聖女とは
「それで、聖女って一体何をすれば良いんです?」
「そうだな、先ず聖女とはどんな人物なのかというのを説明しよう。と言っても、古い伝説のようなものだがな」
まぁ、そこからだよな。
「聖女」と呼ばれて持て囃されるだけのお荷物なんて御免だし、しっかり目的と役目を確認しなければ。
それが、私に遂行出来るものなのかは分からないが。
「聖女とは、先ほど出たように聖なる力……浄化の力を持つ女性の事だ。男性の場合は聖者、勇者と呼ばれる。聖女は各地にある神殿にある、【ポータル】と呼ばれる水晶に魔力を込めることが出来るんだ。幾ら魔力を多く持っていたとしても、聖女や勇者以外には絶対出来ない。聖なる力だからこそ大規模な浄化が出来る。それで一帯を浄化した後、瘴気が溢れ出たヒビを修繕するんだ」
「なるほど?つまり、瘴気が溢れる所はやっぱり世界に点在していて、全てを浄化しないと悪夢は止まらないという事ですか」
「そうだ。暫く旅をする事になるが、それでも構わないだろうか?」
旅か……。
そう言うのはやってみたかったので嫌ではない。
実は、私の幼い頃の夢は一人旅をすることだったのだ。
恥ずかしい話、早い時期から厨二病にかかり、一人旅をして武器を使ってもらい刺客と闘うなどというイッタイ妄想をしていた。
いや、思い出すと本当に恥ずかしいな。
「旅かぁ、全然構わないですよ。不慣れだから体調とかに影響が出るかもしれませんが」
「体調の事なら、医療術者を同行させるから安心してくれ。勿論、無理のないようなスケジュールを組む」
「あ、ありがとうございます」
お医者さん?がいるなら安心だ。
まぁ、怪我をするかもしれないしやっぱり必要だよね。うん。
「取り敢えず、『聖女とは穢れたものを浄化する者の事』だと言う認識がわかりやすいだろう」
「ふむ、理解しました」
「では、早速だがこの後魔力を調べよう」
「了解です」
あれかな、よく小説とか漫画である水晶に魔力を込めると色々分かる〜ってやつ。
ちょっとドキドキするな。
話もひと段落したっぽいし、ケーキ食べよ。
異世界のケーキか。
あのおなじみな三角形だが、スポンジは濃い茶色だ。
クリームは白くてふわふわしているから、あまり変わらないかもしれない。
上に乗ってるのは………ベリー系の果物かな?
ワクワクしながらフォークを突き立てる私はこの後少し驚くことになる。
なんと、スポンジ部分が硬い!
タルト生地みたいな感じだ。
「………」
「どうした?ゴミでも混じっていたか?」
「あ、いや。この世界のものは初めて食べるので」
「あぁ、それもそうか。ここの菓子職人は腕が良くて作るものは全て美味い。期待しても良いぞ」
おお。
ちょっと誇らしげだ。
もしやこの王子、甘いもの好きかな?
自分が好きな物をおすすめする時ってこんな感じになるよね。
………スポンジ硬いねって言わんとこ。
もしかしたら、このケーキがそういうものなのかもしれないし。
意を決して口に運ぶ。
「!!……」
「ど、どうだ?」
「おぉ……美味しい」
「!そうか。口にあったようで何よりだ」
失礼だが、思ったより美味しい!
生地はサクサクした歯触りで全粒粉を使った様な素朴な甘さだ。
クリームは甘くてまろやかで生地の味と結構合う。
ただ硬さゆえ、フォークをたてるとクリームが押し出されるのが難点かな。
「いやー、あっちのはふわふわスポンジ生地だったけど。これも美味しいです。甘いもの好きなんですよねぇ」
「な、そうなのか?ケーキは皆しっかりした生地じゃないのか?」
え、ガチでこれがデフォなの?
まぁ、美味しいから良いか。
「うーん、しっかりした生地はタルトとかですかね?あまりこういう形のケーキは見ないです。あ、でも生地は違えどミルフィーユとかが似てるかな?」
「たると?みるふぃいゆ?そういうものがあるのか……。」
「え、こっちでは無いんですか?………あ、名前が違うのかもしれませんね」
異世界って豚とか牛とか、形は同じでも違う名前だったりするもんね。
小説情報だけど。
王子はタルトとミルフィーユが気になるのか、「うちの職人は作れるだろうか」とかブツブツ言っている。
やっぱり甘いもの好きだな。
しかし、妙だな。
王族とはいえ、危機に陥ってる状況でこんな豪勢な物が食べられるのだろうか?
砂糖とかミルクとか高級なんじゃないのかな?
「あの、大変な事になっているのに、こんな豪勢な物をありがとうございます」
「ん、気にすることは無い。全てこの国で賄える物だ。我が国は食料に関しては困っていないからな」
「そうなんですか?」
「あぁ。我が国はあまり輸入食品に頼っていないんだ。それに魔獣の被害があると言っても、食糧難になるほどではない。しかし、慢心していられる訳では無いからな。だからこそ、早いうちに君を呼んだという訳だ」
あ、そういう事。
確かに食糧難になったらもっと大変な目にあってるだろうな。
先読みが出来るのは良いトップの証拠だ。
多分。
「いやぁ、それじゃあ早く行動しないといけませんね」
「そうだな。だが、君は来たばかりで慣れていないだろうし、準備も有るだろうから長くても2週間ほどここに居てもらう。後で部屋に案内させよう」
「分かりました、よろしくお願いします」
そう言えば、私って寝たままの姿で来てるじゃん。
白いシャツに黒いスキニー。
着替えるのが億劫でそのまま寝ちゃったんだよな。
どうせ朝風呂するしって考えてたから……、部屋着じゃなくて良かったってちょっと思ってる。