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把握



皆が涙ぐみながら土下座をする。

これは謝罪ではなく感謝らしい。

もう本当に頭を上げて欲しい。

恩を感じるのは別にいいが、こちらとしては実感もないし何一つやれる事が分からない状況なんだ。


とにかく、この世界の事を少しでも頭に入れなければ……。


「あー、もう分かりましたって。頭を上げてくださいよ。藁にもすがりたくなる思いも分かってますから」

「せい……ルリ様!この度の御恩、この魔術師ダールの一生を掛けてお返し致します!」


先程の壮年ローブ男はダールと言うらしい。

綺麗に整った顔を涙で濡らし、そりゃもう深々と頭を下げた。

だからやめて欲しいんだってば。


「いや、恩返しとかも良いって………いや、それは後々考えます」


多分、ここで折れなきゃ本当に一生付いて回られる気がする。

こうなってしまった人は何処か落とし所を作らないと、自己犠牲で何かやらかしそうだ。


「えー、改めまして。初めまして、不知火瑠璃と言います。ルリでいいです。ついでに様を付けるのもやめてください」

「ルリ、こちらも改めよう。俺はこの国の第一王子、ロドルフ・フォン・グランディウスだ」


何時までもここに居ても……という事になり、私達は部屋を移ることになった。

前を行く王子の後ろをついて行く。


いやー、これは間違いなく城ですわ。

幅が広い廊下に赤い絨毯。

壁は真っ白で柱なんか金色の装飾が施されていた。

大きな窓ガラスとかもうあれじゃん。

ロープ使って外からバリーン!!って侵入したくなるくらいセンスあるじゃん。

これが映えるって奴かな。


まぁ、脳裏に浮かぶのはゾンビ撃ち倒す某有名ゲームだが。

あれは犬だったけどな。


「さぁ、入ってくれ」

「失礼しまーす」


いつの間にか着いたらしい。

ドアを開けた先にあったのは、恐らく応接間らしき部屋だ。

中央にある大きなテーブルと椅子。

まぁ間違いないだろう。


知ってるのと違う所は豪華さだけだ。


「お前達も中に入ってくれ」

「はっ」


王子の声で、扉の前で止まっていたローブ男達も入ってくる。

そうか、当事者と言えど王子の許可が無いと入れないのか。

男達は当然、王子の後ろに並んで立った。


「ふむ……。そこの君、お茶を」

「かしこまりました」

「えっ」


扉の方を見たらメイドさんがいた。

全然気付かなかったよ、ビビったぁ。

薄い水色の髪を肩まで伸ばしたメイドさんは部屋から出ていってしまった。

あー…可愛かったなぁ、あのメイドさん。


「さて、もう一度礼を言わせてくれ。この様な頼み方した俺達に、協力すると言ってくれてありがとう」

「いいんですって。そう何度も頭下げてちゃ駄目ですよ。王子なんですから」

「いいや、きっと俺は貴女にずっと感謝するだろう」

「でも、現時点では何も出来てませんよ」

「応えてくれただけでありがたい」


この王子、人が良すぎて心配になってくるな。


「この世界について、知りたいこともあるだろう。なんでも聞いてくれ」

「あ、じゃあ地図見せてもらってもいいですか。それと被害って言うのを一通り教えて頂けるとありがたいです」

「分かった。誰か、地図を」

「はっ、こちらに」

「ありがとう」


ダールがそっとテーブルに地図を広げてくれる。

用意がいいな。


「この地図の……ここが俺達の国だ。文字で国名が書いてあるが、………読めるか?」


いや、全くわからん。

これが異世界の地図かー、とか呑気に見てたけど文字はさっぱり分からない。

流石に日本語表記じゃ無いよなぁ。

どう頑張っても、私にはアルファベットのような何かにしか見えなかった。


「いや、無理ですね。読めない」

「やはりそうか。被害がどうなのか知りたいと言っていたから、纏めたものを読んでもらおうと思ったのだが口で説明しよう」

「すいません」

「なに、ルリが気にする事じゃない」


そう言って優しい笑みを浮かべる王子。

あっぶねぇ!危うくロイヤルスマイルに殺られる所だったじゃないか。


「瘴気が溢れてきたのは半年前。最初に被害を受けたのは友好国である隣国だった。暴走した魔物が街に入ってきたんだ。運悪く、姫の婚姻の式典が行われている最中にな」

「うわ、結婚式なのに……」

「あぁ、騎士団が奮闘してくれていたが……。箍が外れたような魔物達は引き際なんてものも知らず、全力で暴れ回ってな。鎮圧するまでに相当な数の騎士と民が犠牲になった」


想像以上に酷い被害だ。

一瞬で地獄絵図になったら、目撃した人や被害者はトラウマを植え付けられてしまう。

姫や王様達が無事で、魔物を鎮圧出来たのがまだ救いか。


「その事件からどんどん被害が出てきた。この国も……どれだけ対策しようと魔物の襲撃で犠牲が出る」

「結界……とかは」

「一流の魔術師や魔法使いが張ったのだがな、紙1枚同然だったよ」


そんな。

一流の人達が頑張っても突破されんなら、私がいた所で何も出来ないじゃないか。


コンコンコン。


不安や恐怖に飲まれる中、ノックの音が鳴り響いた。

王子の返事と共に入ってきたのは先程出ていったメイドさん。

あぁ、そう言えば王子が茶を頼んでたな。


「失礼致します」


横から出された紅茶……らしき物とケーキらしき物。

甘い匂いが、少し心を落ち着かせてくれた。








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