昔の偉い人が遺したもの
「お母さーん、なんか不審者居たから戻ってきたー」
「あらま。やだわ不審者なんて」
ほんとそれ。
なんなんだろうねあの人。
「まぁそれは後でお父さんがどうにかするでしょうから、一旦置いときましょ。暇なら収穫した芋と豆、仕分けしといてもらえる?お母さんはご飯の支度やるから」
「おっけーおっけー」
不審者と聞いても軽い口調で返してくるのは旦那が地味に強いからだろうか。まぁ私も他人の事は言えないけど。
さり気なく愛娘に重い作物の仕分けなんていう重労働を押し付けたのが私のお母さんである。父よりもやや若く、勇者の【精神統一】を受け継いだ自慢の母だ。
我が家のヒエラルキートップの母に立ち向かうのは愚か者のする事なので、素直に言う事を聞いておく。
これが芋、こっちが豆……。はぁ、多いなぁ…。
仕分けとはつまり、商品価値が低そうな物を別に分ける作業の事だ。
チビ芋や色味の悪い豆はうちで消費したり近所にお裾分けするのである。そして、近所からは別の作物を融通してもらう。田舎あるあるだよね。
それが終わったら、街へ出荷する分を同じ大きさの袋に詰めるだけ詰め込んでいく。人力でこなさなければならない、収穫に並ぶ怠い仕分け作業。
ちなみに袋の大きさは作物の種類毎に決まっている。
これで大体の収穫量は分かるし、売り買いがしやすくなるらしい。商人も農家もうぃんうぃんの『勇者の知恵』というやつだ。「うぃんうぃん」とか「おっけー」とかも勇者が元らしいね。
出荷した分は袋のまま八百屋さんで売られる事になるとは聞くけど、そこら辺の事情は買った事ないからよく知らない。
「だぁ…!!芋、袋おっっも…!!」
勇者は様々な能力の他に、画期的な制度や学問、技法、言葉など色んなものを遺したらしい。
教師が言うには、それらは良くも悪くも世界をかき乱し、当時は色んな混乱があったんだと。今は落ち着いているけど、当時は大変だったみたい(歴史評点赤点だったからあんまり理解はは出来てないんだよね)。
『勇者の知恵』と呼ばれるそれらの知識群は、世界の文化を300年圧縮したとも言われてる。
まぁ私たち世代からすると常識にもなってる事が多いから、「ふーん、昔は大変だったんだなぁ」ぐらいの感想しか出てこないや。
「よいしょ……。重いのは豊作の証だ!!ってお父さんは言うけどさぁ、ちょっと程々にして欲しいよねぇ…。」
椅子に座って、特大の麻袋から芋を取り出して仕分けていく。
芋は美味しいけど仕分け怠いのが難点だよなぁー。一個一個が重いから手が疲れるんだよね。
豆も細かいから袋にたくさん入ってるしさぁ……まぁ仕方ないかぁ…。
これはチビすぎ、これは端が腐ってる、これは色が悪い…。
あ、これは形が面白いからうちで使おう。
うーん……なんかこう、もうちょいなんか楽できないもんかね…。
『勇者の知恵』も、こういう地味な作業とかをピューンッて楽に済ませられる様なのを遺してくれてたら良かったのに。
「おい娘。飯はまだか。」
「どぅっふぇあっ!!?」
急に耳元で聞こえてきた男の声にびっくりして変な声出た!!
芋落とすとこだっただろうがコルァ!!
あんだよまたお前かよ!!
私ん家に不法侵入たぁ良い度胸してんじゃない!
「なんだ、飯の用意はまだであったか。芋に豆か…戦時中であるのは分かるが、我は王であるぞ?もう少し何か、肉とかないのか?」
知らないよそんなん。
まだ飯時じゃないし、そもそも不審者におまんま食わせてやる程ウチは裕福でもとち狂ってもいない。戦時中とかいつの時代の設定なんだよその妄想。
……や、魔王って設定なら戦時中か。
とりあえず無視だ、無視。
「何か反応してくれないと悲しくなるだろうが。おい、良いのか。我が悲しんでしまうのだぞ?」
うるさい構ってちゃんだなぁ……。
あぁ良いよ悲しくなれ悲しくなれ。勝手にやってなさい。
「もう芋でも豆でも構わんから、蒸すでもなんでもして食事の準備をして欲しい。おい、娘よ、聞いておるのか?おい、おい!」
はいはいそうなのね大変ね。
分かったからさっさとウチを出て行ってくれ。




