この世界には親戚が多すぎる
この世界中には偉大なる『ゆうしゃ』の血筋が、そりゃもう至る所に存在していて、街の中で適当に人を指差せばそりゃもう多分『ゆうしゃ』の末裔。
しかもそれは一般的な『ヒト』に留まらない。
ありとあらゆる垣根を越えて、———もとい、越えてしまって———種をばら撒きにばら撒いた結果。大凡『ヒト』との間に子を残す事が出来る生物は基本的に『ゆうしゃ』の末裔となった。
ちょっと森に分け入ってドリアードを見つけたとしよう。
そのドリアードはきっと『ゆうしゃ』の末裔である。
草原にオークの村があったらおそらく『ゆうしゃ』の末裔の村である。
山間にゴブリンの集落があればたぶん『ゆうしゃ』の末裔の集落である。
空にハーピーの生息地があれば十中八九『ゆうしゃ』の末裔の生息地である。
それもこれも、『ゆうしゃ』の子供達が優秀であった事も原因だろう。
どこでも『ゆうしゃ』はモテた。当然だ。『まおう』の脅威に晒された時代に神様から遣わされた英雄だ。そりゃ惚れるのは理解できないこともない。その全てに手を付けたのは理解できないが。
そうして生まれた『ゆうしゃ』の子供もまたモテた。そしてまた、偉大なる親に倣い、種を蒔いた。
なにせ世界を救った英雄の系譜。権力的にも情勢的にも心情的にも、ありとあらゆる理性を持つ生物達に大人気であった事だろう。
何より、|彼ら(子孫)は『ゆうしゃ』の持っていた不思議な力を一部受け継いでいた。
例えば聖剣。立ちはだかったあらゆる敵を斬り伏せた聖なる剣。
例えば聖盾。敵の物理攻撃からだけでなく、毒や魔法なども防いだとされる聖なる盾。
例えば膂力。片手で一度に美女を50人持ち上げて見せたという尋常ならざるパワー。
例えば器用さ。裁縫はお手の物だったらしい。
例えば癒しの魔法。ありとあらゆる傷や病傷を瞬時に癒し、体力すら回復させたという。
例えば頑強な骨。巨大な魔物が放り投げた大岩を頭突きで受け止めたという。
勿論かの精力も。三日三晩乱痴気騒ぎをした後に平然と戦地へ赴いたという。
他にも様々な超人的だったり神に授けられたりした能力が子孫に受け継がれている事が発覚した。
で、世界の人々はその能力を残す為に頑張ったとの話だ。神から授けられた能力すら遺伝するってもんで教会も大慌てで門徒を差し向けたり、軍事国家が独占しようとしたり、そりゃあもう色々あったらしい。ちなみに独占は子孫多すぎて無理だったんだと。
それも遠い過去の事。
今や世界中には『ゆうしゃ』の子孫しか居ない、とまで言われるに至った。世代を重ねた事により血が薄くなったのか、『ゆうしゃ』の力も凄かったりしょぼかったりとまちまち。すごい能力を持った人は王宮だったり教会だったりで重用されるので、立身出世が楽らしい。
私の村にも既にウチの国の王宮から『来てね!』って予約されてるすごい女の子とか居るよ。え?うーん…大変そうだから羨ましくはないかなぁ。のんびり暮らしてるのが性に合ってるんだ。王都とか一生に一度は行ってみたいけど、それくらいで十分。お母さんも『欲張らないのが人生楽しく生きるコツよ』って言ってたし。
そんなんだからさ。
ホント困るっていうか、なんていうか。
「我は王都とやらに行くべきだと考えるがな。なにせ我は王だ。ならば王都とやらは我に相応しかろう?美味い物もありそうだしな!」
「要らないんだよなぁ……。」
「どうしたどうした溜め息などついて。何か嫌な奴でも居るのか?我が滅ぼしてくれようか?勿論対価は頂くが。……具体的にはだな、その、今蒸している芋をいくつかで手を打とうではないか。」
魔王、要らないんだよなぁーーー。