67話
クラウスの剣は聖石を使ってできた剣。それは魔術師にとって最も天敵とも言える。
そこでルドはクラウスの剣を欲し、わざと煽った。
その結果、聖石で刺されたイルダは力が使えないでいるらしい。
「え?ちょっと待って、その人白魔術も使えるんでしょ?白魔術に聖石は相性がいいんじゃ……!?」
「そうやね」
黒魔術には毒となるが白魔術には薬となる。
そんなことも知らなかったとは言わせない。
私が思ったことを口にすると、ルドは即座に肯定した。
「いや、そうやね。じゃないわよ!!何してくれてんの!?」
「まあまあ、落ち着き。そんなら聞くけど、このババア再生できとるか?」
「それは……」
「そうやろ?」
そこが謎なのだ。
なぜ白魔術の使い手でもあるイルダが傷を癒すことができないのか。そりゃ黒魔術を使う弊害があるかもしれないが、イルダ程の使い手がおかしすぎる。
「答えは簡単や。この人、悪魔と契約しとってん。白魔術使えんようなったんよ」
「は?」
「考えてみ?普通の人間がこない若い姿でおられると思うか?」
そりゃ、思わない。
(けど、悪魔って)
どうも実感が沸かない。
魔術がある世界だもの、悪魔もいるんだろうなぁ……程度に考えていた。いざその存在を確認すると、こうも実感が沸かないものなのか。
「まあ、長ったらしい説明は後回しや。先にこのババアの息の根止めるで待っとり」
そういうなり、ルドの前に魔法陣が現れた。
「ちょ、ちょっと待って!!その人、ルドのお師匠様で命の恩人じゃないの!?」
ルドに魔術を教えてくれ、ここまで育ててくれた。言わば母みたいな人。
いくら悪魔に魂を売ったとしても、母親に躊躇なく殺意を向けれるルドが信じられないでいた。
ルドはチラッとこちらを見たが、陣を発動させようとしている。
「ルド!!!」
「仕方ないねん!!!!」
止める私の言葉にルドが怒鳴り返して来たもんだから思わず怯んでしまった。
「……こいつは、もう、師匠やない……」
絞り出すような声で言うルドの声は震えていた。
「師匠の皮を被った悪魔やねん」
そう言うルドの眼は哀し気に悔しさを滲ませていた。
そんなルドに私は声をかけられず、陣は発動した。
そして──……
「ぎゃああああああああ!!!!!!」
断末魔の様な叫び声が響き渡り、イルダの姿は灰になって散っていった。
ルドはただじっとその灰が散るのを眺めていた。
◇◇◇
後からルドに聞いたところによると、イルダは悪魔と契約した時点でイルダという人物は消えた。
先ほどまで見ていたのは外見はイルダだが、意思はイルダのものでは無い。イルダの肉体は依代となっていたと聞かされた。
ルドはいつそれに気づいたのか問うと、前にダークウルフに襲われた時には既に違和感を持っていたらしい。
ただ確証は持てず私達にも黙っていたと。
ではいつ確証に行き着いたのか。
ルドはおもむろに手を出すと、そこには綺麗な紫色をした魔石が嵌められたペンダントが握られていた。
「…………これは師匠が最期に遺したメッセージや」
このペンダントはイルダの部屋の引き出しの奥に引っかかるようにして落ちていたらしく、見つけたのも本当にたまたまだったらしい。
このペンダントを手にした瞬間、ルドを待っていたかのように魔石が光りイルダの想いが脳裏に流れ込んできた。
「師匠は全て分かった上で僕に自分の命を託したんよ」
「ほんに、弟子になにやらすねん」なんて悪態を吐くが、その顔は無理に笑っているのが分かる。
そもそも、イルダと言う人物は黒魔術も使うが白魔術の方を主に使用していた。
この国は裕福な者と貧困の者達の格差が激しい。そんな貧困者達の為にイルダは無償で病などの治療をしていた。
それがある日、突然人が変わったようになってしまった。
「ちょっと待ってよ。なんでそんな聖女みたいな人が悪魔と契約することになるの!?」
私が問いかけると、ルドは一層冷たい目をしながら教えてくれた。
「この国の魔術師の奴に騙されたんよ」
どうやら、元々自分の言う事を聞かないイルダを面白く思っていなかった国王と一部の魔術師の奴らが結託してイルダの身体を悪魔に売ったと。
きっとルドならペンダントの存在に気づいてくれるだろうと寸前の所で遺したのだろう。
その証拠にペンダントの裏にはしっかりルドの写真が入っていた。
写真のルドは笑顔でイルダに抱き着いてる。イルダも笑顔でルドに顔を寄せている……
ルドは一体どんな気持ちでイルダを葬ったのか。ルドの気持ちを考えると酷く胸が痛い。
それと同時にこの国の奴らに対して今まで感じたことのない程の怒りと憤りでどうにかなりそうだった。
その思いは私だけではなかったようでクラウスや、この国の騎士であったエミールまでもが怒りで顔を歪めている。
ルドはペンダントをもう一度握りしめると懐に大事そうにしまい込んだ。
そして、私達に向き合い
「さあ、しみったれたのは終いや!!」
そう笑顔で言った。




