怪奇!!宙に蠢く謎の指!!
日本がスペインに勝ったので更新
「むすめむすめむうすめむすめーむすめむーすーめー」
本格的にうるさいなコイツ。幻聴のくせに。
夏という季節にはには怪しげな魔力が宿っており、その暑さに浮かされて人々は判断を誤ったりするそうだ、とは母の言葉だ。もしかしたらそのせいで幻聴がするのかもしれない。
貴女もそうやって産まれたのよー、と言っていたが、親のそんな事情知りたくなかったし私の事を夏の過ち扱いににしないで欲しい。地味にショックだ。
まぁ、いつも父と仲が良いので本気にはしていないんだけどね。
ていうかその理論でいくと私もこの歳で母親になってしまうやも。
無いか。相手、幻聴だしな。
「ふむ。よいぞ。お前がそうやって無視し続けるつもりなのならこちらにも考えがある。」
ぷに。
……頬を突かれている。
どうやらこの幻聴は触れるらしい。
爪が刺さって痛い。やめて欲しい。爪切れよ長いんだよ。清潔感無き男はモテないんだぞ。
「『雷撃』」
「あぃたぁっっ!!?」
バチンっていった!バチンっていった!!
乾燥が酷い冬みたいになった!痛い!!ヒリヒリする!!
冬はある程度覚悟出来てるから我慢出来るけど夏の不意打ちはダメだね!!許せねぇ!
「なにすんのよっ!!」
「お前が反応せぬからではないか!我が直接言葉をかける栄誉を賜っているの云うのに無視は非道いのではないか?
我、拗ねちゃうぞ!!」
存分に拗ねればいいと思う。そんでもう話しかけてこないで欲しい。
ていうかバチンってなった弾みで、思わず声の方見てしまった。
えぇ…なんか何もないとこから指が生えてる…キモ…。
若干、浅黒い。細くしなやかだが男性らしくやや骨ばっている。ウネウネ動いて無駄に感情表現豊かだ。キモい。そんでもってやたらと爪が長い。邪魔そう。畑仕事なんかしたらめちゃめちゃ土が詰まりそうだ。
……えいえい。
「…む!?何だ!?小娘何をしている!!爪の間に何か詰めてくるのは止めるのだ!ぬぅ!?指が抜けぬッ!!出口が狭すぎる!!
うぬぬぬぬ!!爪の間の異物感!!気持ち悪いぞ!!」
ふはははは。謎の指が空中でくねくねしてやがる。
うちの畑のきめ細く栄養豊富な土の感触はどうかね?
入り込んだが最後、割とずっと存在をアピールし続けるぞ!!おかげでうら若きこの私の爪は大体いつも土が詰まってるぞ!!!爪の色はピンクと茶色と白の三色だ!!
クソめ!!都会のモテる女共の爪は綺麗に塗って飾るのが流行りなんだってな!!カーッペッ!!
私だってなぁ!都会で!小汚ねぇ爪をよぉ!!綺麗に磨いてよぉ!!煌びやかに着飾ってみてぇんだけどなぁあーっ!!!
「ふぬぐぅあっ!ふぅ、やっと指が抜けたわ……。なんだ小娘。お前、爪を着飾りたいのか?妙な趣味をしておるのだな。」
・・・は?
え?私、今の口に出してたか?出してないよな?
『女たる者、薄汚れた本音なんぞ出さずにおべっか使って良い男を騙して捕まえるべし。同じく女に産まれ落ちた腹黒い売女共を如何に出し抜いて生きるかが肝要だ』って死んだ婆っちゃが言ってたもん。
ちなみに享年112歳。マジでやばい魔女なんじゃないかって村中で噂されてた。死んだ時は『え!?あの婆っちゃ死ぬの!?』って幼いながら心底ビビった記憶がある。婆っちゃの実の娘、ウチの母さんですら呼吸も心臓も止めてドッキリ仕掛けてんじゃないかと本気で疑ってた。
そんでもって私は今でも疑ってる。
いやあの婆っちゃが死ぬとか信じられないよ、マジで。
きっと今も何処かで見張ってるに違いない。
まぁそんな魔女のそんな英才教育を受けて育った麗しきこの乙女がそんな汚らしい言葉や本心なんて死んでも吐くわけがないのだ。
…いや、ポロっと出た可能性も無くはないけど。
「うむ。読心術である。お前、中々に良い性格をしておる様だな。そこまで清々しい女は貴族連中だけかと思っておったぞ。」
あら褒められた。
「無論、褒めておらん。」
死ね。
うっかり自分の血筋が実は貴族なのかと思っちゃっただろ。
私の存在を巡ってめくるめくお家騒動が始まるのかと思ってワクワクしちゃっただろ。
乙女の本心という禁忌を内に秘めたまま死ね。
外に出す事なく朽ち果てろ。出来るだけ惨たらしくな。その死に様、私の恥という感情が満足出来るぐらいの凄惨であれ。
乙女の本性なぞ曝かれて良いものではないのだ。
「小娘よ、照れ隠しが少しばかり物騒すぎないか?心を読んだだけなのにその矮小な脳内で我、3回も殺されたのだが。」
「うるせぇよ。」
こっちは乙女の心っていう神域を無遠慮に覗き込んだ罪人に対して想像死刑3回で済ませてやったんだよ。
有情だよ、私ゃあ。
てかなんだよ『読心術』って。
勇者パワーのひとつか?
世の中生きづらそうな能力貰っちまったなぁ。この世の人類、全員信じられなくなりそうじゃん。でもまぁ逆に信じるに値する人をピンポイントで見つけられるかもって考えたら悪くない能力なのかもね。
え?私?私はほら、疑心暗鬼になってヤバそうだからそれ系は要らないかな!
もっと生活を直接便利にしてくれる能力が良い。お金が手から湧いてくるとかさ。
あぁでも、うん、お前にお似合いな能力だと思うよ。
そのまま人間不信に陥って欲しい。でもって二度と話しかけてくるんじゃないぞ。
「曝く」で普通は「あばく」とは読みません。意図的な誤用表現なのであしからず。
普通は「さらす」とかって読むはず。間違ってたらごめんちょ。