121話
「……どうやら、あちらは終わったらしいな」
チラッと視線を移しながらアルフレードが呟いた。
「よそ見してると危ないよ?」
クナイの刃が目の前に迫っているのが見え、慌てて飛び退いた。
お互いに傷を負っているが、まだまだ動けると言わんばかりに剣を交えている。
強さも動きも同等。アルフレードも驚くほどの瞬発力のイナンを相手に、手こずっているらしかった。
「ちょこまかと……」
「俺の素早さは姉さん仕込みだからね。姉さんの顔を立てるためにも負けるわけにはいかないんだよ」
「お前はローゼルのなんなんだ?」
「教える義理はないね!!」
当然と言えば当然だが、教える気はないらしい。
クラウスから聞いていたが、どうも私が思っている以上の関係らしい。
(前の男か…?)
それはないな。ローゼルは恋人を作る事に消極的だった。いや……その原因がこの男だったら…?
「考え事?」
「ッ!?」
ローゼルの事で、気を持ってかれていた。その隙を狙われ、右脇腹に剣が突き刺さった。
(くそッ!!)
完全に自分が悪い。戦場で考え事などあってはならない。
「随分余裕じゃない?」
「そう見えるか?」
脇腹を押さえ、苦笑いを浮かべながら言い返した。
(正直なところ、こいつは強い。勝算は五分と言ったところか……)
それに加えて、無茶苦茶な動きで行動が読めない。右にいたかと思えば振り向けば左にいる。瞬発力と判断力がこの勝負の鍵だな。
「姉さんはずっと前から俺のものなんだよ。ポッと出てきたあんたなんかには渡さない」
イナンの目は嫉妬と妬み、それに憎しみが混ざり合っている。この男もまた、ローゼルに心を奪われた者なだろう。憐れ言うか物好きと言うべきか
……まあ、俺も同じ穴の狢なのだが。
「悪いが、それは聞けんな」
我々よりも深い関係があろうと、譲る気は毛頭ない。
「そう……じゃあ、死んで」
先ほどとは比べ物にならない速さで突っ込まれた。
「くッ!!」
「へえ?流石だね」
何とか受け止めたが、傷に響き顔が歪む。
イナンはニヤと微笑み、傷を負っている脇腹を思いきり蹴りつけた。ドンッ!!と大きな音ともにアルフレードは壁に打ち付けられ、衝撃で血を吐きだした。
「姉さんは弱い奴は嫌いなんだよね。あんた俺より弱いじゃん。……なんで姉さんの傍にいんの?」
見下ろされながら言われ、思わずクスッと笑みがこぼれた。
この場面で笑われると思っていなかったイナンは「は?」と面白くなさそうに眉を寄せた。
「お前は、それを力の強さだけを言っているのか?」
「当然でしょ」
「は、若いな……」
嘲笑いながら言われ「は?」と苛立ちを露わにするイナン。
「その答えが分かっていないお前は万が一に私に勝っても、ローゼルは手に入らない」
力が強いだけの者ならいくらでもいる。ローゼルが言う『強さ』には、心の強さも含まれている。それを敢えて伏せてこの男に伝えたところを見ると、ローゼルはこの男に芯のある男になって欲しかったのかもしれない。
(………まあ、あいつが、そこまで考えているかは不明確だが………)
遠い目をしながら思った。
「煩いよ!!死にぞこないが!!姉さんの事を分かってるのは俺だけなんだよ!!」
アルフレードが立ち上がったの同時に斬りかかってくるが、その攻撃は綺麗に躱された。代わりに、アルフレードの剣がイナンの頬を斬りつけた。
「ッ!?」
体を捻り刃を避けるが、避けた先にアルフレードの足が飛んできて思い切り壁に打ち付けた。
「……まだそんなに動けるとか………詐欺でしょ?」
「はは」と苦笑しながらアルフレードを見つめながらゆっくりと立ち上がった。
「そろそろお互い本気でいこうよ」
「そうだな。この感じでは長くはもたんからな」
お互いの覚悟を確かめ、同時に斬りかかる。剣のぶつかり合う鈍く重い音が響き渡る。
汗や血を飛び散らせ、その場にいる者達にも伝わる本気の殺りあい。
ビリビリと伝わる緊張感と息を飲むほどの緊迫感。
どちらが勝ってもおかしくない……
全員がそう思っていた。




