかりに狼狽えていた。
「さて、王子様、私の顔は覚えているかしら?」
「…………………………シェリング家の令嬢だろ」
今更嘘は付けないと腹をくくったのか諦めたのか定かではないが、私の事はちゃんと知ってるくれているようでなにより。
「では、私がここに来た理由もご存じ?」
「…………………………」
バツが悪そうに視線を逸らした時点で肯定してんだよ。
私は拳を強く握り、そのままノルベルトの顔目掛けて振り下ろした。
「グッ!!!」
鈍い音と共に壁まで飛ばされたノルベルトは、痛みで蹲っていた。
「おのれ!!!お前、私が誰か分かっていて殴ったのか!!!!」
「ええ。最初に王子様って言ってるじゃない。本当にあったま悪いわね」
「──なッ!!!!」
目を細め蔑むように言えば、顔を真っ赤にして怒りに震えている。
まあ、この辺りは腐っても王子様だから仕方ないんだけどね。
「父上にいいつけてやる!!!」
「あはッ、上等よ。言ってみなさい。こんな歳になってまで親に頼るって貴方いくつよ?ああ~、ごめんなさい。僕ちゃんはおいくちゅでちゅかあ?」
「~~~~~~~ッ!!!!貴様ッ!!!おい!!!クラウス!!!主人が馬鹿にされているんだぞ!!!その女を捕まえて牢にいれておけ!!!」
まったく、さっきクラウスはこちら側の人間だと見せつけたのに、もう忘れたのか……
クラウスも呆れるように溜息を吐いているし、ここに長居していても話は一方通行だろうな。
「──……クラウス様。もういいですかね?」
「おや?もういいんですか?少々手ぬるいのでは?」
「ええ。こんな所で体力を消費するのは馬鹿みたいだと思っただけです」
「ふふふ。いい判断です」
私とクラウスが親しげに話しているのを見て「は?」とようやく現実が見えてきたノルベルト。本当にボンクラだわ。
そんなボンクラノルベルトに最後の一言を伝えることにした。
「ノルベルト殿下。いえ、ノルベルト。貴方は今をもって王位継承権を剥奪し、王族から除名します」




