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目が覚めたら異世界




────ま………聖女さま、お願いします…………────




────この国…いや、この世界は破滅しかもう残されて……────




────どうか、どうか力をお貸しください……────









「んあ?」


あ?なんだ、人が気持ちよく寝てる所に語りかけて。

明日も仕事なんだよ、ゲームして夜更かししたからまだ寝みぃんだよ。

寝かせろ。


なーんて、思っていた私は目を開けて呆然とすることになってしまった。


眩しさを覚えて、寝不足でしぱしぱする目をこじ開けるとそこは自宅ではなかった。


自室より広い部屋に数人の男達。

高い天井を支えている太い石柱に、大きな木製の扉。



「はぁ!?」


思わず素っ頓狂な声を上げてしまうというものだ。

なんだ、私はふかふかベッドで寝てたはずでかったい石畳に寝た覚えは無いし、数人の男達を囲った覚えもないぞ。


「おお!聖女様がお目覚めになられたぞ!!」

「聖女様!どうか、どうか力をお貸しください!」

「聖女様!聖女様!」


いや、いきなりなんだこいつらは。

何やら模様の書かれたローブを纏った男達が、今にも泣きそうになりながら跪いて懇願してくる。


あ、夢か。

なんかのファンタジー的な夢見てんだな。

という事は振り向けば聖女様とやらが居るんだな。


だが、私の予想は大きく裏切られる。

辺りを見渡してもそんな女は居ないし、というか魔法陣みたいなのに寝っ転がってんのは私だけだ。






これ、聖女って私じゃないかやだー。






「お前達、聖女は召喚されて間もなく混乱されている。一気に喋るんじゃない」


男達の後ろから華美な服を着た男が歩いてくる。

うわっ、王子って感じだな。

銀髪に青い目+煌びやかな飾りが付いた青い服でロイヤリティ半端ないぞ。

確実に日本人じゃない。

よく見たら周りにいるローブ男達も日本人顔してない。


え?一晩経たずに外国へ誘拐されたの?


「聖女よ、この者達が失礼した。俺はこのグランディアラ王国の第一王子、ロドルフという」

「……は、はぁ。これはご丁寧にありがとうございます……?」


いや、こっちとしては名前なんかより先に状況を説明して欲しいんだが。

そしてそんな国の名前なんか聞いた事ない。


「貴女を呼び出したのは理由がある。この国………いや、この世界の人類を救う為に聖女の力を貸してほしいんだ」


おお、説明してくれたぞ。

有難いが全くわからん。


「……あの、スケールデカイな…いや、そうじゃなくて。私は聖女じゃないんですが」

「いえ、貴女様は聖女に間違いありません!この召喚陣は聖なる力を持つ者しか呼び寄せないのです」


すかさず近くにいた壮年のローブ男が口を挟んできた。


「…そ、そうですか。……というか、この世界とは?それに救うって………何か戦争でもされてるんです?」


言外に「ここ、地球じゃないの?」だ。

っていうか本当にファンタジー的なやつ?

召喚陣ってなに?ドッキリ?


「……実は魔族や魔獣を狂わす「瘴気」が突如溢れ出した。流石にそこかしこで、とまではいかないが暴走した魔獣達による被害が後を絶たない。そこで、俺達は伝説で語られるモノに手を出した。……出してしまった」

「古い文献によると、瘴気が溢れ出すのは数百年単位。それを終わらせるには我々と違う世界に住んでいる者を呼び出し、浄化をしてもらうしかない。……我々は、藁にもすがる思いでその召喚方法を探し出しました」

「浄化の力を使えるのは、聖女様か勇者様しかおられないのです」


王子に続いてローブ男達も口々に説明してくれる。


ほんとに夢じゃないの?ドッキリでもなく?


「まぁ、大体状況整理は出来ましたけど……」

「見ず知らずの上、貴女には関係ない話をしているという事は自覚している。だが、俺達は自国も民も、この世界も失いたくない。巻き込んでしまったことは深くお詫びする。望むなら俺を殺してくれたっていい」

「はあ!?」

「ロ、ロドルフ様!何を仰っているのです!!」


すっごいこと言い始めたぞこの王子。

待て待て、一国の王子が何言うてはりますん?

ほら、ローブ男達もおっかなびっくりですわ。


「どうか、どうか頼む…!力を貸してくれ!」

「ロドルフ様!首ならわたくしめが差し出します!王子ともあろう方がそのような事をなさらないでください!」


「いや、首出すなや」


思わず素が出てしまったが仕方ない。

何故か命とられる前提で頭下げる王子達にため息しか出ない。

初めまして死ねってか?

そんな苛烈な性格しとらんわ。


「オーケイオーケイ。まぁ、まず落ち着いて下さい。誰も殺しませんから」


そう言うと今度はキョトンとされた。

おかしい事言ってないだろ解せぬ。


「せ、聖女様は怒りが湧かないのですか?いきなり知らぬ場所へ連れてこられ、今までの生活も壊された上に見知らぬ者達の為に働けと言われているのですよ?」


酷く罪悪感MAXみたいな顔で伺ってくるローブ男。

あぁ、こいつは演技じゃないな。

さっきの王子もこの男も、本当に命懸けで私を呼び出したのか。


これで演技だったら泣くぞ。


「うーん、………確かに仕事も友人達も好きな遊びも全部奪われたっていうのは分かります。けど、ここまで頭下げられて、しかも普通なら会うことさえないお偉いさん?に頭下げられて、嫌ですとは言えないんですよ」


王子に頭下げさすとか恐れ多くて吐きそうだわ。


「………帰れないかも知れないんだぞ。それでも聖女は……貴女は俺達を見逃すというのか?」

「あ!?帰れない!?マジかよっ、ええええ………。おおぉぉぉ……………家族にも友達にも………一生会えない……?」


それを先言わんかい!!

マジかよ!じゃあ仕事ほっぽって来たことになる上、進めてる途中のゲームも遊びに行く約束も全部……!


「すまない!巻き込んでしまってすまない!」

「申し訳ありません聖女様!」


私の反応に今度こそ死んでしまいそうな勢いで謝られた。

四方八方から謝罪の嵐。

王子もローブ男達も土下座だ。


「うっ………。いや頭上げてくれます…?」

「だがっ」

「帰れないなら仕方ないですし」

「…………」


ぶっちゃけこうなったらしゃーない。

帰りたい気持ちはすごく強いし、実は泣きそうだがここで泣いても帰れないし。

この人たちは本当に切腹でもしてしまうんじゃないかって雰囲気で放っておけない。


「聖女様……」

「あー、その聖女ってやめて貰えます?なんか変な気分です。私はルリっていいます」

「ルリ……。俺達に力を貸してくれるのか?こんなに無礼な頼み方をした俺達に、協力してくれるのか?」

「はぁ、まぁできる限り……私にできる範囲内だったらやりますよ」



ここまで罪悪感抱いて、自身の国だけではなく世界にも気を掛けてて、自身の位なんて気にせず頭を下げる人を無碍にできるわけない。


こんな性格だから損なんだよなぁ、きっと。




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