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サユは相変わらず元気が無かった。もう先生にチクったりはしていない様子だった。
サユは先生の前では元気に振る舞い、心配をかけまいとしていた。先生はこのクラスに平和が戻ってきたと思い込み、生徒の中にしつこく首を突っ込むことは無かった。
空は暗かった。遠くでは雷が鳴っていた。風は穏やかだった。
「……あのさ、もうやめない?こんなこと」
私は恐る恐るみんなに言ってみた。本当にちっちゃい声で、聞こえたか、聞こえないかわかんないような小さい声で。
「え?ミキ今なんか言った?」やっぱり聞こえてなかった。
こんなことを二度も言う勇気はない。「ううん、なんでもないよ」
私は誤魔化した。逃げた。私の心にある“正義の気持ち”を隠した。
私は最近とても気分が悪かった。食事も喉を通らず、サユのコトを見るたびに心が痛んで、泣いた。
毎日泣いた。下校途中は必ず泣いた。その涙は、サユへの同情や弱い自分に対しての涙。周りに逆らえない自分が悔しかった。
ある日私は例のいじめをテーマにした漫画を買った。
その漫画を読むと、泣けた。ストーリー自体が感動できたし、そのストーリーは私のクラスにあるいじめを思い出させるものだった。
そして、その漫画の中で、いじめを止める役目のクールな女の子がいじめっ子相手にこう言っていた。
『あんた達ってさ可哀想。人をいじめることでしか自分を表せないんだね。なんのとりえもないからいじめをするんでしょ?本当可哀想。自分の心をいじめでしか満たせない。自分の存在を表す方法が“いじめ”しかない。あんた達みたいなのが世の中のクズなんだよね』
その言葉に私はイラッとした。私はこの女の子に、クズと呼ばれた。でも私はクズなんかじゃない。私はクズなんかになりたくない。
でも、いじめをしている以上は一生クズだ。私は……クズから抜け出したかった。
心に“クズ”という言葉が響き渡り、そして私は決めた。ある決心をした。
私はクズを抜け出す。
―――次の日
天気は相変わらずだ。しかも今日は風が強い。雷が光る。
私は今日心にある事を誓ってきた。
漫画の、あの女の子のおかげで、私は一歩強くなれた。
本日付で私はクズを脱退します。
教室の扉を開けると、みんなサユへのいじめの準備をしていた。サユの机に接着剤を塗っていた。
作業するみんなに向かって、私はこう言ってやった。
「もうやめようよ!!こんなこと」言った。これで私はクズを脱退した。クズを脱退できた。
と思ったら……
「やっぱりね。あんたは裏切ると思ってた」ひとりの女子が言う。そして私に接着剤のチューブを投げつけた。
「サユのコトかばってあげるんでしょ?エラーいね」
「別にそんなんじゃない!」私は反発する。だって私はサユをかばおうとかそんなカッコイイコトを言うつもりじゃない。ただ、クズから抜け出したかっただけなのだ。
「んじゃあサユのコトはもう許す。でも今度のターゲットは……」みんなが微笑していた。
「あんたが今度のターゲットね」
……本日付で私はいじめのターゲットになった。