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フォーリング・ア・スリープ

作者: sucram

 ガタン――


 ぼやけた視界。

 顔に手をやった左手が赤く染まっていた。

 かすかな匂い。

 シャワーヘッドを落とした音だと気づいたのは数秒後。

 湯を止めて拾おうとしたが、バランスを崩して座り込んだ。


 ぽた……ぽた……


 ふたたび顔に手をやる。

 紛れもない、血液。

 頭が焼けるように痛い。

 舌先に感じる鉄の味。

 モノクロのシャワー室に真紅が映えた。


 ぽた……ぽた……


 髪はいくら拭いても濡れたまま。

 呼吸が苦しい。とにかく外へ行かないと。

 冷たい空気が気道へ一気に流れ込んだ。

 実際には生暖かいんだろ?

 寝苦しさが付きまとう深夜。


 ぼすっ……


 何か蹴り飛ばしたと思ったら枕。

 机の上には空き缶が一本、二本。そんなんじゃ数えきれない。

 枕を尻に敷いて座って、飲み明かして越えた日付変更線。

 背徳感がより一層、自分を酩酊へ誘った気がした。

 近くだとシャンプーの良い匂いがするんだ。


 ぼすっ……


 ベッドに身を投げて思い出す。

 確か髪色はグレーで。

 このベッドで一緒に寝たのはいつだっけ。

 彼女がいない時じゃないとダメだしな。

 蓋のなくなった頭痛薬。

 ごっそり中身が減ってるな。

『ごめんね……もう我慢できないの』

 そんなことより頭が痛い。

 二日酔い確定コースか。

 夜、バイトなんだけどな。

『ちょっとシャワー入ってくるわ』

 暫くの沈黙。

 一度横になった重い身体を起こす。

 昇る陽が眩しい。

 いつの間にか寝ていたようだ。

 鉛でも詰まってるかのように頭がぐわんぐわん揺れる。


 ぽた……ぽた……


 まだ髪が濡れてるのか。数時間は経ったはずなのに。

 頭に手をやると濡れていない。血もついていない。

 枕は濡れているのに。

 胸が苦しくなって、吐きそうになる。

 どうにかしなくては。

 必死に錠剤を掴み取り、余っていた発泡酒で流し込む。

 蝕まれる意識。

 充血した目を擦った時、初めて気が付いた。

 ……濡れていることに。

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