魔女とくっせぇ水
遅くなりました……。
「あらぁ、いらっしゃいロドルフ。そして聖女ちゃん」
ものすごい美人がいた!!
藍色の髪をショートカットにして、いかにも魔女ですっていう帽子をかぶってる。
切れ長の瞳は緑色で宝石みたいだ。
肌は美白、赤い口紅がすごく映える。
黒いレースドレスを着ていて、まぁなんとも豊満な胸。
思わず自分の胸見たのは仕方ない。
何食ったらそんなでかくなるんだよ……。
「さぁ、中に入って?準備は出来てるから」
「お、おじゃましまーす……」
「ふふ、そんなに緊張しないの。魔女に会うのは初めてかしら?」
地球にガチの魔女いて、なおかつ会ったことあったら奇跡だな。
というか、色気すごいな……。
なんか今からイケナイことするって感じが……。
「元の世界では魔女なんていなかったので……」
「あら、じゃあ魔法使いもいなかったのかしら?」
「いなかった……ですねぇ」
多分な!
「そうなの。じゃあ魔力の無い世界から来たってわけね」
「え、あぁそうですね。魔法はないし魔物もいません」
「じゃあ、一体どんな所だったのかしら?魔物がいないだけで、普通の動物はいたのよね?あ、こっちの動物は見た?違いはあったかしら?それとも…」
「そろそろ始めないか?」
いけないいけない。
あまりに話が続きすぎて王子に止められてしまったよ。
というか私は質問されてただけだけどな。
どうしてこうも女というのは話が長くなるのか。
「ハイハイ、もうちょっと聞きたいことあったけど先に済ましちゃいましょうか」
「えっと……魔力測るのって何するんですか?」
「それはね、……これよ」
ん?
壺だ。
茶色くて大きな壺。
壺と言うより甕かな?
………水晶だと思ってた。
ちょっと楽しみだったんだけどなぁ。
「ちょっと覗いてご覧なさいな」
「んー、……臭っ!!ヴォエ!!くっさ!!!」
「ル、ルリ!大丈夫か!?」
「ルリ様!女性が出してはいけない声でしたぞ!お気を確かに!!」
生臭〜い………。
何この臭い水!色も赤いし濁ってるし!
……。
生臭くて……赤い……。
ま、まさか。
「うっふふふ。これはねぇ、瘴気をたぁっぷりと吸い込んだ、魔獣の血を混ぜた特別な水なの」
「臭いわけでふね……おぅえ!!」
「………うっ、リリアム……。本当にこれを使えば聖女の魔力を確かめられるのか?」
王子が涙目になりながら訊ねる。
「もちろん」と、ごく普通に返されるが誰も会話を続けられない。
リリアムさん以外、えずきながら甕を覗いている。
なんでリリアムさん平気なんだ?
こっちはさっき食べたもの吐きそうなんだが……。
「この水にあなたの……ルリちゃんだったかしら。……うん、ルリちゃんの血を垂らして混ぜるのよ。もし、彼女が正真正銘聖女だったなら、変化が起こるはずだから」
「ん?……魔力がどれだけあるか、とかじゃないんですか?」
「それは後。まずは確かめなきゃいけないでしょ?」
それもそうか。
ってか、これで聖女じゃあありませんとかなったら、私召喚された意味無くね?
ていうか血を垂らすって言った?
え?血とるの??
いつの間にか、リリアムさんの手には小さなナイフが握られてる……。
あ、聞き間違いじゃなかったんですね。
「ふふふ、じゃあ指を貸して?大丈夫よ〜。ちょっとチクってするだけだから」
「あっいや、あの優しくお願いしま」
「えい」
「あ痛ぁぁ!?」
迷いなくやりよったこの人!!!
うへぇ……、結構深くいったよねこれ……。
思ったより血が出るんですけど……。
「じゃあちょっと混ぜてっと」
「これ結構血が出るんですが……」
「ぐるぐる〜」
「あ、スルーですか」
ニコニコしながらかき混ぜるリリアムさん。
結構自由人だな、この人。
「……!来たわ」
「え?」
血がダラダラ流れる指に気を取られていると、リリアムさんが静かに声を上げた。
皆一斉に水甕を覗く。
なんだこれ……。
さっきまで真っ赤だった水が、澄んできてる……?
底の方に赤いのが固まって、上澄みが出来てきてるのか?
それに匂いも全くしなくなった。
「これは……リリアム、この反応は聖女の証なのか?」
「ちょっと待ってちょうだい」
そういうと、リリアムさんは奥の本棚から本を取り出して何か調べ始めた。
え、どうしよう。
これで聖女では無いとか言われたら……。
「ルリ、大丈夫か?顔色が悪いぞ」
「え?あぁ、大丈夫ですよ」
「ルリ様、無理をなさらないでくださいね」
「ほんと大丈夫です、はい」
いや、覚悟決めたのにここまで来て「聖女じゃあないですねー」って言われたら、さすがに悲しいわ。
まぁ、振り返ったリリアムさんの様子で杞憂だと察するけど。
「安心してちょうだい、ルリちゃん!この反応は確かに聖女の魔力が宿っているって証拠だわ!」