表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女は猫から生まれる  作者: 畔木鴎
三章『紺屋の白袴』
31/44

一説『相反する意味』1

 ──目が覚めた。


 あくまで体感だが、そんなに気絶はしていないはずだ。

 能力なら使用者が離れれば効果が薄くなるから、それで目が覚めたのだろう。


 野次馬こそ居れどアンディスの姿は周囲になく、俺は誰かに道路の端に移動させられていた。


「な、なあ大丈夫なのか。あんまり急に動かない方が……」

「すみません。運んだのは貴方が?」

「ええ。それより体は」

「大丈夫ですよ、ちょっと精神攻撃受けてただけなんで。ありがとうございます。助かりました」

「いやそれヤバいんじゃ」


 隣で寝ていた明菜の体をゆすり、起きた彼女と共に他の人たちを起こしていく。

 親切な人が救急でも呼んだのかサイレンの音が次第に大きく聞こえてくるが、俺は構わずにリースさんに声をかけた。


「リースさんたちはどうやってここまで来たんですか?」

「レコさんが車出してくれたの。連絡して迎えに来てもらわないと」

「レコさんが?多田さんはどうしてるか分かりますか」

「多田さんはすぐに連絡が付かなかったから。……疑ってるでしょ」

「一応ですけど」


 携帯を取り出して耳に当てた彼女から離れたが、俺は彼女が僅かに目を細めたのを見逃さなかった。

 多田さんは結構古くからいる能力者だから、彼女も思うところがあるのかもしれない。


 明菜は周囲の人の視線が落ち着かないのか恰好が安定せず、ふらふらしながらフレアと話をしていた。珍しい組み合わせだ。

 まだ少し調子が戻らないのだろうハルは一度座り直して空を見ていた。


「大丈夫か?」

「先輩でしたか……、私の能力のコスパが悪すぎてちょっと」

「さっきは失敗したけど、助かったよ」

「自分が能力を使った相手もあんな気分なんだと思うと気が滅入って。あぁ、ごめんなさい。先輩とか全線で戦ってる人は皆そうなんですよね……」

「俺たちは、というか、俺は。自分の環境が、赤城さんのところの仲間を護りたいんだ。だから、相手の気持ちも分かる。アンディスも考え無しじゃなかったけど……、あれはもう生理的に受け付けないな」

「そういう地味に黒い性格してるところ、先輩らしくて私は好きですよ」


 地味に黒い性格って何なのか。少し聞いてみたい気はしていたが、それよりも先に救急車が来てしまった。

 人混みを割って白いボデーが姿を見せた。路地手前の大きな道で車を止め救急隊員が走ってくる。


「大丈夫ですか!!負傷者が五人居ると聞いたのですが!」

「あぁ、大丈夫です。申し訳ないですが回復しましたし」

「そこに座られてる方は」

「あ、私ですか?大丈夫ですよ」


 すくっと立ち上がったハルに救急隊員は驚いていたものの、一応来てください、と彼も引くことはなかった。まぁ仕事だからな。そりゃそうだろう。


「リースさん、どうしましょうか」

「仕事なのは分かってますけど、私たちには優秀な医者が付いていますし、申し訳ないですが……」

「そう言われてもですね、消防車も出動するような事態ですし、大人しく来てもらえると嬉しいのですが」

「警察の事情聴取もあるんでしょうけどね。ナル君、片付けだけでもしていきましょうか」

「手伝えることならもちろん」


 アンディスが悪いと言いたいけど、そう言ってられないのも分かっている。

 能力者が一般に出ていて、敵対している人物が居るということは、こういう結果を生むのだという事は分かっていたから。

 バーの備品もぶっ壊したし、車も駄目にしてしまった。手伝えることがあるのなら、もちろん手を貸す。


 渋々帰っていった救急車から遅れてレコさんから連絡が入り、近くのコンビニ停めたと来たのでもう少しだけ待ってもらいつつ、車が落ちた場所へと向かった。


 頭から落ちたのだろう車の周りには警察車両とレッカー車が止まっており、背中に冷たいものが線を引いたような感覚があった。今までは身内で処理できていたものが急にどうしようもなくなって、罪悪感が顔を出したのかもしれない。


「保険効きますかね」

「魔法少女保険があれば良かったんだけどね」


 結局は明菜の念動力でレッカー車に無理矢理乗っけ、簡単な事情聴取を受けて後日説明することとなった。警察も対応が分からないらし、内部はてんやわんやらしい。

 少なくとも上層部は俺たちの存在を知っているはずだが、表に出てくることを考えていなかったのかもしれない。


 車は廃車になった。当たり前だが。


 その次の日、俺は多田さんを捕まえて話を聞くことにした。

 多田さん。苗字は知っているが、名前は知らない。能力故にエラーとも呼ばれる彼は、二重人格ということもあって派閥の中でも少し異様な存在だった。

 便宜上、能力を使える方をエラー。能力が使えない方を多田さんと呼んでいた。見分け方がシャツの皺なので分かりにくいが、雰囲気で何となく見分けることは出来る。

 今はエラーだ。


「少し時間いいですか」

「どうかしました?」

「少し効きたい事が」


 彼はシャツを正し、「もちろん」と答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ