70話
ルドを抱き上げた所でクラウスが牢の鍵を壊した。
「いつ看守が来るか分かりません。とりあえず外へ出ましょう」
その言葉を合図に、エミールはアランを担ぎあげ全員牢の外へと出た。
牢を見張る看守が不在だったのも幸をそうした。
まあ、城の警備体勢としては問題ありだが、私達からすればなんと言う幸運。
外に出れば既に日が昇ろうとしていた。
目を細め、ようやく見る陽の光に何とも言えぬ安心感を感じる。
出来ることならゆっくり日の出を見ていたい所だか、そうは問屋が卸さない。
「急ぎますよ!!」とクラウスに急かされた。
「クラウス様、どこか当てがあるんですか?」
「ええ、敵も容易には足を踏み入れる事が出来ない取っておきの場所があります。とりあえずそこに身を隠します」
前を見つめたまま返事を返してくれたが、物凄く嫌な予感しかしない。
アランのことを考えれば、あそこ以外に安全と言える場所は無い。
(だけどなぁ~……)
正直、行きたくない。だが、それを言える雰囲気ではないから黙ってる。
はぁぁ~……と溜息を吐きつつ、重しをつけた様に重くなった足を動かした。
◇◇◇
「……………で?このザマという訳か?」
勘のいい人なら何処に向かていたか分かっていただろうか?
はい、正解は我が竜騎士団が寝泊まりしている宿舎であります。
着いてそうそう奇襲か!?と疑われそうな程アルフレードの部屋のドアを叩き、飛び出して来た所でクラウスが簡単に経緯を説明した。
そこまでは良かったのだが、早朝に叩き起された挙句にズカズカと複数人で押しいれば、例え仏の様な人でも苛立ちを露わにするだろう。
それじゃなくても悪魔と呼ばれている人物だぞ?
悪魔と言うより魔人の様な顔をして睨まれておる。
そんな事より何がおかしいって、腕を組み仁王立ちのアルフレードの目の先で正座させらているのは私だけって事。
クラウスはアルフレードの横にちゃっかり並んでいるし、エミールは部屋にあった唯一の椅子を陣取ってるし、アランはベッドの上。
(何で!?)
え!?私だけ説教されるの!?
あんたら、一緒に窮地を脱出した仲間じゃないの!?
そうは言えど、アルフレードの顔をまともに見れない私は、冷や汗をかきながら視線を泳がせていた。
すると、頭上からそれはそれは業火をも一瞬で凍らせそうな冷たい声が聞こえた。
「私は再三何かあれば一人で突っ走らず私を頼れと言ったはずだが?」
「……はい、申しておりました……」
「何度同じ事を言わせれば学習出来るんだ?」
「………いや、正直、あんたに伝える方がめんど──」
ドンッ!!!!!
呆れた声が聞こえたので、思わず本音が漏れてしまった。
その瞬間、俯いている視線の先にキラッと光る剣先が床に刺さったのが見えた。
(あ、これ、殺されるやつや……)
思ったよりも数百倍激おこなアルフレードに一気に血の気が引いた。
このままでは命がヤバいと思った私は、護衛を志願してきたエミールに助けを求める為に顔を上げた。
(──なっ!?)
視界に映ったエミールは「面倒事は御免」と言わんばかりに窓の外を飛んでいる蝶を悠長に眺めていて、此方を一切見ようともしない。
(おいっ!!お前、私の護衛じゃないんかい!?)
今が出番!!今助けてくれたら護衛の件もマジで考える!!
そんな切実な願いもエミールには届かない。
「ローゼル」
ヒュッと息を飲むほど低い声。
ああ~、ここまでか……と覚悟を決めた……その時
バンッ!!と勢いよくドアが開く音が聞こえた。
「お嬢さま!!!!」
飛び込んできたのはエルス。
「エルス!?!?!」
どうやら騎士の一人が呼びに行ってくれたらしい。
エルスの顔を見て、一瞬「助かった!!」と思ったが、よくよく考えたら面倒な奴が増えただけ……
「貴女!!今まで何処にいたんですか!?どれほど探したと思っているんです!?」
一晩中寝ずに探したのだろう。いつもはきっちりしている髪もボサボサで、服も汚れている。
「いや、ちょ、落ち着いて?」
「これが落ち着いていられますか!!!!」
掴みかかってくるエルスを必死に宥めるが、一向に熱が引かない。
「一体何していたんです!?──……もしや、アルフレード様と……!?」
「恐ろしい妄想しないで!!!」
ここまで狼狽えるエルスも珍しいが、いくら冷静でないしてもアルフレードとなんて恐ろしい事言わないでくれ。
「いえ、ローゼル嬢は私と一夜を共にしていたんですよ」
「「は?」」
クラウスの一言にエルスだけではなく、私までもが声を上げた。
(ちょ、おい、待て──!!)
止めようとするが、あまりの事に言葉が出てこない。
まあ、いつものエルスなら土埃を被ったボロボロの服を見れば何かあったのかは察しが付くだろうが今はただのポンコツ。
察しが悪すぎる!!
「く、クラウス様……?」
「そんな他人行儀な。クラウスと何度も呼んでいたではありませんか」
「「─────ッ!?!?!!!?」」
クスッと含みのある笑顔で言い切ると、エルスとアルフレードの鋭い眼光が私を射抜いた。
(こいつ!!完全に楽しんでやがる!!!)
その証拠に肩を震わせて笑いを堪えているからね。
本当に始末が悪い!!
「ローゼル……」
「お嬢様……」
「いや、あの、話せば分かる……」
ジリジリと詰め寄る二人を必死に宥めようとするが、健闘虚しく宿舎全体に響くほどの怒号が響き渡った……




