123話
「あ、おかえりなさい」
部屋に戻ってきたアルフレードとユーシュを見て、にこやかに声をかけた。
今、我々はカファトウ国の城に滞在中。
あの後の事を簡単に説明すると─…
傷を負っていた者はルドが治療済み。イナンだけは頑なに治療を拒んだ。
「敵に情をかけられる程落ちぶれてない」ってね。
問題は教会の者ら。
女神と聖女を失い、怒り狂い我々に突っかかってきた。周りで見ていた者らも同調し始め、あわや一発触発という所で城からの遣い者がやってきて、事なきを得た。
そして現在
王弟であり被害者のアルフレードと、一番の功労者であったユーシュが代表して国王陛下に謁見してきた。
因みに、イナンは教会側。
「どうでした?」
「ああ、向こう側の訴えは棄却された」
当然だな。他国の王弟を誘拐して変な術にかけたんだ。争いに発展してもおかしくない。
教会の連中は王弟とは知らなかった様で、顔面蒼白になっていたらしい。
とは言え、教皇だけは黙ってはいなかったようだ。
この国からしたら信仰していた女神を失った所か、聖女まで失ったんだ。大人しく引き下がるはずがない。
「この国の現国王はまだ若くて未熟故に、政をよく知らぬ内に王に就いたらしい。その為、上の者と教会の者の言いなりになっていた節がある。だが、女神の神話や生贄の件は思うところがあったらしくてな」
(ふ~ん)
まあ、どこの国王も最初は国の傀儡みたいな所はある。自分を全面に出して国を纏めていかなければ、国王としての器は保たれない。
(うちの国王を見せてやりたいわ)
あれは自分を出し過ぎ。少しは控えてもいいぐらい。
「最終的には、あの者が自分達の非を認めたんでな。強固な味方を失った教会連中が崩れたのさ」
「え?あの者って…」
小さな声で呟いたら
「俺でぇす」
「「!?」」
私の肩を抱くようにして現れたイナンに全員が驚いた。
「イナン!!あんた気配消して来ないでよ!!」
「気配消してきたら避けられちゃうだろ?」
詫び入れる様子もなく、いたずらっ子の様なイナンに呆れるが、こうして元気な姿が見れてホッとしている自分もいた。
「小僧…今すぐその手を離せ」
「嫌だね。あんたの言うことなんか聞く義理はないし」
「……ほお?余程死にたいらしい」
アルフレードが不敵な笑みを浮かべながら剣を抜き始めた。イナンはおびえる様子もなく「来なよ」と更に煽り始めた。
流石に他国の城での争い事はまずいと、止めに入ろうとしたがそれよりも素早く動いた人物がいた。
「駄目ですよ」
抜き掛けの剣を押さえるように手を据え、満面の笑みを浮かべたクラウスだった。この人の笑顔は本当に底知れぬ恐ろしさがある。
「イナンもいい加減にしなさい」
「はぁ~い」
頬を膨らませて面白くなさそうにしながらも腕を離した。
イナンは重要参考人としてこの国に置いておく予定だったが、カファトウ国の国王がイナンの処遇はこちらに一任すると言った事で、一緒にガルド国への帰国が決まった。
「この国は今回を期に大きく変わるだろう。我々が出来るのは、ただ見守るだけだ」
アルフレードの言う通りだ。
信仰するなとは言わない。信仰は神の源だ。だが、それを一歩見誤ると今回のようなことになる。
(そこは、この国の王様次第)
どう纏めて行くか見せてもらいましょう。これから先のカファトウ国の未来を……
◇◇◇
「お、大きい………」
三日後、ようやくガルド国から竜騎士の面々が迎えに来てくれた。
ユーシュは始めて見る黒竜を目の当たりにして、目を輝かせて見上げている。
「良かった。少しは元気になったみたい」
ユーエンを亡くしたショックで、暫く伏せっていたので心配していたのだ。
残念ながらユーエンの遺体は見つからなかった……それでも存在していたという証明が欲しくて、ユーシュの両親の眠る墓の隣に墓を立てた。墓のある場所は町を眺め下ろせる丘で、春には草花も咲き乱れる綺麗な場所だと言っていた。
「爺ちゃんも、父さんと母さん一緒なら寂しくないさ」
そう呟くユーシュの背中はとても逞しく見えた。
「そういえば、黒竜の足に付いてた血まみれの布はどういう意図があったの?」
グルグル嬉しそうに鳴きながら頬を寄せてくる黒竜を愛でながら問いかけた。
「血?布?なんだそれは」
「「は?」」
私とクラウス同時に声が出た。
いや、知らないとは言わせんぞ。今回の事件の発端はそこから始まってるんだ。ここまで付き合わせといて知りませんじゃ済まさん。
(ちょっと待てよ………)
アルフレードが知らないなら、もしかして……
疑念を向けるようにクラウスを見ると慌てたように口を開いた。
「私は間違えてませんよ!!あれは確かにアルフレードのものでした!!」
「その本人が知らないって言ってんのよ?」
完全に疑いの目で見ていると「あ、それ俺だよ」と背後からイナンの声がした。
「行方不明だけじゃ姉さん動かないだろ?確実にこの国におびき寄せる為の餌に俺が仕込んだんだよ」
こいつの仕業だった………!!
溜息を吐きながら頭を抱える私の肩に、ポンと手が置かれた。
「そろそろ行くぞ」
「そうね」
アルフレードに急かされて、スルッと黒竜の背に乗った。別にそれだけの事だったのに、なぜか、皆の視線が痛い。
「え?何?」
「いや、あんた……無自覚って怖いわぁ~」
ルドが呆れるように別の竜に乗り込む。訳が分からず、助けを求めるようにエルスを見ると、こちらも「やれやれ」と言った感じ。
「え?どうしたの?」
いよいよ混乱してきた。
「なんだ。いつもは私とは嫌だと言って乗るのを渋るのに今日はやけに素直だな」
「ッ!!」
そこまで言われてようやく気が付いた。
他の竜騎士達を見ると、ニヤニヤした顔でこちらを見ているじゃないか。無意識とはいえ、あまりの事態にいたたまれず黒竜の背に埋もれるようにして顔を隠した。
「自分から乗って来たんだ。照れることないだろ?」
息がかかる程の距離で言われ、余計に顔が火照る。
(羞恥心で死ねる!!)
こうして誰一人欠けることなく、無事にガルド国へと帰還することができた。




