宝の腐れ餅
とにもかくにも。
やべー奴が現れたってのは村の連中にも伝えとかにゃーね。ほら、村社会ってよそ者に厳しめだからさ。見た事ない相手が居たらとりま警戒しとかなきゃならないのよね。
やっぱ盗賊とか盗人も居るし、用心には越したことない。
「お父さーーん!!」
「なんだーー!!」
「なんか不審者出たーー!!」
「あぁーーん!?なんだってーー!?」
別にこれは父が驚いて叫んでるわけではない。
ただウチの畑もそこそこ広いので作業中は距離的な問題で大声じゃないと会話出来ないから叫んでるだけ。ちなみに父もまだまだ働き盛りとはいえ、最近は少し耳が悪くなってきたのが悩みらしい。腰が痛ぇと泣き言をのたまう髪の薄いおじさんが言うと説得力が違うね。
ただ、私が嫁に行くまでは元気で居て欲しいもんだね、
うん。収入無くなると困るからね。
おっと、父が近寄ってきた。
「なんか言ったかい」
「さっきね、なんか不審者が居たから伝えとこうかと思って」
「不審者ぁ?なんだい、お前に色目使う様な男がおったんか?いっそ貰ってくれりゃあ世話ないんだがね」
この言い草である。ハァ?
え、何、もしかして喧嘩売ってる??
……勿論冗談だろうが、大切な娘に対してちょっと酷いんじゃないだろうか。この村の男連中の中に私のお眼鏡に叶うような相手が居なかっただけだ。
身近に良い男が居ない方が悪いんだよ。まるで私が嫁ぎ遅れてるみたいに言わないで欲しいね。
ちなみにこの村では大体15歳くらいで結婚する男女が多い。ついでに言うと私は今22歳。再来週で23歳だ。
でも、でもね。都会の方じゃ二十代で結婚する人も多いらしいからまだへーきへーき。三十代で独身の人も多いって聞くし、まだ焦る時じゃない。うんうん、私がちょおーっと村娘よりシティガール寄りなだけだから。問題無い。まだまだピチピチのうら若き乙女だよ。
「んで、そいつぁどんな奴だったんかい?」
「なんか指だけ宙に浮かんでたけど、自分の事を『魔王』ナントカだーって言って偉そうだったよ。」
「なんだい口説かれた訳じゃねんか。ふぅん、まぁなんだ珍しい能力持ってそうだがね、ちっとまぁ言い草から見るにそりゃ宝の腐れ餅っていうやつかい?難儀だねぇ。だがまぁ、男にゃそんな事言いたがる時期があるってもんでな。あたたかーい目で見ててやんな」
父もそんな時期があったのだろうか。何やら複雑そうな、初めてみる笑い方をしている。
そんで何さその腐れモチって。腐れてたら宝なんかじゃあないだろ。
「ま、一応村ん連中には話通しとかねぇとなぁ。盗賊だったら困るってもんだもんなぁ。はぁーめんどくせぇ。」
ちなみにこの反応、一般的な村人の反応とは違う。
このハゲかけたおっさん、見え隠れする頭皮に似合わず結構強いのだ。レベルは高くないが、勇者の「怪力」を受け継いでいる馬鹿力のハゲかけたおっさんなのだ。そこらの魔物ならワンパン出来る。
そんな戦闘にも使える能力を発現させながら、廃れた村の農民になるあたり実に私の父である。そんなに強いなら、町の衛兵とか、せめて容姿ももっとカッコよければ娘としても誇れるのにな。
この時代、女の子から求められるのは強さではなく容姿の偏差値と財力なのさ。
今からでもイケおじとかになれない?無理?あっそう…。
「俺はこのままの畑仕事してるけどよ、お前はどうする?家に戻ってても良いが。」
「じゃあ帰って母さんの手伝いでもしてるよ。」
肉体作業はシティガールには似合わないからね。
家でだらだらしよっと!